第9話


「こ、これは…?」


足元の幾何学文様をみて、上原が震え声で尋ねる。


エレナがにっこりと笑いながら答えた。


「これは転移の魔法陣です。どれほど離れた場所にも一瞬で移動することのできる、便利な代物なんですよ?」


「わ、私たちを…どこかに飛ばすってことですか…?」


「森の中です。モンスターがうじゃうじゃ跋扈するような」


「モンスター…?」


「うるさいですね。いちいち疑問を持たないでくださいどうせ死ぬんですからあなたは。それとも今すぐに死にますか?」


「ひぃ!?」


上原が引きつった声とともに、慌てて口を閉ざす。


エレナは幾何学文様に向かって手をかざし、何かを呟き続ける。


すると次第に、幾何学文様の発する光が強くなっていった。


おそらく魔法発動の過程なのだろう。


しかし…ナイスだ上原。


彼女のおかげで、エレナからかなりの情報を聞き出すことができた。


まず、エレナは今、俺たちをどこか森の中に転移させるといった。


つまりすぐには殺す気がないということだ。


また、そこにはモンスターが跋扈しているともいった。


それが意味することは…


「ガチャポイントを貯められるってことだな」


「何か言いました?」


「ああ、いえ。なんでも」


呟きをエレナに聞かれそうになり、俺は慌てて首を振った。


やがてエレナが何かを唱えるのをやめた。


魔法発動の準備が整ったようだ。


「これで転移の魔法陣完成です。それではこれから二人を森の中に転移させたいと思いますが…何か言い残すことはありますか?お仲間にお別れの挨拶など、してもいいですよ」


最後にエレナがそんなことを言って俺たちに猶予を与えてくれた。


「…っ」


上原を見ると、泣きそうな顔になって口を引き結んでいる。


別れの言葉がない…というよりもエレナが怖くて何も口にできないようだ。


「彼女は何もないみたいですね…では、あなたは?」


エレナが俺の方をみる。


俺は彼女に頷いてから、クラスメイトたちのほうを見た。


そして…


「なぁ、助けてくれよ」


「「「「はい?」」」」


クラスメイトに助けを乞うた。


「頼むよ。俺たち、同級生だろ?今、命の危機なんだ。頼む助けてくれ」


俺はなるべく悲痛な声で、助けを求めた。


クラスメイトがこちら側についてくれるという、一縷の望みにかけて。


だが…


「は?何言ってんの?」


「無理に決まってんじゃん」


「お前は役立たずなんだから、さっさと死ねよ」


クラスメイトたちの反応は、俺の想像以上に冷たかった。


誰も、他人のために自分の命を危険に晒すような愚行は犯したくないようだ。


「なんでそんなこと言うんだよ…?なぁ、頼む。エレナさんを説得してくれよ…」


それでも俺はわずかな希望にかけて、クラスメイトたちに訴えた。


どこかにあるかもしれない、彼らの良心に働きかけようと言葉を紡ぐ。


けれど、残念ながらそれは徒労に終わってしまう。


「無理無理」


「御涙頂戴?勘弁してよ」


「あんたのスキルが役立たずなのが悪いんでしょ」


「そうそう。私たちを巻き込まないでくれる?」


誰も手を差し伸べてくれるものはいなかった。


皆、俺たちに同情の目を向けるどころか、どこか蔑むような雰囲気さえある。


…ああ、そうか。


これがこいつらの本性か。


俺はそんな彼らの反応を見て、完全に袂を分つことを決めた。


「なるほど…それがお前らの答えか…でもいいのか?これ、完全に性格の悪いお前らが後から痛い目見るパターンだぜ?フリでもいいから、『こんなのおかしいよ!!』とか『同級生を見捨てられない!!』とかやっとくべきじゃないのか?」


腹いせにと言ってはなんだが、ちょっと煽るようなことを言ってみた。


途端にクラスメイトたちの表情が明らかに苛立つ。


「うるせーな!」


「さっさと死ねよ!!」


「は?何言ってんの?」


「キモ。まじで気色悪い」


「本当無理。目障りだから消えてくれない?」


恥じることもなく、口々に俺に向かって暴言を浴びせてくる。


「…」


俺は完全に説得を諦め、チラリとエレナに視線を通した。


「…ぷーくすくす」


一部始終を観察していたエレナは、心底おかしそうに肩を震わせている。


この女…


覚えていろ。


絶対に復讐してやる。


「それではお別れも済んだようですし、転移させますね。じゃ、さよな」


「待ちなさい!!」


いよいよエレナがクラスメイトから完全に見捨てられた俺たちを転移させようとしたその時。


「おかしいわ。あまりに不正義よ」


一人の少女が、待ったをかけたのだった。


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