第133話 悪憑きー滅ー13
とりあえず自己紹介をした。すると横にいるダリウスが改めて紹介をしてくれた。
「こちらは勇実礼土さんという霊能者だ。先ほども話した通り1人でも協力者が欲しくて知人に相談して出来るだけ優秀な人を紹介してもらったんだ。それで勇実さん、あちらがノーマン。私の義理の息子のような男です。その横が卓さん。彼はノーマンの義父にあたります。そして彼が一ノ瀬さん、今回ヤマノケについての知識がある霊能者です」
「ヤマノケ……ですか?」
「はい。今回ノーマンの娘、そして私の義理の娘とも呼べるパウラ。その2人がヤマノケという霊に憑かれたのです」
「なるほど、一度その二人にお会いしても?」
とはいえ、場所は分かる。ここから少し離れた部屋に二人ともいるようだ。そちらの方へ足を運ぼうとした瞬間、後ろから声がかかった。
「ま、まってくれ。霊能者だって言ったな。本物なのか?」
「……どういう意味ですか」
そう声をかけられ後ろを振り向く。俺に声をかけたのは同業者らしい一ノ瀬だった。
「俺はこの業界で長く仕事をしている。だからある程度霊能者についても当然詳しいんだ。だが勇実なんて名前の霊能者なんて聞いたことがない。まさかこの人たちを騙そうとしているんじゃないだろうな?」
参った、まさか同業者から偽物扱いされるとはね。
「俺が本格的に霊能者として活動し始めたのはここ最近です。貴方が知らないのも仕方ないと思いますよ」
「最近活動したって事はだ、つまり素人に毛が生えたレベルって事だろう? なら余計やめておいた方がいい。今回のヤマノケは普通の方法じゃ祓えないかなり厄介な霊だ」
「いえ、ここから感じる気配で察するに精々ゴブリンレベルですし、大丈夫でしょう」
強さ的にはそれほどでもない。話を聞いた感じだと多少面倒な霊というレベルだと思う。
「一ノ瀬さん、まず勇実さんに任せてみませんか。一ノ瀬さんのおっしゃってる方法はあくまで最終手段という事でしょう」
「で、ですがダリウスさん。先ほども言ったようにもう時間が残されていない可能性があります。少しでも早い方がですね」
やはり妙だ。この一ノ瀬という男の纏わりついている気配が先ほどより強く感じる。少し試してみるか。
パンッ!
手を叩きこの家を包むように魔力を放出する。その際に強い光が一瞬発光したため、ノーマン、卓、一ノ瀬の3人は驚いたようだ。
「い、今のはなんですか?」
「すごい光らなかったか」
「おい、今のはあんたの仕業か!?」
ただ1人、横にいたダリウスだけは驚愕の表情をしているが何も言わず俺の顔を見ている。その表情が妙に気になるが後回しだ。なぜならさっきの魔力放出でおおよそ状況は掴めたからだ。
懐からポッキーを取り出し一本口の中に入れて考える。さてどうするか。
「おい、聞いてるのか? いきなり菓子なんぞ食べ始めやがって。さっきまで真面目な話をしていたんだ。もう素人は帰れ。ダリウスさんもそれでいいでしょう?」
そう一ノ瀬がダリウスに声をかけるが驚いた表情のまま固まっているようだ。とりあえず始めよう。
「一ノ瀬さん、貴方はどういう方法で霊を祓おうとしたのですか?」
「……なぜおまえさんに教える必要があるんだ。さっきも言った通り部外者は帰ってくれ」
随分敵視されているね。まぁ仕方ない。最悪強引にことを進めるべきか、そう考えていると固まっていたダリウスが会話に入ってきた。
「ヤマノケは痛みに弱いという事です。ただ生半可な痛みではヤマノケを追い出せない。一番確実な方法は出産時の痛みだと説明を受けました」
「出産ですか。ちなみに被害者の方は妊娠されているで?」
「いや、ノエルはまだ13歳。パウラにいたっては修道女ですから男性経験もないはずです」
そういってダリウスは首を横に振る。そしてその横で一ノ瀬は険しい顔でこちらを睨んでいる。
「さっきも言ったが俺は専門家なんだ。ヤマノケに関しては誰よりも詳しい。お前さんに下手なことをされてヤマノケが出ていかなくなったらどうする? 責任とれるのか?」
「何に対して責任なのかは置いておいて、先ほども言った通り気配だけなら大したことないので問題ないでしょう。あと痛みという事は、ヤマノケはその憑りついた女性の感覚を共有しているという事ですよね。なら実に容易い」
「まさかお前さん、痛めつけようってんじゃないだろうな!?」
「それこそまさか。少々怖い思いをさせてしまうと思いますが、傷1つ付けず対処しましょう」
話を聞いて思いついた方法が1つある。あまり好みではないが演技してみよう。
問題は祓った後だな。
「ダリウスさん。俺はあとから来たこいつは信用出来ません。どうか俺に任せて下さい」
「一ノ瀬さん」
「な、なんですか」
ダリウスは真剣な目で一ノ瀬の顔を見る。俺はその顔つきを見て少し驚いた。年老いた男の顔ではない、あれは戦いを決めた男の顔だ。
「一ノ瀬さんの方法はあくまで最終手段。我々もできればそれは取りたくない、本当に一番避けたい方法です。それはお分かりですか?」
「で、ですが。あの新米の霊能者が下手な事をしてもしヤマノケが抜けなくなったらッ!」
「それなら私は……貴方が来る前、何度も神に祈り聖水を浴びせ、十字架を掲げた。何度……何度もだ。それも下手な真似だったと?」
決して大きな声を上げている訳ではない。だがすさまじい気迫をダリウスから感じる。
「いや、そういう訳では……」
一ノ瀬は視線が泳ぎ、ノーマンや卓の方を見たりしている。
「では勇実さんの方法がうまく行けば何も問題はないでしょう。勇実さん、もう一度聞きます。貴方は彼女たちの貞操を奪わず、傷もつけずに本当に祓えますか?」
俺はダリウスの目を見て答えた。
「はい。任せて下さい」
俺がそういうとダリウスは小さく笑みを浮かべこういった。
「ならまず勇実さんにお願いしましょう。ノーマン、卓さんそれでどうですか?」
「……娘が、ノエルが傷つかない方法があるならそれに縋りたい」
「ノーマンと同じ気持ちだ。どうか、お願いいたします」
その二人の様子を見てダリウスは改めて一ノ瀬の方を見る。
「まず勇実さんにお任せします。よろしいですね?」
「……わかりました」
鋭い視線をこちらに向けながら一ノ瀬は頷いた。
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