第141話 恋々5
自分のスマホに着信。通話をかけてきたのは現在行方不明とされている遥だった。通話するボタンをタップしすぐにスピーカーを耳につけた。
「遥ッ!? ねえ遥なの!」
『――――』
スピーカーの先から声は聞こえてこない。ボリュームを上げてもう一度耳に当てるがやはり何も聞こえなかった。私は少し考えて鞄をそのままにして走り出す。確かまだ職員室に遥の両親も、警察の人もいるはずだ。ならすぐに相談した方がいい。その間もスマホをずっと耳につけたまま階段を降り、職員室がある第一校舎に渡るための渡り廊下を走る。
「遥! 聞いてる? 何かしゃべってよ!」
『――――』
だめ、やっぱり何も聞こえない。とにかくこのことを知らせないと! 第一校舎の1Fにある職員室まで行き、扉を開け――私は言葉を失った。
「……
おかしい。さっきまで先生たちは何人もいたはずだ。恐る恐る職員室の中に足を踏み入れる。まだ湯気が出ているコーヒー、ちらばった書類、食べかけのお弁当。まるでさっきまで人がいたみたいだ。ゆっくりとした歩みが少しずつ早くなりさっきまでいた応接室の扉まで行く。本来であればノックをするべきなんだろう。でも今の私はそんな精神状況じゃなかった。怒られるのを覚悟で応接室の扉を開けた。だがそこにも誰もいない。さっきまで遥の両親と警察に出されていたお茶がまだテーブルの上に用意されたままだ。
「どう……なってるの――ッ!」
突然右手のスマホが震えた。画面を見る。そこには遥からの着信だった。いつのまにか通話が切れてたみたいだけど、またかけてきた? 一瞬迷ったがもう一度通話ボタンを押す。そして震えるを抑えるように両手でスマホを握り、スピーカーを耳につける。
『――――ドコ』
妙な音と共に微かに何か聞こえた。さらにスピーカーのボリュームを最大にして耳を澄ませて聞いてみる。
『――――ネエ、ドコニイルの?』
「ひっ!」
思わずスマホを握っている手を放してしまいスマホを床に落としてしまった。スマホのディスプレイには変わらず、そこに遥という文字が画面に映っている。どうするべきか考えていると通話画面に異変が起きた。スピーカーモードが勝手にオンになったのだ。
『ネェッ! ドコ! どコナノリぃなぁアアア!!』
「い、いやあああ!!」
両手で耳を抑えこの声が聞こえないように自分の声でかき消すように大きな声を出した。何が起きているのか理解できない、でもこのままじゃ絶対に拙いことだけは分かる。私はすぐに通話の切断ボタンを押したが反応しない。
『ドコドコドコドコオオオオ』
「なんで通話が切れないの!? お願い、お願いだから!」
何度も何度も、ディスプレイに映っている赤い通話を切るボタンをタップする。画面が割れるとか考えず親指の爪を叩きつけるように何度もタップしても通話が終わらない。
「ッだったら!」
スマホのサイドボタンを押す。電源を切ろうとした、いつもならすぐに電源オフのスライドボタンが出てくるはずなのに全然出てこない。何とか強引にでも通話を切ろうとしたけどどうしても切れない。そしてその後、スピーカーから聞こえていた声が少しずつ変わってきた。
『ドコ、ドこ? ――あ――
背筋が凍った。”いた”とはどういう意味? いや、本当はわかっている。ずっとこの声は”どこ”って聞いていた。それはつまり何か探しているという事だ。何を? 決まっている。理解したくなくても理解せざるえない。だってスピーカーから聞こえた声は私の名前を言っているんだ。
――ズル。
何か聞こえる。何かを引きずるような音だ。気が付くと通話が終了している。私は床に落としてしまったスマホをすぐに回収し職員室の机の影に隠れるように身を潜めた。空いている手で口を押え出来るだけ息を殺す。すると――職員室の扉が開いた音がした。
何か重いものを引きずるような音をたてながら何かが職員室に入ってきた気配を感じる。どうすればいいのか、何で自分がこんな目に遭っているのかも分からない。でもここにいてはいけないという事だけは本能でわかる。
スマホをポケットの中に入れて両手を床に着き、ゆっくり移動を始める。こうしている間にも職員室に来たソレは何かを探すように動いているのが感じられた。いったい何がいるのか見当もつかない。耳を澄ませて音がする場所を把握しながら移動する。
(――まずい。どうしよう)
私がいるのは職員室の窓側の机の死角だ。職員室の机は2つの島が出来ており廊下側の机の島へ移動するときは障害物がなくなっちゃう。これ下手なタイミングで移動すると自分の位置がバレるやつだ。どうすればいい。何が起きているか全然分からないけどこれはすぐに勇実さんを呼ばないとだめだってことは分かる。メッセージを送る? いや気づかない場合があるからできれば電話がいい。でもこの状況下で声なんて出せない。
落ち着け私、まずはメッセージを送るだけ送ろう。スマホで勇実さん宛にメッセージを打つ。長文を打っている時間はないから簡潔な内容にしよう。
【学校で変な霊みたいなのに追いかけられてます。助けて】
メッセージを送って次はカメラモードに切り替えた。そしてインカメラを起動してスマホのカメラ部分を少しだけ机から出るように持ち上げる。片手だと恐怖で手が震えるので両手でゆっくり、ゆっくりと。
「ッ――」
スマホのディスプレイに映った姿を見て声を出さなかった自分を本気で褒めたいと思った。そこには腕が6本の上半身だけの女性の姿がある。どういう理屈か分からないけど下半身が見えない。それに――。
(あの女の人の服。ボロボロだけど家の学校の制服に似ている気がする)
ここまで条件がそろえば鈍い私でもわかる。あれは――
ーーーー
昨日は更新できず申し訳ありません。
ちょっと今月はかなりバタバタしそうな予感がするため、更新が途絶える日が増えるかもしれません。
次の更新は恐らく土曜日です。お待たせする形となり申し訳ありません。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます