第8話


「いやぁ、しかし驚きの連続ですね」


 ようやく旧坑道に入り込んで3時間。

 マットは壁に背を預けながら、感嘆の声を上げた。


「驚いてないで手伝ってやれよ。ワーキャー言いながら頑張ってるじゃないか」

「僕もピーター殿の考えには賛成しているので。若者の成長のためとあれば涙を呑んで傍観しましょう」


 マットは商人らしく胡散臭い笑顔を浮かべながら、魔物に立ち向かい、魔物から逃げ、魔物に攻撃しているアリスとティリスを眺めている。


「荷物持ってやってる恩があるだろ。少しは働いてくれ」


 俺がそう言うとマットは両手を挙げて、首を横に振る。

 諦めたか。


「そういうことでしたらお手伝いしましょうか」

「手伝う程度でいいからな。あんま倒し過ぎるなよ」

「はい。わかりました」


 マットは剣を抜き、アリスとティリスの加勢に走る。


 この坑道に入る際、マットは自分の馬と荷車をコーニー・ホールへと置いて行く予定だった。

 坑道内は入り組んでいるし、荷車が入れるほど広くもない。

 荷車が入らないなら馬を連れて行く意味もない。

 さらに、信用できる知り合いもこの場には多くいたため、荷車を預かってくれるツテもあった。


 だから、俺は恩着せがましく荷物持ちを申し出た。


 《個人収納空間(ストレージ)》の説明を行い、いくつかの条件をマットに提示。

 この辺は商人と言うべきか、マットは俺の条件を快諾した。


 条件の一つが、アリスの服装。

 今のアリスはダボダボスウェットのダサい少女ではない。

 動きやすい薄いカーキ色の長ズボンに、薄いピンク色の女の子らしいシャツ、ポケットがたくさんついている薄いベージュ色のベスト。

 全体的に色味が薄くなったな。


 スカートとかも提案したんだけど、動きづらいと却下された。

 動きやすそうだったのに。

 パンツが見えるかもしれないという不安があったのか?


 ッパァン!


 流れ弾がこちらに飛んできたので、それを避ける。

 攻撃してきたアリスを睨みつけると、なぜかアチラも俺を睨んでいた。


「どうした?いや待て、変な事は考えてたけど、イヤらしい内容じゃない!」

「こんな状況で何を考えてるんですか!?って、そういう問題じゃありません!ちょっとは手伝ってください!なんですかこの坑道!魔物が住んでいるってレベルじゃないですよ!?」

「坑道内で大声はやめてくれ」


 耳に響いてうるさい。


「私もティリスも魔じゅ……魔法修行の一環と割り切ってましたけど、流石に多すぎます。マットも手伝ってくれてますが、焼け石に水です」

「サウナみたいで良いじゃないか」

「ピィ~タァ~……!」


 軽口をたたいたのが気に障ったのか、アリスにめちゃくちゃ叩かれた。

 痛くはなかったし、素直に頼ってもらえるのは嬉しい限りだ。

 だけど……。


「課題は多いなぁ」


 ボソッと口から出て行った言葉は三人には聞こえなかったようだ。

 よし、次からはもっと大きな声で言おう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る