アリスの追手

第1話


「ワレの名は【ハンプティ】」

「オデの名は【ダンプティ】」


 東西連絡路があるというアダマイト鉱山を目指し、馬を利用して移動を始めて三日。

 昼食の準備を始めた段階で彼らは急に現れた。


 俺がゆで汁を捨てに行った先にいたのは身長2m超えの二匹の“オーク”。

 ハンプティと名乗るオークの両手には斧の付いたモーニングスター。

 ダンプティと名乗るオークの手には馬も両断できそうな超大剣。

 超重量コンビである。


「「依頼成功率ほぼ100%、無敵の殺し屋【ハンプティダンプティ兄弟】とはワレ(オデ)らの事だ!!!」」


 カッコよく決めポーズをとって、名乗りを上げているところ申し訳ないが、《領域》の外で言われても困る。

 チラッと関係者っぽいアリスに目を向けると、わかりやすく顔色を青くしていた。


「えっと……、何用ですか?」


 豚顔のオークたちに視線を戻して、用件を尋ねる。

 すると、ハンプティの方(曖昧)がビシッとアリスに向けて指をさした。


「ワレらの狙いはそこの【アリス・ワンダーウォーカー】の命だ」

「【アリス・ワンダーウォーカー】を差し出せば、お前たち人間二人の命は見逃してやろう」

「「さぁ!【アリス・ワンダーウォーカー】を差し出せ!!!」」


 ステレオで叫ぶな。

 至近距離でこの重低音が耳に入ると、鼓膜がイカレそう。


 俺は鍋を持ったままアリスに近づく。


「知り合い?」

「直接会ったことはありませんが、魔界では有名な名前です」


 ゴクリと息を呑むアリスに俺もちょっと不安を覚える。

 そして、チラッとオーク二匹に視線を戻したのだが……。


「フゴッフゴッ」

「ブヒッブヒッ」


 呼吸音がもはやブタさん。

 セリフは噛まずに言えるけど、呼吸音が完全にブタさん。


 牛の次がブタだと、次は鳥かな……。

 そんな事を考えていると、オーク二匹が再度警告を行う。


「悩むな人間!」

「ためらうな人間!」

「「ハッ……!素直に【アリス・ワンダーウォーカー】を差し出せば!!!お前たち人間二人の命は見逃してやろう!!!」」


 もしかして……、聞こえてなかったと思った?

 声量がさっきよりも大きくなったな。


「えっと……、聞こえてますよ?」

「なに!?」

「ならばさっさと【アリス・ワンダーウォーカー】を差し出せ!!」


 いや、だからこそためらってるわけで。


「嫌だと言ったら?」

「お前たちも殺す」

「無益な殺しはやりたくないが仕方がない」

「なるほど、わかりやすくていいな」


 俺は武器を取り出し、魔術を掛けて戦闘態勢に移行する。

 すると、ティリスも身を低く屈め、アリスも銃を構えていた。


 そういえば、BLT競技での参加種目は個人戦ばっかりだったけど、集団戦も慣れると面白いもんだった。

 ちょっと楽しくなってきた俺はリーダーを気取って号令を出す。


「二人とも、蹴散らすぞ」

「「はい!」」

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