第4話


 正直に言うと、このタイミングで俺は“死んだ”と思った。

 盗賊の手には既に剣が握られており、俺の存在に気づいた瞬間に振り上げたからだ。

 剣を振り上げる速度はゆっくりでも、俺は未だに刀に手を掛けたというタイミング。


 死を予感した俺はゆっくりと時間が流れているような感覚になる。

 ギュッと柄を握り、致命的な後れを取り返すべく刀を振り抜く。


 俺の肩に剣が当たり、同時に血しぶきが舞う。

 一瞬の間を開け、繋がっている部分では支えきれずに傾く体。


 血が噴き出る音以外に音は無く、盗賊の体がぐにゃりと倒れていく。

 地面には既に血だまりが出来上がり、その上に支えきれなくなった体がドシャッと落ちた。


「うん?」


 俺は目の前で死んだ男を見て、首を傾げる。

 どう見ても、出だしは俺の方が遅かった。

 なのに刃が相手の体に先に到達したのは俺の方だった。

 肩に当たった剣も彼の手から零れ落ちたのが当たった程度のもの。


「盗賊ってこんなもん?」

「まぁ、そうでしょうね」


 アリスは特に気にする様子でもない。

 血だまりに沈んだ盗賊を見下ろしていた。


「これが人間の盗賊……。魔力が無ければ相手にもなりませんね」

「あぁ……。魔力無いんだ」


 それでか……。

 こっちはいつもの術三点セットを発動してから出発したからな。

 異世界の盗賊はBLT競技者の足元にも及ばないらしい。


「とりあえず、先に進みましょう」

「お、おぅ」


 アリスさん、死体を見て感想無しなんですね。

 まぁ、美食家ばりに何か言われても困るけど。


 先に進むと、すぐに村役場が見えてくる。

 役場の前には盗賊らしき男が二人。

 なんかけだるそうに座っていた。


「どうします?遠距離から攻撃しますか?」

「いや……。あの程度なら近づいても問題ない気が」

「油断は禁物ですよ。後手に回れば、余計な事になるかもしれません」


 余計な事ってなにさ。

 まぁ、でもその意見には賛成だな。

 BLT競技の試合中なら俺もこんなことを言わないか……。


「うっし。じゃあ、やるか」

「はい。遠距離から……って!」


 アリスの制止も間に合わず、俺は盗賊二人の視界に入る。

 二人は訝しんでから立ち上がり、傍に置いていた槍を手に取る。


「なんだ?お前」

「他所モン……だな。死にたくなけりゃ、どっか行きな」


 盗賊の言葉を聞き流して、俺はゆっくりと前へ進む。

 一歩一歩、進むたびに盗賊の体に力が入る。

 どちらも槍を構え、何がどうなっても俺を突き殺す意気込みをしていた。


 そして俺がゆったりと近づいてくるのにしびれを切らしたのか、盗賊の片方が動き出す。

 俺の顔をめがけ、槍を前に出してくる。

 そのゆっくりとした動作に俺は呆れつつ、刀を振るう。


 動きは最小限に……、街中ですれ違うように盗賊の横を通り、彼の上下を斬り離した。

 腰を境に、盗賊一人の体は二つに分かれ、重力に従って上半身が地面に落ちる。

 それを見た二人目が、怯えた表情で俺に向かってくる。

 突き出された槍を同じように避け、俺は首を刎ねた。

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