第147話 恋々11

「――はい。そうです。ええ、情けない話ですが俺がやってしまうと被害が出るかと思いまして」

『気にするな。何度も君に助けられているのだ。少しでも力になれるならいくらでも力を貸そう。それでは例の場所へ行けばよいかな』


 昨日、長谷川が失踪し一晩中探して回ったが結局区座里を見つける事が出来なかった。恐らく、いや間違いなく長谷川は既に死んでいるだろう。なら犯人はもう区座里と考えて間違いない。あくまで動きを拘束するだけの力しかないからどこかに運ばれたのかもしれないと考えたが、長谷川に打ち込んだ魔力が既に消えている所を考えると、恐らく死体がもう残っていないのだろう。



「はい。また何かあれば連絡します」

『承知した』



 やれることは準備したはずだ。あとはこれ以上被害が広まらないようにするため、伝承霊の種を回収する必要がある。一応蓮に連絡し詳しい場所を隼人に思い出させている。出来ればすぐに実行したいのだが、そうできない理由がいくつかる。

 まず1つは、既に例のこっくりさんモドキをやっている学生が多く、恐らくその全員が呪者として縁を結ばれている可能性が高い。そのため、強引に伝承霊の元を潰すと被害が拡大する可能性が高いため、回収し封印する必要があると考えた。

 2つ目の理由は場所が学校という点だ。遠く離れた場所から、問題の学校の様子を確認しているが、夕方だというのに校庭は多くの学生が利用しておりとてもじゃないが近づけない。姿を消して侵入するのはたやすいのだが――。



「ここまで呪いの気配が広まっていると流石に大元がどこにあるかわからんな」



 そう。問題の学校に来て俺は驚いた。学校全体を呪いの気配が覆っている。これでは気配だけを頼って探すのは難しい。そのため放課後、完全に人が消えたタイミングで実行しようと考えた。



「勇実さん。お待たせしました」

「蓮か。隼人はどうした」


 

 少々驚いたことに蓮から今回の件で協力の申し出があった。少しでも俺への印象をよくしようとしているのだろう。小賢しいというかなんというか。だが、利用できるなら利用させてもらう。出来るだけ迅速に進めるためにも仕込んだ人間が協力的なのは良い事だ。



「隼人は学校の友人を呼びに行っています。どうやら例の物を仕込んだのはその友人らしいんです。あと……もう1つ勇実さんにお伝えしたい事があります」


 そういう蓮の顔がかなり強張っている。よい話ではないようだ。


「なんだ、話せ」

「その……ですね。昨日、あのあともう一度弟を締め上げたんです。何か妙な感じがしたので」

「妙な感じ……?」

「はい。確かに弟の隼人は停学してます。ですがあいつ自身停学中ってことを不満に感じた様子が今までなかったんです。だからどうしても担任を呪っているっていうのが納得できなくて、勇実さんが帰った後に締め上げて吐かせました」



 妙な胸騒ぎを感じる。


「言え、誰だ。隼人は誰を呪っていた」

「……あいつが本当に呪っていた相手は――って女です。どうも振られた腹いせらしくて」




 膨れ上がる感情を必死に抑える。今、この怒りを目の前の蓮にぶつけるのは間違っている。昨日のやり取り、そしてこいつの態度を見れば分かる。俺と利奈が知り合いだという事は理解しているはずだ。それを承知で今隠さず俺に報告をしている事を褒めるべきだ。これ以上、昔を思い出す必要もない。


「――そうか」

「申し訳ありませんッ! あいつもまさか呪った相手が勇実さんの知り合いだなんて思っていなかったんです」

「蓮。その考え方は間違っている。利奈だからだめなんじゃない。無関係な人を、自分の欲で巻き込むのがだめなんだ。今後二度とやるな」


 そう返すのが精いっぱいだった。利奈は大丈夫なはずだ。昨日確認したらちゃんと家に帰っているようだし――そうか! 利奈が以前言っていた、大蛇様って奴がこれか!

 くそ、あの時もっとちゃんと話を聞いておくべきだった。いやまだ大丈夫だ。この呪いが発動する条件は呪う対象の身体の一部が必要だったはず。仮に利奈が参加して呪いが発動するなら利奈に渡しているお守りが発動するはず。なら遠くにいても俺が感知できないはずがない。まだ呪いは成就していないはずだ。今日中にその大元を取り除けば――。




「ッ!」



 学校から感じる呪いが強まった。いや強まったというより分散していた呪いが学校に集まっていくのを感じる。



「兄貴、お待たせ。ちょうど放課後になったから小山を連れてきたぜ」


 隼人が1人の男子学生を連れてこちらに向かってくる。よく見ればあいつは以前隼人と一緒にいた男のようだ。顔に見覚えがある。


「おせぇよ。それでアレを埋めた場所は覚えてんだろうな」

「は、はい! 校庭の真ん中に埋めようと思ったんですが、すぐばれると思って近くの花壇に植えたんです。ただ、昨日隼人から連絡を貰って今日の朝に埋めた場所を確認しにいったら、なんか掘り返された跡があって……」

「は? おいどういう事だ」


 蓮が小山の胸倉を掴んでい怒鳴り声をあげた。そのやりとりを見て確信した。伝承霊が孵ったと。ならちょうど放課後になったという事は、利奈はまだ校舎の中にいるはず。

 

「蓮、お前らはそこで待機していろ。しばらくすると俺の知り合いがここに来る。そうしたらすぐ連絡をよこせ。いいな」

「は、はい。わかりました!」



 走り出し、学校へ向かう。途中、死角になる場所を見つけ移動し姿を隠し学校へ侵入した。まだ学校の中には生徒たちで溢れているが、これといって騒ぎになっている様子がない。だが間違いなく呪いの気配が強くなっている。どうする、魔力を放出して刺激してみるか? いや、下手に刺激するのは危険か。

 スマホが震えた。画面には利奈からのメッセージが表示されている。すぐにタップしてメッセージを確認した。


 

【学校で変な霊みたいなのに追いかけられてます。助けて】




 くそ、やっぱりか。――いやそうか! 今、この時点で利奈が襲われているなら伝承霊ではなく、利奈の場所を突き止めればいい。利奈には以前渡したお守りがある。あそこには俺の魔力が付着しているはずだ。くそ、気が動転して気づくのが遅れた。待ってろ!!






Side 利奈


 走る。ただ全力で廊下を走った。職員室からゆっくり逃げようとしたけどアレにすぐ見つかった。転びそうになりながらも無人の廊下を全力で走る。このまま昇降口に逃げて外へ行こう。そう思って昇降口に向かってひたすら走る。後ろから追ってくる気配を感じるけど怖くて後ろは振り向けない。


「はあ、はあッ!」


 あの角を曲がればすぐ昇降口に出るはず。そう思い両腕を必死に振り脱げそうな上靴に気を付けながら必死に走り――思考が停止した。



「な、んで」




 シャッターが閉まっていた。防災用のシャッターだ。でも何で閉まっているの。思わずシャッターを両手で叩く。ガンッ! と大きな音をたてて響く。幻じゃない。


『ドコ、リイナ。マッテ……』

「ひぃ」



 遥だった化け物の手が見えた。息が止まる。以前みたラブホテルの悪霊とは桁が違う。正真正銘の化け物に私はもう限界だった。曲がり角からあの巨大な蛇の身体をした遥が姿を現した。目が不気味に光っていて私はそれを見るだけで呼吸が出来ない。


「い、勇実さん」

『ミ、ミツケタ。イッショニ……ヒトツに……!』



 蛇のように身体を 蛇行させながらこちらに迫ってくる。目を瞑り勇実さんからもらったお守りを強く握った。その時だ。お守りが強く光輝いた。


「え……」


 とても強い光だけど不思議と眩しくない。とても暖かい光が私を包んでくれる。光が少しずつ収まっていくとそこにあの背中があった。とても大きな背中で、私を守ってくれている。本当に一緒にいて安心できる人。





「大丈夫か利奈」


「はい、ありがとう! 勇実さん!」



 

 


 

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前回あと2話と言いましたが、違いました。

もう少しかかります。

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