第13話


 朝起きて、俺とアリスは身だしなみを整える。

 昨日の酒飲んだ時の事は話題にも上がらなかったし、あれで俺らの関係がギクシャクするって事も無かった。

 本当に良かった。


 宿でのチェックアウトもつつがなく終わり、宿の外に出るとティリスがちょうど坂を下ってこちらに向かって歩いていた。


「おぉ!ティリス!」


 俺が手を振ると、ティリスは小走りで近づいてきて輝かしい笑顔を見せてから頭を下げる。


「ピーターさん、アリスさん。おはようございます」

「おはよう」

「おはようございます」


 ティリスと合流した後、宿から少し離れた店に入る。

 朝食と今後の話をするためだ。


「そういえば、ティリス。マットの店って知ってるか?」

「え?あ、申し訳ありません。マットさんのお店は知らないです……。どうかしたんですか?」

「いやぁ、アイツ宿代の精算もやってくれてたみたいでな。街を出る前に挨拶くらいしておくかと思ったんだが」


 流石に昨日飲んだ酒代は払ったが、寝泊まりの基本料金はマットが支払い済みだった。

 なんも言わずにやったこととはいえ、せめて一言くらい礼を言いたい。


「宿の方はご存じなかったんですか?」

「ああいう所で個人情報は出せないそうだ。宿側にも信用はあるだろうし、こればっかりは仕方がないな」

「そういう……ものなんですね」


 ティリスはあんまり宿でこういう事を聞いた経験がないのかキョトンとしていた。

 まぁ、日本でも宿側の守秘義務は徹底していたからな。

 異世界って言ってもその辺は変わらないらしい。


「すごくお世話になりましたしね。ワンピースも貰っちゃいましたし」

「ま、次に会った時に礼でも言えばいいか」


 どんだけ護衛料が浮いたのかは知らないしな。

 と、そのタイミングで朝食が運ばれてきたので、それぞれ食事を始め、話はいったん打ち切られた。


 んで、全員が食い終わったところで、ティリスがゆっくりと手を挙げる。


「その……この後の事なんですけど、ご相談がありまして」

「あぁ。どっか行きたいところでもあるのか?」

「はい。ここから北の方に進んだところにある祠なんですけど」


 ほこら?


「え、何しに行くの?」

「この国には【アヴァロン聖教】という宗教が根付いてまして。実はボクもその宗教に入っているんです」

「ほうほう」


 宗教って馴染み無いからわからないけど何すんだろ。


「それで、その宗教の神様が祭られている祠が各地に建立されてまして、それらを巡り、祈りを捧げることを巡礼と呼ぶんです」


 巡礼……、あれか!聖地巡礼みたいな感じなのか。

 そっちなら友人に誘われて行ったことある。あんこう鍋が美味しかった。


「祠っていくつあるんだ?」

「祠は全部で四つあります。ただ、国内の東西南北に点在しているため、なかなか一度に全部巡るのは難しいんです。出来れば、この機に全部回って見たいなと……」


 そこでティリスが少し申し訳なさそうに目線を下げる。


「ぼ、ボク個人のやりたい事ですし、あんまりお二人には関係ない事だって言うのはわかっているんですけど……。ダメでしょうか?」


 そんなティリスの言葉を受けて、俺とアリスは互いの顔を見る。

 どちらにも不満はない。


「別にいいよ」

「そこまで気にしなくても良いですよ。私もピーターもどうせ行きたいところなんて無いんですし」

「その通りだが、それを他人に言われるとなんか否定したくなるな」

「じゃあ、ピーターはどこに行きたいんですか?」


 そんなアリスの挑発に俺は腕を組んでわざと考えるふりをする。

 そして、目をカッと見開いて一言。


「北にある祠に行きたい」


 こうして俺らは次なる目的地を定めた。





 それぞれの胸中に異なる想いを抱き、物語は次の幕へと進む。




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