第45話 Happy Wedding!

「プレゼントは、私」


 自分にリボンを巻いた唯華は、真剣な表情でそう言って。


「私の全部を、秀くんにあげる」


 俺の方へと、少し身を乗り出してくる。


 一瞬、そういう・・・・意味かと思ってドキッとしちゃったけど……すぐに、その真意は伝わった。


「お返しは、俺の全部……で、足りるか?」


 だから、そう返す。


「ん、もちろんっ」


 満面の笑みを浮かべる唯華。


「それじゃ……行くか」


「うん、そうだね」


 どこへ、とは言わなくてもお互いわかっていた。



   ◆   ◆   ◆



 というわけで。


「本当に、いいんだな? こっから先は、後戻り出来ないぞ?」


「ふふっ、最初から後戻りするつもりなんて少しもないよ。秀くんに再会した、あの日から」


 そんな会話を交わす俺たちの現在地は……市役所前である。


 手には記入済みの婚姻届他、必要書類等々。


 そう……ここまで結婚結婚と言い続けてきたけど、実のところ俺たちはまだ結婚していない・・・・・・・

 俺が今日十八歳になったばかりなんだから、当たり前である。


「それじゃ……行くか」


「ふふっ、それさっきも言った」


「あ、おぅ、そうだっけ……」


 緊張に身を固くする俺と違って、唯華はリラックスしている様子だ。



   ◆   ◆   ◆


   ◆   ◆   ◆



「ふぅ……」


 秀くんにバレないよう、小さく息を吐く。


 いやぁ……めっちゃくちゃ緊張するよねぇ……!?


 だって、これでいよいよ名実共に……なんて考えると余計に緊張してくるから、極力頭を空っぽにして臨むことにする。


 頭を空っぽに、頭を空っぽに……!


「夜間窓口って、こっちでいいんだっけ?」


「ぽてち」


「……唯華?」


 ……ハッ!? 頭を空っぽにし過ぎた!?


「や、ごめんごめん。うん、そっちのはず」


 慌てて早口でそう返すけど、頬がちょっと熱を持っていくのを自覚する。


 ──なんて一幕も、ありつつ。


「すみません……婚姻届の提出って、こちらで大丈夫ですか?」


「はい、承りますよ」


 秀くんが、窓口の職員さんに書類一式を渡す。


 職員さんが無言で書類の内容を確認している間、心臓の音がドキドキと高鳴って秀くんに聞こえちゃわないか心配だった……けど。


「はい、問題ないですね」


 一通り確認し終えたらしい職員さんは、あっさり頷いて。


「おめでとうございます」


 ニッコリ微笑んで、祝福してくれた。


 だけど、拍子抜けするくらいにあっさり過ぎて……実感がなくて、思わず秀くんの方を見てしまう。


 すると、ちょうど秀くんもちょっと呆けたような表情をこっちに向けてきたところで。


『ふっ……ははっ』


 たぶんお互いそっくりな表情してるんだろうなって考えるとなんだかおかしくって、思わず笑っちゃった。


 それから私たちは、やっぱり同時に正面に向き直って。


『ありがとうございます!』


 職員さんに、笑顔でお礼を言う。


 嗚呼……やっぱりまだ、実感はないけれど。


 これで、本当に……秀くんのお嫁さんに、なれたんだ。


「……にふふぅっ」


 あぁもう、顔がニヤけそうになっちゃうのを堪えるに必死だよう!



   ◆   ◆   ◆


   ◆   ◆   ◆



 市役所を後にしながら。


「これで俺たち、結婚……したん、だよな?」


 あまりにあっさりしてたもんだから、思わず隣の唯華に尋ねてしまう。


「ふふっ、たぶんね」


 唯華には、いつもと変わった様子はない。


 ……でも、そうだな。


 書類を提出したからって、急に何かが変わるわけもないか。


「唯華、この後は空いてるか?」


「もちろん」


「じゃあ……やることはもう、決まってるよな?」


「だね」


 だから。


『勝負!』


 俺たちは、これでいいんだと思う。


「ねぇ、今日のジャンルはどうする?」


「そうだな、久々に……」


「あっ、待って待って! 当ててあげる!」


「こんなの、ノーヒントで当たることあるか……?」


「秀くんは……『パズル系』って言おうとしてたねっ?」


「……なぜわかった」


「ふふっ……ここ最近密かに修行してたの、知ってるんだから」


「バレてたのか……」


「こないだ私にボコられたのが悔しかったんでしょー?」


「いやいや、あれはちょっと油断してただけだから」


「どうかなー? 私の得意分野だしねー?」


「ふっ……今日からは俺の方が得意分野と呼ばせてもらうさ」


「それは……うん。楽しみだね」


 そんな風に、俺たちは俺たちらしく。


「あぁ……楽しみだ!」


 親友同士の距離感な、俺たちの。



   ◆   ◆   ◆


   ◆   ◆   ◆



「……んふふっ」


「ん? どうした?」


「改めて……私、もう秀くんのモノになっちゃったんだなーって」


「ん……そして、俺は唯華のモノになった」


「えへへー、私のモノー!」


「っとと……きゅ、急に腕に抱きついてくるなよ」


「いいでしょ? 私のモノなんだから」


「それはまぁ……」


「ねっ、秀くん」


「うん?」


「私ね、今」


「うん」


「人生で……いっちばん、幸せかも!」


「ん……そうだな。俺も、そうかもしれない」


「だけどね、それはきっと今日でお終い」


「えっ……?」


「だって……明日は、もっと幸せな日になるんだから!」


「ふふっ……あぁ、俺たちならきっとそうなるな」


 時に恋人みたいなこともしちゃったりする、私たちの。



   ◆   ◆   ◆


   ◆   ◆   ◆



 新婚生活が、始まる。










―――――――――――――――――――――

これにて、第一章完結です。

第二章開幕までは少々お時間いただきたく、それまでは週一くらいのペースでSSを投稿していければと思っております。


ここまで読んでいただきまして、誠にありがとうございます。

「面白かった」「続きも読みたい」と思っていただけましたら、少し下のポイント欄「☆☆☆」の「★」を増やして評価いただけますと作者のモチベーションが更に向上致します。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る