第226話 現在の日本
「1年前突如世界中で霊が認知されるようになりました。それへ伴い霊という存在に対する法設備が整うようになったのはそれから数か月後の話です」
コーヒーを飲みながら田嶋は現状を話し始めた。それに対し混乱が収まったアーデが質問を投げる。
「それは日本で、という事でしょうか?」
ふむ、それはどういう意味だろうか。今は日本の話をしているんじゃないのか?
「どういう意味ですかアーデさん」
「ここまで色々な方とお話を聞き、ずっと疑問に思っていた事があるのです」
「疑問ですか。それはどのような?」
「はい。素人の私から見ても霊への対応が早すぎるなと思います」
ん、そうだろうか。
「数か月あればそういう法律くらい出来るんじゃないのか?」
「礼土。よく考えてほしいのですが、ある日突然、見えなかったものが見えるようになった、そして今までになかった力が身に着いたのですよ。そこから起きるのは何かというと
え、そんな大ごとになるのか。いや、でも確かにいきなり力を得れば確かにそう思う連中も出てくるか。
「驚きました。アーデさんはそのような勉強をされているのですか?」
「いえ、ただの憶測です。ただまだ日本に来てそれ程時間が経っておりませんが、あまりそのような空気を感じません。何といいますか全部受け入れている、そんな雰囲気を感じます」
「なるほど――それで最初の話ですか?」
「はい。法令が定められたタイミングは日本だけですか? もし日本だけなら日本が平和というだけでしょう。ただしこれがもし世界全体で同じタイミングであれば……」
なるほど。確かに国によって治安は随分違う。行ったことはないが海外だと銃を携帯し一歩間違えば発砲沙汰になる国さえあるらしい。そんな国で同じように変化が起きればどうなるか。決まっている紛争が起きるな。
「確かにもう少し深く考えるべきことですね。この件ですが、私の知る限り世界全土で定められております。確か国際心霊機関という組織も出来ているはずです」
「国際機関ですか。あまりに早すぎます。これは異常では?」
「ええ。しかしおかしい。指摘されるまで気づかなかったなんて」
確かに人の弱点を的確に抉る田嶋であればその手の話にはもっと早く気づきそうなものだな。となると次に疑うべきは。
「何かの意思が働いていたって所かアーデ」
「ええ。私もその可能性に行き着きます」
あの爺が最後に言っていた言葉。それを考えれば必然そうなるか。
「意思ですか。もしや陰謀論ですか?」
「いや違いますよ。もっと高次元的な話です」
「まさか神ですか? まあ霊がこうして存在するようになった以上いてもおかしくはありませんね」
恐らくアーデが最初に考察していた混乱がなかったんじゃないだろうか。霊が見えるようになってもそこにいて当然と受け入れるようになった。そしてそれに対する力の方も同様に。下手したら法律を作る所まで誘導されている可能性すらあるか。
「先ほどの件を伺っても? なぜ利奈たちに会うのは難しいのでしょうか」
「ええ。その前にもう少し今の日本をお話した方がいいでしょう。霊が見えるようになり日本も色々と大きく変わりました。その中で特に大きいものは国家公認霊能者の存在です」
出たな。免許制。
「確か免許制になったというやつですかね」
「そうです。まあ勇実さんなら何も問題はないでしょう。もしかしたらランクⅩまで行くかもしれませんよ」
嫌味だろうか。霊能力ではなく魔力を持っている俺にはとても受かるとは思えない。
「どうでしょうか。あまり自信がないですね」
「ご謙遜を。さて続きですね。まず国家公認霊能者の特徴ですが、大前提としてこれは職業ではなく資格という点です。そしてこの資格がなければ霊能力を自衛以外の目的で使用する事ができません」
なるほど、確かにそうなれば資格を取る者は多いだろう。霊能者が溢れるわけだ。国としてもどんな霊能者がいるか管理したいだろうし当然その政策は取るか。
「そうなると免許証を取る人も多いでしょうね」
「ええ。自動車免許を取るような感覚だと思っています。ちなみにこれが免許証です」
そういうと田嶋は懐から1枚のカードを取り出した。どうやら田嶋も霊能者となっているらしい。見た目は普通の免許証と似ている。顔写真、氏名、生年月日、住所――んなんだ?
「このPhⅡというのはなんですか?」
「能力を示すものです。日本では現象型と呼ばれる系統になりますⅡというのはその能力の強さを表しています」
そういうと田嶋はテーブルの上にある1枚の用紙に手を置いた。すると紙が動き出す。2つに折れ、さらに4つ折りになる。そうして田嶋が手を離しても紙は動き続ける。
「これは……」
「紙を自由に動かす事が出来る能力ですね。レベルはⅡのため大した事は出来ませんので手品の範囲でしょう。どうやら何かの現象を起こす力という事のようです。有名な霊能者だと炎を生み出したりするようですよ」
道行が言っていた話を思い出す。確かそんな連中に襲われたと言っていたか。
「もしや武器を作ることも?」
「それは物体型と呼ばれる能力者ですね。イメージした物質を一時的に生成できるものです。レベルによって大きさと強度、継続時間が変わるそうです」
「ちなみにレベルⅡの物理型だとどの程度の物が作れるんですか?」
「そのくらいですと、ナイフ程度の大きさを10分程度かと思います。まあ強度は低いでしょうが……」
なるほど、必ずしも絶対的な能力ではないという事か。10分程度の武器しか作れないなら最初から武器を所持していた方がいいだろう。
「ねぇ! 田嶋さん。他にどんな能力あるの?」
「現在判明しているのは物体型、強化型、使役型、現象型の4つです。今後増える可能性があるそうですが、大体はこの4種類に分類されています」
先ほどまで退屈そうにしていたネムが急に話に入ってきた。やはりこの手の話題は喰いつくようだ。いやわかるとも。漫画見たいで面白いよな。
「へぇ面白いな。ねぇ礼土! アタシにも何か能力あるかな」
「……しらんぞ」
多分ないんじゃないだろうか。人間になっているが持っている魔力量は依然とそう変わらないような気がしている。一応注意しておこう。
「今の田嶋さんのお話を聞くと、相当危険だと思います」
考え込んでいたアーデがそう零した。
「先ほど伺った能力で、しかもレベルⅡでさえいくらでも犯罪での用途は思いつきます。しかも証拠が残らない」
「流石に鋭いですね。その通りです。そしてここからが最初の話になります。神城家。これは三大名家と呼ばれる一角です。どうやらこの変わってしまった世界になる前から霊能力を使って生計を立てていた一族のようですね。その力は国家権力にも食い込んでいたという噂です」
マジか。そんな前から漫画みたいな出来事が起きてたとは――。
「それはどのような力なのですか?」
「霊視です。海外ではサイコメトリーとも言われてますね。物体の残留思念を読み取ることが出来る力という噂でした。そして現代ではそれがほぼ確実な能力へ昇華しているという話です」
「――犯罪などに対する備えという事ですね」
「はい。霊能力絡みの事件が起きた場合、神城の者が現場に出る場合もあると聞きます。当然幾重ものボディガードを連れてですが。それ以外にも行方不明者の捜索など幅広く行っているようです」
なるほどね。確かに超能力は以前から注目されていた力だったしそういう事もあるか。
「そして山城沙織はその神城家の長女です」
「――ああ。なるほどそういう事ですか」
流石にここまで言われれば俺でも理解できる。
「現在、利奈さん、栞さん、そして兄の桐也さん、この3人は神城家の複数いる後継者候補に組み込まれていると和人より聞いています。以前ならともかく今は国家から信頼を寄せられている家系です。そのため――簡単には……」
確かに、どこの誰とも知れない奴が会うのは厳しいって訳か。
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