第5話
ここで俺がやっていたBLT競技を改めて紹介しよう。
正式にはThe Colosseum of Battle Links Territoryという長ったらしい名前がついている世界的にも有名なスポーツだ。
正式名称にもある通り、起源となるのはコロッセオの剣闘士。
個人の強さや総合体術・魔術の精彩さを競うスポーツであり、大まかにルールを説明すれば、相手のHP(ヒットポイント)を0にすれば勝ちというもの。
互いに強さを競いあうのはボクシングや相撲などもあるだろう。しかし、BLT競技には他の格闘技系スポーツとの明確な差が二つある。
まず、一つ目は他のどのスポーツでも禁止されている魔術の使用が認められている点。
次に、競技名にもなっているBLT(Battle Links Territory)という大規模な《領域》系魔術の範囲内で行うことが義務付けられている点だ。
このBLTという《領域》系魔術の役割は三つある。
・範囲内で発動した魔術を領域外に漏らさない。
・展開範囲内の地形の記憶と破損の補修。
・範囲内競技者へのダメージの肩代わり。
三つめは第二次世界大戦後に追加された機能であり、それまでは競技者の即時治療がカウントされていた。しかし、領域内での治療にも限界はあり、他のスポーツに比べて多くの競技者が命を落としていたそうだ。
だからこそ、この三つ目の機能開発・実装はBLT競技を“命のやり取りをしないクリーンなスポーツ”へと昇華させ、オリンピック種目への追加決定に大きく貢献したと言われている。
日本ではそもそもBLTに類する魔術が開発されなかったため、外国人の野蛮なスポーツという認識が強かった。
しかし、オリンピック種目になると注目され始め、今では剣道・柔道・相撲などに並ぶ人気格闘技系スポーツに挙げられるほどとなった。
まぁそんな人気スポーツになっても一部の有識者からは「BLT競技は野蛮で、攻撃的で、人の暴虐性を暴き、助長させる」などとキツイ言葉が投げかけられた。
というのも、BLT競技者による犯罪がまぁまぁ起こっているからだ。
ここで未経験者などに勘違いしないで欲しいのは競技者全員が犯罪者予備軍というわけじゃない。
BLT競技も他の格闘技系スポーツと同じで「自分の技を磨き、心を鍛え、体を作る」ことを目的としており、模範的人格者とも言えるプロ選手は多い。
だからこそ、歴史の浅い日本でも競技者人口は減らないし、今も若者がトップを目指して訓練に勤しむのだ。
「悪いな」
体を切り離され、地面に転がる首に向かって俺は無味乾燥な言葉を投げかける。
気付きたくなかった事実ではある。
テレビに出て、BLT競技を「野蛮なスポーツ」と称している方々の意見はどうやら正しかったようだ。
BLT競技者はスポーツという隠れ蓑を付けた「人殺しの経験者」であると今初めて理解してしまった。
幼稚園の時に魅了され、小学校で競技者を目指し、大好きな気持ちを胸に抱きつつ、着実に競技選手としての階段を上ってきた俺がこんな想いをするとは思わなかった。
初めて人の首を斬り落とし、初めて人を殺したというのに何の恐怖も湧かない。
手に残る人を斬る感触になんの違和感も感じない。
そりゃあそうか。
どんなに選手の命の保証が取れていても、人を全力で殴り、人を全力で斬り、人に魔術を当てて、相手のHPを削るような人間がまともであるはずがない。
「なんつーか、気付きたくはなかったかな……」
ため息と一緒に出る独り言。
ずっとこうやって何も考えず立ち止まっていたい気もする……けど俺は覚悟を決める。
そして、もう聞こえていないであろう盗賊二人に顔を向けて口を開く。
「お前らがどんな悪人だろうが関係ない。俺が奪った命はキチンと背負っていく」
人の命を背負う。
それは口で言う程簡単じゃない。
そして覚悟を決めたからと言って、出来る事じゃない。
それでも俺は口に出して、自分の意思がブレないようにと心に戒めを巻き付ける。
「大丈夫ですか?」
後ろから追いついてきたアリスが不安そうに俺を見上げる。
そんな彼女の頭をフード越しに撫でてから俺は精一杯の強がりの笑顔を見せた。
「大丈夫だ。いつも通り……何があっても俺は俺のままだよ」
これは誰に言ったんだっけ?
前にも誰かに告げた言葉だ。
あぁ、そうだ。
今はもう顔も思い出したくない……、かつての友人だ。
俺はちょっと嫌な事を思い出してから、村役場の中へと入って行った。
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