第46話 次代の勇者、パーティーを結成する。
「任務達成を確認しました。これにより、Dランクパーティー《
二人がパーティーを組んで3ヶ月が経った。
Cランク冒険者パーティーの証、ブロンズのギルドボタンを受け取ったライドンとジン。
最下級のランクから始まったたった二人のパーティーは、たった3ヶ月あまりでCランクになった。
ギルド内では、彼らを新進気鋭のパーティーと見るのも多くなり始めていた。
そんなせっかくの祝いの日にも関わらず、ギルドの端っこの二人席に腰を下ろして祝い飯を嗜む二人の表情は芳しくない。
ライドンは悔しそうに机に伏せながら言う。
「昇格したはいいけどよ。結局、3ヶ月と同じ難題にぶつかっちまったな」
「無我夢中で任務をこなしていきすぎて、Cランクパーティーの任務受注条件のことまで頭に入ってなかったね、あはは……」
苦笑いを浮かべながらジンは新たに受けられるようになった
【必須条件:個人ランクC以上のパーティーメンバー3人以上】
ライドンは出てきた肉を囓りながら、ため息をつく。
「今の俺たち見て入りたいっていう酔狂な奴、いねぇもんな……。物理で殴って土作って殴る、異常な二人組だってよ? こいつはこいつで火を吹くだの伝説の邪龍だのと豪語したかと思えば、タバコに火ぃ付けるくらいの威力しか出ねぇしな」
肉に寄りつく黒い影を指で弾けば、『のぁっ!?』と甲高い声を上げて机の上に転がる一匹の竜の姿がある。
『ぬぬぬ……! わ、我とてこの身体はまだ勝手がつかめぬのだ! 本来は村一つ、いや街一つ屠れるほどの力があるのだぞ! お主など、我の一鳴きで消し炭なのだ!』
「へいへい、そうかいそうかい。生焼けの鳥串くらいなら出来るようになるかもな」
『うぬぬぬ……! 力が戻ったのは最初だけだったのだ。リースの奴に騙されたのだー! リースはヤブ回復術師なのだー! ぬぁーーー!!』
机の上でジタバタと羽を散らすミニマム邪龍。
だがいくら暴れても何も起こることはない。
「ヴ、ヴリトラさん! 落ち着いて、落ち着いてください! リース師匠がそんな小さなミスをするわけないじゃないですか、他に原因があるんですよ――」
暴れるヴリトラをジンが抱えて抑えようとしていた、その時だった。
「あながちそこの龍が言っていることも間違いじゃないと思うな。その龍の身体の中を走る魔術回路に不鮮明なラインが見える。大雑把な魔力を大きく使いすぎていることで、こうした細かい魔力のものを見落としてしまったとみていいかな。これは君を施術した者による不手際だ」
そう呟きながら、音も無く彼らの席にやってきたのは一人の女性。
透き通るような金髪のツインテールに、眉一つ動かさない無表情な瞳。
年季の入った木杖を持ってちょこんと佇む姿は、さながら人形のようだ。
ピコピコと亜人種特有の長い耳を動かすのを見てジンも驚きが隠せない。
「え、エルフ族……ですか!?」
「ラハブ・ロウリィ。ちょっと中年に差し掛かったエルフだ。呼び方は任せるよ。それより、そこの龍の施術をした者は、《リース》って言ってたかな」
『ぬぁ! お主と似たよーなエルフであったのだ!! 我を我とも思わぬ小生意気さ、そっくりなのだ!』
「ふふ、わたしと似たような、ね……」
するとここまで項垂れていたライドンは突如として現れたエルフ族を見て、彼らより大きな驚き声を上げた。
「ら、ラハブ様!? あの有名なラハブ・ロウリィ様なのか!?」
「どうしたのさ、ライドン。知ってるの?」
「知ってるもなにも、めったに人前に姿を現さない伝説のエルフ族の中でも、更に伝説と言われるエルフだぞ!? 何百年も前から存在する生きた歴史書! 傷病人を見かけては木の実と引き換えに一瞬で治療してく天才回復術師だ! ウチの村の先祖もかつては世話になったらしいが、そんな方がどうしてこんな所に……?」
「いやなに、わたしは面白いことと美味しい木の実を探すことを生業とした根無し草だからね。この頃、たまたま耳にしていたんだよ。新進気鋭の冒険者パーティーのこと、そして君がよく言っているという、《リース師匠》のことをね」
エルフの民、ラハブ・ロウリィの視線がジンに移る。
「魔法が使えないとは言えど、魔力の流動回路・放出回路共に申し分のない完成度合いだ。君ほど不思議な存在も見たことがないけども、それも師匠のおかげかな?」
問うと、ジン――ではなくライドンが手を横に振る。
「やめておいた方がいいぜ、ラハブ様。コイツらの言う『リース師匠』ってのは、エルフ族で、全部の属性魔法を使えて、古代魔術も使えて、世界で一番強い。そんな空想上の最強生物のことなんだ。2時間は止まらなくなる」
からかうように言うライドンだが、「あぁ。そんな話でも聞きたいのさ」とラハブは温かい目をジンに送った。
「ジンくん、と言ったね。君はそのリース師匠を尊敬しているかい?」
ラハブの問いに、ジンは即答する。
「はい、もちろんです! それに師匠の凄さはぼくが一番知っていますから!」
「ふふ、そうか。尊敬しているんだね。それはなによりだ。同じエルフとして是非とも君の師匠とやらに会ってみたくなった」
そう言ってラハブは一枚の用紙を二人に渡した。
「ますます君たちのことから目が離せなくなったよ。もし君たちが許可してくれるなら、わたしもこのパーティーに入れてはくれないかな? 冒険者ギルドの個人ランクもBランクだから問題ないはずだけど――」
「あのラハブ様がウチに!? おいジン、こんな大チャンス逃す方が阿呆だ! すぐ行くぞ!」
「エルフ族に悪い人はいません! すぐに手続きしましょう!! ありがとうございます!!」
――と、何が何でも新しい人員が欲しい二人はすぐさま受付の元へ走っていってしまう。
そんな騒がしい後ろ姿を見ていたラハブは苦笑いを浮かべる。
「あの子も、外の世界で楽しくやっているようだね」
ぽつりと呟いたラハブの言葉は、唯一ヴリトラにだけ聞こえていたようで――。
『お主、まさか……?』
「このことを黙っておいてくれるならば、君の中の魔力回路はわたしが治してあげよう。それに、
『む! 黙っておくのだ! わーいなのだ!』
こうして
「ラハブ様~! ふっといつの間にかいなくなっちゃうのやめてくださいって言ってるじゃないですか~!? 私、ヘトヘトなんですけど……って、へぶぅ!?」
ギルドの段差に足を引っかけ転ける少女を見て、ラハブは思い出したかのように呟く。
「あぁ、そうだ。今の少し
「見つかったぜ新メンバァァァァァ!」
「次の任務に行けるね! これでまたたくさん笑顔を守れる冒険者に近付けるよ!」
「……まぁ、いっか。もう少し後で」
聞く耳のまるでない男二人を余所に、ラハブは他人事かのように落ち着き払っていた。
ジン・フリッツを中心に結ばれたこの歪な4人組が、ククレ城塞管轄の冒険者ギルドで史上最速のAランクの称号を手に入れ、領主ガリウス・ガルランダからも絶大なる信頼を得るようになるのはもう少し後のお話だ――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます