SS21 以心伝心?

「だーれだっ?」


 と、ソファに座る俺の後ろから『誰か』が首筋に抱きついてきた。

 ふわりと、甘い香りが空気に溶けていく様が僅かに感じられる。


「この部屋に俺ら以外の『誰か』がいたら普通に恐怖なんだが」


 なお、当たり前だが『誰か』とは唯華である。


「あと、こういう時って普通目隠しじゃない……?」


 あの、結構ギュッと抱きしめられてるんで、なんというかこう密着感が……。

 あと、首筋に当たる吐息がちょっとくすぐったいんですが……。


「ヒントはー、秀くんの大好きな人でーす」


 俺の疑問に答える気はないらしく、白々しくそんな声。


 ていうか俺、さっき実質解答したよな……?

 ハッキリ言わないと解答と見做されないタイプのやつ……?


「……唯華」


「正解っ!」


 そう言って唯華は俺から離れ、今度はソファを回り込んで俺の隣にちょこんと座った。


「んふふっ……秀くんったらー? 大好きな人、って言われて真っ先に浮かぶのが私なんだー?」


 罠に掛かったとばかりに、唯華はニマニマ笑ってこっちを見つめてくる。


 ……でもまぁ、そういう意味では。


「そりゃ、俺の『大好きな人』の一番目は唯華だよ」


「ん、ふっ……」


 んんっ、なんだだろう……?

 今度はなんだか笑うのに失敗したみたいな感じで、急に顔を背けたけれど……。


「あーっと、何者かの気配を感じた気がしたけど気のせいだったかー」


 怖いこと言わないでくれる……?

 ていうかそういうの、唯華の方が駄目だったよな……?


「ともあれ!」


 と、再度振り返ってくる。


「正解したご褒美に、夕飯のリクエストを聞いてあげるねっ!」


 どうやら、元々これが本題だったようだ。

 一ネタ挟むところが、実に唯華らしい。


「そうだなぁ……」


 考えてみると、パッと思い浮かんだメニューがあって。


「さ……」


「待った!」


 と、そこで唯華が手で制す。


「とはいえ漠然と聞かれても困ると思うから、私の方から質問形式で選択肢を狭めていくことにするねっ?」


「いや、俺もう具体的に思いついて……」


「とはいえ漠然と聞かれても困ると思うから、私の方から質問形式で選択肢を狭めていくことにするねっ?」


「……はい」


 ループの気配を感じて、俺は素直に頷くしかなかった。

 この構文、そろそろ禁止カードにすべきでは……?


 ともあれ……「待った」って言ってたし、唯華も俺が何か思い付いたのには気付いてるんだろうけれど。


 どうやら、ゲーム形式でそれを当てたいらしい。


「ちなみに秀くんは、『はい』、『たぶんそう、部分的にそう』、『分からない』『たぶん違う、そうでもない』『いいえ』の五つの選択肢から答えてね」


「名前当てるアレのフォーマットじゃん……」


「それじゃ早速、始めちゃおうっ!」


 唯華は、ムンッと気合いの入った表情でガッツポーズを取った。


 ……かと思えば今度は腕を組み、クイッと片方だけ口元を上げて。


「魚料理?」


「ふはっ!?」


 名前当てるアレの人の表情トレースが完璧過ぎて、思わず笑ってしまった。


「ん、ふふっ……えーと、『はい』」


 それから、まだちょっと漏れる笑いを堪えながら当てはまる選択肢を答える。


「青魚を使いますか?」


「『はい』」


「魚は切り身で使われますか?」


「『はい』」


「汁気はある?」


「『はい』」


「主に日本で食されている?」


「『はい』」


「青魚以外の具材は使わないことが多い?」


「『はい』」


「味は、比較的濃い方?」


「『はい』」


「……味噌味?」


「……『はい』」


「……思い浮かべているのは、『さばの味噌煮』?」


「……『はい』」


 と、結局ストレートで言い当てられたわけだけど。


「ちょっともう秀くん、私の質問に合わせちゃったらゲームにならないでしょー?」


 どうやら俺が適当に全部『はい』と答えたと思ったらしく、唯華は不満顔だ。


「いやマジで、最初からさばの味噌煮を思い浮かべてたんだって」


「ホントにー? そんな、最初から最後まで全部『はい』で通ることなんてあるー?」


 唯華は、まだ疑わしげな目だけど……それは。


「それだけ俺らの……気持ちが通じ合ってる、ってことなんじゃないか?」


 流石に口に出すのはちょっと恥ずかしくて、途中で目を逸らしてしまった。


 視界の端に、唯華がパチクリと目を瞬かせる様が映る。


「ふふっ」


 それから唯華はおかしそうに、けれどどこか嬉しそうに笑った。


「確かに、そうかもねっ」


 やっぱ今のは、ちょっとクサかったかな……?


「ではでは~! さばの味噌煮、ご用意いたしまーす!」


「ん、ありがとな。そんじゃ俺は、先に風呂掃除済ませてくるよ」


「センキュー!」


 と、二人分かれて風呂場とキッチへと向かうのだった。



   ◆   ◆   ◆


   ◆   ◆   ◆




 秀くんと分かれて、キッチンに向かいながら。


「にゅふふふぅ……」


 私は、ちょっと気持ち悪い感じの笑みを浮かべていた。

 秀くんに見られないよう我慢出来たからセーフ……!


「そっかそっか、通じ合っちゃってるかぁっ」


 さっきの結果も、そうだけど。

 他ならない秀くんからそう言ってくれたことが、なんだか凄く嬉しかった。


「いつかは……」


 この・・気持ちも、通じ合えたら……いえ。


 通じ合わせちゃうんだから、覚悟しててよねっ!






―――――――――――――――――――――

更新間隔が空いてしまいまして、申し訳ございません。

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