第114話 どうも、噂の種馬です。

朝です。

隊長さんとの夜戦?

あえて1つだけ言うとするならば、2対1はズルいと思います。

まさか本当にサーシャさんも来るとは……。

可能性としては考えていたけど、正直来ない可能性の方が高いと思ってたのに……。

ほら、サーシャさんってお酒好きじゃん?

でも妊娠中のお酒は駄目じゃん?

つまり来ない可能性の方が高いって考えるよね?


私のコンディションは万全で、1対1なら隊長さんと互角にやり合える自信もあったのだ。

だが、『初心者』のサーシャさんは意外と体力があり、サーシャさんを撃墜したときには圧倒的不利な状況へと追い込まれていたのだった……。


まぁ、いいや。

今回は朝起きたときの(体力)もそこそこ残っていたし、エルフの秘薬も朝にはちゃんと効果が切れたようで、ずっと下半身が自己主張し続ける様なこともなかった。

この(体力)なら、今日来るらしいモンスターとの戦闘も全く問題ないだろう。


そんな訳で、朝から隊長さんとデートだ。

エルフちゃんもサーシャさんも在庫ちゃんもいない、隊長さんと2人っきりの状況だ。

(デートに着ていく服なんて持ってないよぉ~。)なんて頭の片隅で思ったが、隊長さんがいつも通りの格好だったので気にしないことにした。

まぁ、服を買いに行きたいことだけは隊長さんに伝えたが。

デート用ではなくとも、そろそろもう少し服を買っても良さそうだからね。


隊長さんに街をガイドしてもらいながら歩き、さっそく隊長さんご用達の服屋に来たのだが……服は1着もおいてないね。

布は結構いろいろな色や柄の物が置いてある。

オーダーメイド専門の服屋なのかな?


「いらっしゃいませ。あ、ソフィーア隊長!お久しぶりです。今日も綺麗ですね。……そちらの方は噂の……?」


「隊長はもう辞めたから、今後は普通にソフィーアでいいぞ。噂がどんなものかは知っているが……まぁ、だいたい合ってる。」


……そっか……。

結構噂になってるのか……。

ここに着くまで街を歩いているときに結構ジロジロ見られてたけど、あれは種馬に対する視線だったんだね……。

隊長さんもいるし、悪意とか何かしてくる気配は感じなかったから無視したけど、私って結構大勢から恨まれてない?

特に男性のエルフの方々から……。


隊長さんがモテるのは分かる。

そもそも美人でモテそうだし、スタイルも素晴らしい。

そこに強くて資産があって人望もあって性格もまともときたら、モテないわけがないよね。

なんで再婚しなかったんだろう……?

やっぱり『強さ』か?

数少ない友人に『エロゲのモブ顔主人公っぽい』と言われて傷ついた私の顔面偏差値が隊長さんの好みだった可能性もなきにしもあらずだが、少なくとも顔で選んだわけではないだろう。

……ここ数日を振り返るとだいたい合ってる気がしてきた。

数少ない友人Dよ、お前の言葉は現実のものとなったぞ……。


今後もう2度と会うことはないであろう友人に対して特に何かを思うこともなく、私は店内に並べられている布を観察していく。

こうして見てみると、布に使われる糸は全て同じものに見えるが、色も違えば柄も違うということは、特殊な染色方法があるのか、糸の段階で染色した後、布へと加工しているのだろう。

同じ色だけど、糸の編み方が違うためか、布の厚みが違う物もあった。

エルフの布産業の技術、なかなか侮れぬ。


まぁ、ぶっちゃけ布のことなんてよく知らんけど……。

一年通してず〜っとジャージで過ごすくらい服装に対して無頓着だったからね。

もう何年もポリエステル以外は綿くらいしか着てないわ。

そういえばウールとか聞いたことあるな。

羊の毛だったっけ?

それならこの世界にも普通に置いてそうだよね。

まだ着るにはだいぶ暑いと思うけど。


隊長さんと服屋のエルフさんの会話もひと段落した様なので、そっちに戻ることにする。


やはりこのお店はオーダーメイドで作ってくれる服屋らいしが、自分で作る人向けに安くで布の販売も行っているらしい。

安定のオーダーメイドと、冒険の自作……。

まぁ、両方選ぶよね。

お金は結構持ってるし。

悪徳領主の金庫室から掻っ払ってきた金貨が、山のようにあるんだ〜。


そんなわけで、隊長さんにコーディネートしてもらった服一式と、自作用に買う地味な色の布、隊長さんが着るための新しい服代まで、全て一括で支払った。

一般的にはまぁまぁな額だと思うが、今の私の資産からすれば大したことはない。

まぁ、悪徳領主から奪ってきた貨幣は結構質が悪かったので、結構な量の硬貨を支払うことになったが……正直オーダーメイドの割に相当安いのではないだろうか?

今後もお世話になろう。


「次は私に付き合ってくれ。この前領主の屋敷で見つけた物を、ハイエルフの方に見てもらおう。」


服屋を出ると隊長さんからそのような提案が

あったので、正直近づきたくない『精霊樹』へと歩いて向かう。

ハイエルフの方はなにも問題ないんだよ。

自称:神様と出来れば顔を合わせたくないから近づきたくないだけで……。

前回の時点でだいぶフランクな態度だったから、今の私の現状に対して、面白がって弄って来そう……。

センシティブかつナイーブな内容をウザ絡みされたら、二度と精霊樹には近づかないんだい!


それほど時間はかからずに精霊樹前広場に到着。

神様からの呼び出しは……無さそうだ。

これなら問題ない。

インベントリから例の聖遺物の可能性がある物を取り出して、ハイエルフの方が来るのを待とう。

……隊長さん動かないけど、ハイエルフの方と待ち合わせでもしてたの?

いや、昨日の時点では今日の買い物は予定に無かっただろうから待ち合わせしてるとは思えないな……。

呼ばなくてもいいのだろうか?

そもそもハイエルフの方がどこに住んでいるのか知らないが、精霊樹のすぐ近くにいるのだろう。


動かない隊長さんを眺めること30秒くらい。

ポケ〜っとどこかを見ていた隊長さんが振り返って一言、「すぐに来るそうだ。」……。

なんだろうね?

離れた相手と脳内で直接やり取り出来るのは、この世界では当たり前の事なのかな?

少なくとも一般人には無理だろう。

だけど私も前に自称:神様から直接脳内に話しかけられたし、話しかけてはいないが向こうが勝手に私の思考を読んだ結果、普通にやり取りは出来た様な……?

片方が念話出来れば問題ないのかな?


『すぐ来る』との言葉通り、ハイエルフの方々はすぐに現れた。

どこから現れたのかは分からなかったが、本当にすぐだった。

もしかしたら自称:神様と似たようなところに住んでいるのか、それとも違う次元で生きているのか……。

私自身があのレベルの存在にならないと、理解できそうにないかな。


隊長さんと4人のハイエルフの方々は、軽く挨拶と言葉を交わし、全員で例の物を観察し始めた。

私は暇なので、ハイエルフさん達の観察を始める。


4人のハイエルフさん達のうち、2人は私も会ったことのあるハイエルフさんだ。

塩焼きそばさんと通訳さん。

残りの2人は当然ながら初めて見たが、なんと言えばいいのだろう、塩焼きそばさんと通訳さんよりも存在感が分かりにくい気がする。

(こいつやべぇな)と思える程の存在感なのだが、それが世界の自然の一部の様にも感じるのだ。

表現しずらいな……。

まぁ、私の受けた印象としては、この2人は確実に塩焼きそばさんと通訳さんよりも格上のような印象を受けた。

するつもりはないが、敵対しないように気を付けよう……。


しばらくの間、5人は聖遺物と思われるものをジロジロと事細かく観察していたが、おそらくアイコンタクトと念話で意思疎通を行っているようで、4人が同時に頷いた後に、塩焼きそばさんが話し合って出したのであろう結果を発表した。


「これは『魔除けの聖遺物』で間違いありません。機能は停止しているようですが、外的損傷はほとんど見られないので、少し手を入れればこの国でも問題なく運用できると思います。よく見つけてきましたね。」


『魔除けの聖遺物』か……。

私個人で持っていても外で寝るときくらいしか使い道がないな。

元々隊長さんが興味を示して持ってきたものだし欲しがるつもりはないが、この様子だとエルフの国で使われるのだろう。

だって通訳ちゃんがウッキウキでスキップしながらどこかに持って行っちゃったもん……。


エルフ方って外見年齢に精神年齢が引っ張られるのだろうか?

元の世界でも外見年齢と精神年齢は関連性があるって言われていた気もする様な……?

実際のところどうなんだろう?

少し疑問に思った。


さて、聖遺物かと思って持って来たら実際に聖遺物だった物もハイエルフさんに引き渡したので、そろそろここから退散……塩焼きそばさん何か用です?

……もう1度あの時の塩焼きそばが食べたい?

…………作るしかない様だね。

隊長さん含め、この場にいる全員にそんなに見つめられると威圧感が半端ないぜ!

麺を打つところから始めないといけないので、結構時間かかりますよ~。


そこそこ時間はかかったが、お昼を少し過ぎたあたりには完成し、全員で仲良く食べた。

勝手に『塩焼きそばさん』と名付けていたが、本当に結構気に入っている様だ。

隊長さんものんびりと食べてるけど、昼頃から城壁近くで待機するって言ってなかったっけ?

……ま、モンスターの襲撃など後回しでも問題ないのだろう。

『モンスターが来るかもしれない』と言いながら、昨日から全く緊張感のかけらもなかったし……。

一般兵士の手には余るけど、隊長さんからしたら雑魚って感じのモンスターが来るのかな?


食後のお茶までのんびりと飲み、城壁へと移動する頃には、とっくにお昼など過ぎているのだった。

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