第7話


「アリスを狙ってる奴らの事情なんぞ知らんし、お前の命にどれほどの価値があるのかもわからない。だけどな、備えが甘すぎる」


 そんな簡単に諦めてくれるような奴らと甘く見たのがそもそもの間違いだ。


「それでもまぁ、良かったじゃないか」


 俺はしゃがみ込んで、落ち込むアリスの顔を無理やり上げて笑顔を見せつける。


「今ここで自分の過ちに気づけたろ?んで、頼もしい事に、このピーターさんは万能だぞ?」


 器用貧乏ともいう。


「悪魔の森で俺に出会った幸運に感謝するんだな。青い鳥ほどじゃないが、この自称・時計ウサギさんが立派にアリスを導いてやるぜ」


 アリスにとって意味の分からない事と承知の上で言いたいことを言う。

 その上でまた笑えるようにって頭を撫でたのだけれども何故か目から大量の涙が流れてきた。


「おいおい」

「だって……、わだしが……、巻き込んでるんでずよ?」

「その認識に間違いはないぞ。うん。キチンと巻き込まれてるから安心しろ」

「なんでぞんなごど言うんでずが!」


 鼻声で叫ぶアリスに俺はどうしていいか分からず、ポリスメン案件にならない事を祈りながら、膝をついて彼女を抱きしめる。

 んで、耳元でなるべく優しく伝える。


「払うもん、払ってもらわないといけないしな~」


 正直な話、タダ働きはしたくない。

 善意での人助けも、あんまり性分ではない。

 だからモチベがどこにあるかと言われれば、先延ばしになっている報酬の件。

 それと、もう一つ……。


「ここまでして頂いて、本当に申し訳ないんですが……。どれだけのモノを要求するつもりですか?」

「それはほら……言い値で貰うつもりだから自分のプライドが傷つかん範囲で適当に渡してくれや」

「なんですかそれ……?まぁでも、キチンと報酬は払います。そのためにも、生き残らなきゃですね」


 声に落ち着きが出てきたので、俺はアリスを離す。

 そして、ティリスに目を向けた。


「ティリスはどうする?真面目な話、楽しそうで付いてくるにはハードな道のりだぞ?」

「ボクは……」


 ティリスはその青い瞳に強い意志を乗せ、俺の目を見つめてくる。

 そして、ごくりと喉を鳴らしてから口を開いた。


「一緒に行きます」

「いいのか?割とティリスは無関係な話だぞ?」

「それはピーターさんもですよね?それに……。女の子が狙われているのに自分だけ逃げるだなんてことはできません」


 カッコいいじゃないか。

 わしゃわしゃとティリスの頭を撫で、俺は笑顔を浮かべる。


「良いねぇ。ちゃんと男の子してるじゃないか」

「最初から男ですよぉ」

「巻き込まれるつもりなら、それでいいさ。自分の命が大事だからこれでおさらばってのも悪くはない。俺も含めて大抵の人間はそういう道を選ぶ」

「え?どの口が言うんですか?」


 泣き止んだアリスが後ろからツッコミを入れてくる。


「このお口だよッ!うらっ!もっと自分のせいで男二人の命が脅かされているって事を自覚なさいな!」

「ちょっ!?やめて!脇は……キャハハハ!」


 アリスの体を捕まえて、脇やわき腹をくすぐる。

 戦闘後とは思えない光景になり、ティリスの制止が入るまでこのバカげたやり取りは続いたのだった。

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