第28話 乱獲と何も知らない者たちの不安
ふっふっふ……。
今宵の手刀は血に飢えておらぬわ。
あれから少しだけ進んだ。
少し進んだところ小川で小川らしきものを見つけたので、小川近くを拠点にするためだ。
なぜ小川らしきものなのかというと、昨日までの雨の影響かめちゃくちゃ増水していたからだ。
というか進めなかった。
これはもう『ここでレベル上げをするのじゃ~』という神のお告げだろう。
神なんて『いたらいいな~』くらいに思っていて信じてはいなかったが……。
時刻はまだ昼過ぎ。
レベル上げをする時間は十分にある。
とりあえず荷物を置いて身軽になったので、本格的に周囲を索敵する。
「狙いはやはり猪だけど、あと4%でレベルアップだから今は蛇でもいい。どこかにいないかな~?」
途中鹿らしきものを遠くに発見したが、近づこうとしたら普通に逃げられてしまった。
魔物じゃないなら別にいいか、サイズも1mを少し超える程度だったし。
……少し違和感を覚えた。
(これはまた蛇か?)と思って上を含めた周囲を見渡すが、今度は何も見つからない。
「ん?なんだこれ?糸?」
しかしよくよく目を凝らしてみると、足元に細い糸が張ってあった。
膝の少し下くらいの高さにピンと細い糸が張ってあったので、パッと見では分かりづらいのだ。
「糸か……蜘蛛の可能性が高いよなぁ。」
とりあえず張ってある糸の先を辿っていく。
蜘蛛は毒さえなければそこまで嫌いではなかったのだが、魔物化でサイズがデカくなっていたら拒否感を抱いてしまうかもしれない。
虫の生命力は異常だと言うし、正直戦いたくないが、とりあえず確認することは大事だろう。
「……いちいち辿るのも面倒だし、糸切っちゃうかな?向こうから出てくるんじゃね?」
とりあえず糸を指先で触ってみる。
ベタベタしているなんてことは一切なく、普通に糸として使えそうだ。
糸を弾くように触ってみて、振動を起こしてみる。
……しばらく待っていたが蜘蛛は出てこなかった。
しょうがないので糸を出来るだけ長さを確保して切る。
軽く引っ張ってみたが、意外と強度はある。
このまま使うには強度不足な感じだが、束ねれば結構使えそうだ。
糸はまとめた後袋に入れた。
今はレベルアップが最優先。
獲物を求めて歩き出す。
……いた、猪だ。
躊躇なく近づいていく。
猪もこちらに気づいたようだ。
猪の準備が整うまえにダッシュで接近する。
……思ってたより速度が出て驚いた。
そういえばずっと草鞋だったから、ステータスを上げてから全力で走ったのは初めてかも?
筋力は走攻守全て兼ね備えているんだね!
とりあえず前と同じように手刀でグサッといっとく。
う~ん、こうして余裕をもって倒せる程度には強くなったんだよな。
『鍛錬した方が強くなる』ってことはこの世界の人間って相当な化け物なのではないだろうか?
いや、流石に一般人は違うと思うが、軍人……兵士かな?
まぁ、戦いを生業としている人は相当強い気がする。
どのくらい強くなれば安心できるのかなぁ……。
とりあえず魔石を抜いてから内臓を捨て、荷物の近くまで猪を運んでいく。
魔石はまだ壊さない。
猪の魔石は経験値が多く、経験値のレベルアップであふれた分の経験値は繰り越されないので少しもったいないからだ。
出来れば蛇でレベルを上げてから猪の魔石を壊したい。
そう思っていたら、荷物の近くまで来たところで蛇と出くわした。
もちろんサクッと頭を切り落として処理した。
流石に猪を持ちながら蛇は持てないので、距離も近いし、蛇は引きずって移動した。
拠点に戻って来た。
猪を放り出して、まずは蛇の解体を始める。
魔石を取り出し、そのまま砕いた。
レベルアップだ。
SPの振り分けは後回しにし、蛇の解体を先に終わらせる。
ちなみに前に狩った猪は内臓を抜いて多少血抜きをしただけで、皮などはまだ剥ぎ取っていない。
というかやっぱり死んで時間が経つと血があまり出てこない。
今度仕留めたら先に血抜きをしてから、内臓の処理をしてみようかな?
肉って血抜きで臭みが本当に変わるからなぁ……。
とりあえず今は二匹の猪から目をそらし、猪の魔石を砕く。
……まだ80%も上がるのか!
90%、80%と経験値を獲得できたので猪は結構強い魔物なのかもしれない。
一撃で倒してはいるが、確かに攻撃を受けたら無事で済むとは思えないので強いと言われれば納得なのだが……。
「経験値はおいしいけど、問題は肉の量なんだよなぁ……。」
猪の肉は今あるやつと先に血抜き処理からしたやつを食べ比べてから本格的に解体しようかな。
猪肉は何度も食べたことあるけど、本気で同じ猪肉なのか疑うレベルで血抜きによって味が変わるのだ。
ぶっちゃけ肉より魔石狙いだから、このサイズの猪なら一匹分の肉でも一週間は余裕で持つんだよな……。
やはり野生の魔物を狩るよりダンジョンで魔物を狩る方が圧倒的にレベル上げが楽だ。
「そうだ、どうせこの後も獲るんだし、猪の死体を森の中で放置したらどうなるのか確かめてみるか……先に休憩だけど。」
流石に台車なしで猪を運ぶのは非常に重く、疲れたのでたっぷりと休憩を取る。
休憩ついでに蛇のお肉を食べる。
朝も思ったけど普通に美味しいんだよなぁ。
味は……鶏肉に近いような?感じだ。
そういえば猪から油が取れるかもしれない。
蛇肉のから揚げが食べたくなってきた……鍋さえあればっ!
でも揚げ物って油の温度が分からないと難しいからなぁ……。
ない物はしょうがない、食べ終わったしそろそろ行くか。
流石に猪一頭丸々持って行くのは面倒なので、足を切り落とし、胴体の方を森の中に設置しておく。
血の臭いに釣られて狼とか出ないかな~。
とりあえず猪を探しに歩き出した。
猪を3匹と蛇を1匹倒した。
蛇と猪の内1匹はしっかりと血抜きをして、魔石を取り、内臓を捨ててから拠点に持ち帰った。
残りの猪2匹は魔石だけを取って放っておいた。
血抜きをしっかりとしたおかげか猪は少し軽かったが、流石に拠点まで持ち帰るとなると重かった。
ここまで疲れたのは久しぶりの様な気がする。
「もう夕方だし、今日はもう飯食って休むかなぁ……。あ、一応設置したイノシシ肉がどうなってるか確認しておこうかな?」
少しだけ休み、設置したイノシシ肉を見に行くと、そこには数匹狼がいた。
でも、大きさ的には普通の狼のようだ。
可愛い。
「……魔物じゃないなら別にいいか。」
もちろん襲ってきたなら話は別だが、魔物と違って動物は倒そうと思わないのである。
たぶん魔石が取れなさそうだし、可愛いから。
それから5日間魔物を狩るだけの生活を続けた。
ただ、魔物を倒して魔石だけ抜き取って後は放置である。
Lvも17まで上がった。
ステータスはまだ振っていない。
純粋に必要性を感じないからだ。
血抜きが適当だったイノシシ肉の不味さに悶絶し、ちゃんと血抜きをしたイノシシ肉の旨さに感動しながら、数日間暴れ回っていたのだ。
……まさかあんなことになっているとは知らずに……。
※サイド:とある開拓村に依頼を受けて来ていた冒険者デューク
数日前から森が変だ。
交渉によって開拓村を拠点にさせてもらい、危険領域の近くまで薬草を探しに森の中に毎日入り、もう5日目になる。
依頼自体はここでしか取れない薬草を、事前に聞いていた手順通りに一定量採取するだけのシンプルな仕事だ。
危険領域やその周辺に生えている薬草で作った回復薬は普通の回復薬と比べて即効性があり、効果も高く重宝される。
この薬草採取は危険領域に近いということもあり、薬草を根絶やしにせず、モンスターにも対処できる熟練の冒険者の仕事なのだ。
当然報酬も高い。
パーティーメンバーの誰も依頼を受けることに反対する者はおらず、非常にスムーズに依頼に取り組めたのだ……数日前までは。
森に入り始めてから3日目だった。
その日はそれほど強くないモンスターに襲われることが多く、採取にあまり時間を割けないと判断して速く撤退をした。
次の日、もっと多い回数モンスターの襲撃を受けた。
その中にはウルフやスネークもおり、もちろんすぐに撤退をした。
……そして今日。
二日連続でモンスターが多かったこともあり、今回は採取道具などは持ってこなかった。
この判断が正しかったのだろう。
何度目かの襲撃を退けた後、とうとうビッグボアが出現したのだ。
「散開しろ!突進が来るぞ!」
急いで仲間に声をかけ、注意を引くように前に出て盾を構える。
ビッグボアはパーティーが中堅になれるかなれないかの登竜門なのだ。
ビッグボアで壊滅し、仲間を失ったパーティーなど数えるのが難しい程よく聞く話だ。
だが、うちのパーティーには強力な魔法使いがいる。
注意を引いたうえで動きを止めれば確実に倒せるだろう。
「エレナ!目を狙え!ヘレンは動きが止まったタイミングで確実に当てる感じで頼む!パーマーは二人の周りで警戒!」
指示を出し、ビッグボアの動きを注視する。
ビッグボアの突進を盾で止めることは不可能なので、逸らすか避けるしかない。
ビッグボアが
いざ突進を始めようとしたその時、その右目に矢が刺さった。
(流石の腕だな)と思いながら、逆に前進して近づく。
勢いのない体当たり程度なら盾で防げるからだ。
魔法が飛んでくるまでの間、確実に攻撃を防ぎながら何度か剣で切りつけ、ついにその時が来た。
「ジャベリン行きます!」
ヘレンの魔法が完成したようだ。
ステップを踏み、少しビッグボアから距離を取る。
ボアも追ってこようとしたが、そこに横から土で出来た槍が突き刺さった。
土の槍はビッグボアの右肺から左肺にかけて貫通し、ほどなくしてビッグボアは息を引き取った。
お互いに声を掛け合い怪我や周りにモンスターがいないかの確認をする。
「明らかに森に異常が起きている。解体をしたらすぐに撤退するぞ。」
問題がなかったので撤退を宣言する。
ビッグボアは群れを作らず、縄張り意識が強く、なかなか森の中から出てこないはずだ。
それが出てきたということは、森で何かがあったのだろう。
ボア一頭程度なら問題はないが、この先もっと出てきた場合が危険すぎる。
「依頼のあった薬草の採取量はぎりぎり規定を超えた程度だからボーナスはないが、ビッグボアも売れば良い収入になるだろう。一旦町のギルドまで戻って報告するぞ。」
誰も反対意見はなかった。
開拓村に戻り、肉を見せながらビッグボアが出てきたことを説明して、一旦街のギルドへ戻って報告することを伝える。
村長は非常に絶望的な顔をしながらも、ギルドに調査隊を送ってもらうための嘆願書を書いて渡してきた。
まだ昼過ぎということもあり、開拓村から港町「ホエールポート」へと移動を開始した。
「しっかし、この開拓村は薬草採取のためだけに作られたと聞いたことがあるけど、どうなるんだろうな。」
「頑丈な防壁も無いですし、ビッグボアに村を襲われたらひとたまりもないと思います。急いでギルドに戻って調査隊を送るように言わなければ。」
「でも街から開拓村までは移動だけで3日はかかるから……。調査隊を集めないといけないことも考えれば……10日はかかっちゃうかもね。それまで持つかな?」
そこなのだ、開拓村の人に街への連絡を頼んで、自分たちは開拓村に残って防衛を手伝う選択肢もあったのだ。
街から開拓村の道に近頃野盗が現れなければ……。
依頼をするには事前に一定のお金を必要とする。
『依頼は完了したのにお金が払えません』なんてことを防止するために必要なことなのだが、野盗にとっては関係ない。
手当たり次第に襲い、殺し、金を奪っていく。
その結果、街へ報告が行かないまま開拓村が消滅した事例はいくつもあるのだ。
これから戻る道に『野盗が現れている』と出発の際にギルドで聞いていなければ、報告に戻るという選択は選ばなかったかもしれない。
なんにしても……
「開拓村の村長は村人思いの良い人だった。出来るだけ急いで戻るぞ。」
野盗を警戒しながらも、出来るだけ急いで町まで歩くのだった。
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