第113話 愛しく想ふ9
ジャングルのようなビル群の屋上を跳躍しながら移動しタクシーを追っていく。この場合注意すべきは歩行者などではなく日葵の乗っているタクシーと同じ道を走っている車やバイクだろう。だがこれはこれで思ったより厄介だと今更に気づいた。通常の尾行などであれば人の気配や視線なんかですぐにわかるが今回の場合だと乗り物に乗っているとどうしてもそういった気配というのは希薄になる。
「とりあえず試してみるか……」
そう言葉をこぼしながらスマホを操作し事前に教えて貰っていた菅野へ連絡をする。こういう時は無線型のイヤホンは便利だね。
『え? 勇実さん。どうされました』
「元々の依頼の件です。いいですか目的地まではどういう道のりですか?」
『え、え? ごめんなさい。ちょっと状況がつかめないのですが……』
「菅野さんが乗っているタクシーですが先ほどコンビニの横を右折しましたよね。そこからの道のりはどうですかと聞いてます」
『ちょ、え!? なんでそんの分かるんですか!? まさか勇実さんってスト――』
「霊能力です!」
『あ! なるほど。流石ですね!』
これで納得するのか……。もうこいつマジで苦手。田嶋とは違う面倒さがある。いや田嶋はライバルだがこいつは単純に合わないって感じだ。
『えっとここからはずっと直進です』
「では二つ先の信号でわざと左折してください」
『え? それだと……』
「そのあとすぐ右折する。そんな感じのルートで今日は帰るようにしてください。いいですね」
『でも、ですね勇実さ』
通話中だがそのまま切った。今タクシーが通っている道は既に住宅街に入っている。後ろから同行するように走っている車は2台。念のためだ道を変更させた方がいい。
住宅の屋根を壊さないように足場を魔法で作りながらタクシーを追っていく。次の信号が指示をした場所だ。タクシーがウィンカーを出し指示通りに左折した。
正直菅野だったら無視するんじゃないかとかなり疑ったが流石にそこはこちらの言う事を聞いてくれてほっとした。もし本命の仕事でこっちの指示を無視するようならもう本当に断っていた。
「後続車は――曲がらないか」
念のため地上におり後続車の中も確認したが日葵が乗っているタクシーを目で追っていいる奴はいなかった。今回ははずれだったのか。それとも本当に日葵の気のせいなのか。
「まだ答えは出せないな」
とりあえず何が来てもいいように魔力をそれなりに放出して警戒しておくか。
あれから既に3日経過した。俺はカフェオレを飲みながら遠くから尾行している。時折熱っこい視線を日葵に向ける男には念のためマーキングしているがその後日葵に接触するような奴はいない。追跡者独特の不自然な視線なんかも感じないのが気になる。
『もしもし勇実さんですか』
「はい。大胡さんどうしました」
『例のCMの打ち合わせが決まりました。日葵ちゃんと一緒に新宿にあるスタジオまで一緒に行く形になります。一応いつでもよいと伺っていたので明後日で抑えてありますが大丈夫でしょうか』
「ええ。そろそろ一度日葵さんと話した方がいいと思っていたので好都合です」
『――例の件はどうでしょうか?』
声のトーンが少し落ちた。やはり心配しているのだろう。
「まだ何も。それらしい人間はまだいません」
『そうですか――菅野さんから聞いたんですが最近日葵ちゃん視線を感じないと言っているそうなんです。やはり勘違いだったのでしょうか』
視線を感じないね。
「大胡さんそれは何時頃からって聞いてますか?」
『確かちょうど食事会があった次の日です。菅野さんが聞いたと言っています』
これは偶然だろうか。俺が日葵の護衛を受けるようになってからストーカーが消えたという。狂言だった可能性もあるかと考えたがそれを瞬時にかき消した。
力ある者は揺らいではならない。
大蓮寺さんの言葉が頭を過る。依頼内容を信じ守ると決めたんだ。俺がそれを貫かなくてどうする。なら考えるべきは一つ。日葵が言っている事が全部事実だという事だ。
日葵が言うにはストーカーがいると言っている。この場合は後を付け狙う人物の事を指しているはず。そして俺が護衛に入ってからその視線が消えたと言っていた。それを事実だと考えて現在判明しているもう一つの事実。
それは俺が護衛をしてから日葵の後を付ける奴はいないという事だ。護衛がついたからストーカーが消えた。なるほど分かりやすい。だが実際はそう単純じゃない。
犯人は俺が雇われたという事を知ったから犯行をやめたのか。いやそれは違う。大胡が言うには今回俺に依頼したという事は大胡と菅野の二人しか知らないのだ。二人は当然犯人ではない。菅野はかなり疑ったが違ったのも確認済みだ。
こうやって考え付く可能性を削っていくと見えてくるものがある。今までの事件や経験を踏まえ考えるとこれは――。
俺がいるからストーカーは近づきたくても近づけなかった。
恐らくこれが答えだ。ではこの答から考えられる結論はなんだ? 断言してもいい。俺が日葵の傍について一度でも俺と日葵を関連付けてみた奴は一人もいない。そもそも俺は日葵から常に数百メートル離れて行動していた。そんな俺を日葵の護衛だと思うやつは一人もいない。だが事実俺がいるから近づけなかった。これは恐らくだが犯人は人間じゃなく霊ではないだろうか。
「でも霊がストーカーするなんて……」
いやそうか。前にも一度であったことがある。そうか確認する必要はあるが恐らく犯人は
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