第8話

「あ、あの……」

「ん?」


 村長室にいた一人がゆっくりと俺に近づいてくる。

 そして、少し離れたところで頭を下げた。


「ありがとうございました。助けてもらえるなんて思ってもなくて」

「気にすんなって!それよりもさっさと親に会いに行けよ。んで、体をしっかりと拭いてもらいな」

「はい!あの!本当にありがとうございました!」


 彼女は笑顔を浮かべ、走り去っていく。

 他の女たちも礼をひとこと言ってから、役場の外へと走り出した。


「これで終わりですか?」


 いつの間にかそばに居たアリスはちょっと不満そうな表情を浮かべている。


「どした?」

「いいえ~。私は出番無かったなぁと思いまして」

「まさか……人を撃ちたかったのか?」

「変なこと言わないでください!」


 なんでかプリプリと怒りだし、役場の外へと歩き出す。


「でも……かっこよかったですよ」

「そうか?」

「ええ。言い方はちょっと乱暴であんまり印象良くなかったですけど」

「それ……かっこいいのか?」


 俺が苦笑いを浮かべて聞き返すと、アリスが振り返る。


「ええ。だって、これで彼女たちは前に進めますから」


 我ながら、安い男だと思う。

 なんせ簡単な仕事ではあったものの、11人の命を背負った報酬がアリスの今の笑顔を見れただけで十分だと思ってしまったんだから。

 刀をホルダーに戻し、俺は再び歩き出したアリスに追いつこうと少し走った。





 その後の村での扱いは割と良かった。

 まぁ、盗賊を討伐しただけでなく、犠牲となった人たちの墓作りまで手伝ったしな。


 パッパッと魔術で簡単に墓を作っていき、ひと段落したところで宴会へと切り替わった。

 宴会中に俺のところに来るのは捕われ、助けられた村娘とその家族。

 家族は失ったが、助けてくれたお礼をしてくる奴もいた。

 俺に暴言を吐かれた村娘たちも感謝と悪態をついてくるぐらいで済んでいる。


 俺の元から村人が立ち去ると、アリスがボソッと呟いた。


「泣いている人もいますね」

「そりゃあ、身内が死んだら悲しいだろ」

「それでもああやって笑うんですね」

「前見て歩かなきゃ、死んじゃうからな」

「強いですね。人間って」

「それは違うぞアリス」

「え?」


 俺は甘い果実酒をグイっと飲んで、立ち上がる。


「アイツらが強いんだ。間違えんなよ。今笑ってるヤツらに失礼だろ」


 そんな俺の言葉にアリスは「フフフ」と笑みを溢した。

 まぁ、最初のイベントとしては十分な成果だったんじゃないか?

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