第10話


今まさに俺と上原がエレナによって転移させられそうになった時、待ったをかける人物がいた。


全員が声を上げた人物を見る。


「え、うそ…」


「神崎さん…?」


「なんで…?」


クラスメイトたちがざわざわとしだす。


それは、声を上げたのが他ならぬ、学校一の美少女神崎加奈子だったからだ。


「可笑しいわ。あなたのやっていることはあまりに理不尽すぎる」


エレナを睨みつけながらそんなことを言う神崎。


俺は驚いていた。


助けは望めないと思っていたが、まさか声をあげてくれるやつがいるとは。


しかもこれまで頑なに周囲とコミュニケーションをとってこなかった神崎が…?


何故なのだろう。


「なんですか?神崎さん。問題でも?」


にっこりとした笑みを神崎に向ける。


例によって冷え切った笑み。


水を刺されて明らかに苛立っているのがこちらにも伝わってくる。


常人ならすぐさま口をつぐんでしまうところだ。


しかし、神崎は全く意に返さない。


「いきなり呼びつけておいて、勝手にスキルだのなんだのと評価して…それで満足できなかったから追放?頭おかしいんじゃないの?」


「あら、素晴らしい正義漢ですねぇ、神崎さん。でも、この世は理不尽なことだらけですよ?自分の意見を通したいのなら、それ相応の力が必要なんです」


そう言ってエレナがスッと右腕を上げ、神崎へと向けた。


「ひぃ!?」


「うわぁ!?」


途端に、攻撃を恐れた数人の生徒が神崎の周囲から離れた。


神崎は一人孤立した状態で、エレナと向かい合う。


「もう一度聞きます、神崎さん。何か問題でも?」


エレナから明らかな殺気が発せられる。


口答えしたら攻撃を加える。


言外にそう言っているように思われた。


「…もういい、神崎。ありがとう…もういいんだ…」


俺は小声で呟いた。


正直言って嬉しかった。


誰もが簡単に俺たちを見捨てる中、一人、命を顧みずに声を上げてくれた彼女には感謝しかない。


だからこそ…この場は引き下がって欲しい。


出ないと、あのイカれ王女が何をするかわかったもんじゃない。


「…力、ね」


神崎は目を細め、それから徐に「ステータス・オープン」と口にした。


「何を…?」


エレナが初めて警戒の色を表情に浮かべる。


そんな中、神崎が淡々と言った。


「スキル、速攻麻痺。スキルランクS。任意の対象を麻痺させることが出来る。回数制限なし。持続時間は5分。射程は30メートル」


「…」


「これがあたしのスキル。あなた方が言うように確かに強力な効果だと思うわ。だって30メートル以内にいる気に入らないやつを簡単に麻痺状態に出来るんですもの」


「…」


「ねぇ、エレナさん。あなたの言う力ってこう言うことじゃないの?この力をあなたに使ったら一体どうなるのかしらね?」


「…っ」


そう言った神崎は、あろうことか…徐に上げた右手をエレナに向けた。


「あいつ正気か…?」


「神崎さん、マジかよ…?」


「他のイカれ王女と戦う気なのか…?」


生徒たちがざわざわとする中、神崎が全く恐れることなく凛とした声音でいった。


「その二人を転移させるのをやめなさい。出ないと私は、スキルの力をあなたに」


「スリープ」


神崎の言葉は最後まで続かなかった。


エレナが問答無用で、神崎に対して魔法を使ったからだ。


神崎の体がぐらりと揺れて、地面に倒れる。


「…っ」


俺は思わず飛び出しそうになったが、よく見ると、神崎の体に損傷はない。


すー、すー、と安らかな寝息が聞こえる。


どうやら眠らされただけみたいだ。


「惜しかったですね、神崎さん。悪くない線を言ってましたよ。ですが、まだまだ未熟です。交渉を持ちかけるなら、まずは先制攻撃で私を麻痺させるベキでしたね。うふふ。しばらく眠っていてください」


エレナが楽しそうにそう言った。


それから、距離をとっている他生徒に向き直った。


「はい。では他に文句がある人はいます

か?」


「「「「…」」」」


今度こそ誰一人として声を上げなかった。


エレナがうんうんと満足そうに頷いた。


「それでは満を辞して…さようなら。役立たずのお二人さん」


エレナがこちらへと腕を向けた。


魔法陣の光が強くなる。


俺は目を閉じる。


直後、浮遊感が全身を支配した。



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