第217話 開闢の宙11

 俺は目の前の巨大な蛇のような龍に向かって拳を振う。巨大な身体に俺の拳がめり込み、その後風船のように破裂しながら身体の一部が吹き飛んでいく。そのまま手を休めず、残った身体に向かって同様に攻撃を叩きこみつづけ、天龍の巨体の約半分を吹き飛ばした。



「相変わらずデカいだけの龍なのはいいんだが――」



 そう思わず愚痴をこぼす。この天龍はその特性上魔法が効かない。魔力を喰らい、生きているという面倒な性質がある。以前は魔法を叩きこんでその分凶暴となった天龍相手に、随分面倒な思いをしたものだ。

 とはいえ、今回復活した天龍はまた違った意味で面倒だった。以前は殴れば終わったんだが、今回は違う。



 吹き飛んだ身体の肉片が集まりだし、まるで逆再生したようにすぐ元の肉体へ戻っていく。そのどう考えても過剰な再生能力、しかも頭を吹き飛ばしても再生するというおまけつき。



「こりゃあれか。漫画とかで見た展開で考えるに、どこかに核みたいなのがあんな」



 そうなるとこの魔大陸ごと全部を吹き飛ばした方が早そうだ。だが流石にそれは出来ない。現在ミティスが先行して侵入しているはずだし、他の魔人も巻き沿いにするのは本意じゃないしな。


 開いた天龍の瞳から空気を切り裂くような凄まじい速度で魔法が放たれる。俺はそれをサッカーのボールのように蹴り上げ上空へ逃がした。幸い天龍の攻撃は大したことない。このまま削れるまでちまちま殴ってもいいんだが、流石にそれは時間が掛かる。



「仕方ないな。下に被害が出ないように本気で殴るか」



 全力で魔力を漲らせ、肉体を強化する。そのまま少し上空へ飛び、天龍を見下ろす位置まで浮上。出来るだけ天龍の巨体がすべて見える位置まで移動し、魔力を込めた拳を思いっきり振り下ろした。




 凄まじい衝撃と衝撃音が響く。限界まで強化した俺の拳から放たれる衝撃波が目の前の天龍を襲う。その周囲の空気が消え、その圧力によって天龍とその下にある一部の大陸が崩れ消えていく。そのまま海を割り、水柱が立つ。空中へ上がった海水が雨のように降り注ぎ、魔大陸へ落ちていく。



 魔大陸の約5分の1を削る結果となったが、先ほどまで上空にいた天龍の弾けた肉体も魔大陸へ降り注ぎ、赤く染めていった。



「やったか!?」



 なんとなく漫画でよく見る台詞を言ってみる。これで生き返るようならまた違う方法を考えた方がよさそうなのだが――。



 そう考えていると、赤い光が上空へ上がってくる。明滅した眩い光がまるで鼓動するように胎動している。なるほど、分かりやすいがあれが先ほど考えていた核みたいなもんか。


 そう思い俺はその核まで移動し同じようにまた殴ろうとして光が消えた。



「おっと?」



 振り上げた拳をそのまま振り切ってしまい、また大陸が割れた。まさかいきなり転移するとは思わず少し加減するのが遅れてしまう。


 後ろを振り向くとあの赤い光に少しずつ飛び散った肉体が集まってきている。次は転移に気を付けつつ砕こうと考え、強襲する。大きく拳は振り上げない。最小限の動きでいい。イメージは某ボクシング漫画のフリッカージャブだ。スナップをきかせ拳を鞭のように振う。


 しかしまたも空振りとなる。でもその転移は一度見た。別の場所に現れた魔力源に向かって俺も転移。タイムラグはほとんどない。そのまま同じように殴ると見えない壁に阻まれた。



「む? バリアみたいなもんか? でもその程度で防げると思うなよ」



 威力を最小限にとどめていた拳に魔力を込める。そのまま力任せに拳を進めた。すると空間にひびが入っていく。まるでガラスが割れるみたいな蜘蛛の巣状のヒビだ。そのままさらに力を入れ、強引にそれを割った。


 そのまま拳を振う直前にまた転移で移動された。だが流石に3回目。奴が転移した直後にこちらも追いかけそのまま拳を振り抜いた。



「アアアアアアアアアッ!!!」



 赤い光が砕ける。そして男の断末魔のような叫び声が周囲に響いた。


「お、ビンゴか? ――ってなんだ」

 

 集まっていた肉片たちの動きが止まらない。まるで1つ1つが意思を持っているかのように集まり、蠢いている。先ほどまで龍の姿を取ろうとしていた肉片たちがまったく違う形へ変貌し始めた。



「アアアアアッ! 違う、これは、私のが望んでいたものでは、断じてない!!」



 

 人の顔だ。しかも随分と巨大な顔が形成されていく。これはもうエヴァンジルとは全く違う生き物、いや生き物とも呼べはしない。形成された顔はすぐに崩れ、また新しい肉片が内側から生まれてくる。実に気持ち悪い見た目だ。



「ははははッ!! いいねぇ最高だねぇ! まさか、まさか君がいるなんて!! 外へ出てみるもんだよ」



 笑い声が聞こえそちらを向く。そこには年老いた魔人が高笑いしながら上空へ上がって来ていた。



「誰だいあんた」

「んん? ああそうか。あの時は結局君と会わなかったんだったよねぇ。僕はファマトラ。魔王オルダートの副官だったって言えば分かるかなぁ。勇者レイド!」



 オルダート。中々強敵だった先代魔王。その副官だと。いたのかそんなやつ。



「知らんぞ」

「だろうね。あの戦いでも君は真っ先にオルダートを狙い、すべてを破壊した。お陰で僕も死に損なってしまったし、世界はこんなにもつまらなくなってしまった。退屈だったよ。オルダートのいない世界は。彼の語る新しい世界を僕も見たかったんだけど、まさかあの殺してもしなないような男が君みたいなガキに殺されるなんて思いもしなかったなぁ」


 ネチネチ喋る魔人だ。どうしたもんか。


「さあ。あの時の続きをしようよ! 彼は僕の最高傑作! 魔王オルダートの子息であり、彼以上の魔力を引き継ぎ、世界を破壊するためだけの魔王となった!」

「は? あれが魔王だと?」



 再生と崩壊を続けているように崩れたはしから新しい肉片が生まれている。っていうかアレがネムって事か? その割にネムの魔力は感じない。どうなってんだ?



「そうさ! まったく隠れてみていたけど、相変わらず世界の常識が通じないような力を持っているよねぇ。しかしもう必要はない、僕は自分の作品に十分満足している。殺したければ、殺すがいいさ。でも僕の魔王は止まらない。なんせ、無制限に世界の魔力を喰らい、再生を続けている。分かるかね? 魔王の力を持ちながら真祖と同じ不死となったのさ! すべてを消滅させても無駄だ。あの赤い結晶を君も見ただろう? アレは真祖ケスカの血を研究し作った心臓だ。それをカリオンと同期させてからエヴァンジルの肉体に組み込んだ。もう心臓を破壊しても無駄なのさ。ケスカ同様消滅させても必ず復活する。今は醜い身体だが時期に馴染んで――なんだこの光は?」


 


 すべてを光が覆う。



「ネタバレサンクス。ようはケスカと同じって事だろ。なら問題ない」



 ふむ。馬鹿で助かった。随分悦に浸って解説してくれているが、これはあれだ。オタク特有の早口って奴だ。中々貴重なものが見られたし弱点も分かった。ならさっさと終わりにするとしよう。カリオンって誰だか知らないけど、ネムの事も気になるしな。




「”極光霊耀きょっこうれいよう”」


 


 



ーーーー

更新がかなり遅くなってしまい本当に申し訳ありません。

体調を崩した後の仕事の取り戻しをするために時間がどうしても割けなくなっておりました。


多分少し落ち着いてきたと思いますので何とかペースを戻していきます。

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