第14話 癒しの天使様は仕送りが多くてお困りです⑥

 博さんから了承をもらい、裏口で天谷さんが出てくるのを待っていた。

 

「お待たせしました」

 

 制服姿の天谷さんが裏口から出てきた。


「お疲れさん。そして、ごめん」

「え、え、どうしたのですか?」


 開口一番に俺は謝った。

 天谷はさんはなぜ謝られたのか分かってない様子であたふたしていた。


「さっき、からかいすぎた」

「な、なんだ〜。そんなことですか。別に怒ってませんよ?」


 天谷さんはクスクスと笑った。

 俺はホッと胸を撫で下ろした。


「それなら、よかった」

「唯川さんにからかわれたくらいで怒ったりしませんよ。それなら、私は毎回怒ってますし、たぶん唯川さんと話さなくなっていると思います」

「天谷さんと話せなくなるのは嫌だな。気をつけるよ」

「だから、別にいいんですってば。いつも通りの唯川さんでいてくれれば」

 

 天谷さんはそう言うが、気をつけようと俺は思った。


「さて、帰りましょうか」

「そうだな」


 駅に向かって歩きながら、さっき博さんにした提案を天谷さんにも話した。


「なるほど、それはいい考えですね」

「まぁ、もらってくれるかは分かんないけどな」

「でも、少しでも、もらってくれるだけで嬉しいですから。その提案乗らせていただきます」

「そっか」

「はい。唯川さん、私のために考えていただきありがとうございます」


 そう言って天谷さんは丁寧に頭を下げた。

 他の誰でもない、天谷さんのためだからな。


「そうと決まれば、次の休みにでも運ぶか?」

「そうですね。よろしくお願いします」

「了解」


 駅に到着して、電車に乗った。

 今日は運良く席が空いていて座ることができた。

 天谷さんと一緒に席に座った。


「座れてよかったですね」

「そうだな。ところで、天谷さん。これからシャンプーもらいに行ってもいい?」

「え、シャンプーですか?いいですけど、この前いらないって言ってませんでした?」

「ちょっとな。もらってきてほしいって言う人がいてな」

「その方は女性で?」

「まぁ、そうだな」


 俺がそう言うと天谷さんの顔が少し曇った。

 

「・・・・・・そう、ですよね。唯川さん、素敵な方ですもんね。彼女くらいできますよね」

「ん?天谷さん勘違いしてるよ。彼女とかそんなんじゃないから」

「え、そうなんですか!?」


 今度は、雲一つない快晴の時の太陽のような眩しい笑顔になった。

 そんな顔されたら勘違いしちゃうんだが!?

 俺はその思いを顔に出さないようにして頷いた。

 

「じゃあ、その女性の方とは・・・・・・?」

「うーん・・・・・・」


 俺と天谷先生の関係をどうやって話そうか。

 普通に生徒と先生?

 それは、それで誤解されそうだしな。

 かといって、天谷先生のことを言うわけにはいかないし・・・・・・。

 もう、この際、お姉ちゃんということにしてしまうのはどうか?

 もしかしたら、いずれそうなるも・・・・・・って、何考えてんだ俺!?


「し、親戚のお姉さん、かな・・・・・・」

「そうなんですね」


 結局、親戚のお姉さんってことで落ち着いた。

 まぁ、あながち間違ってもないだろう。

 電車を降りて天谷さんの家に向かう。


「あの、次の休みに運ぶのはいいんですけど、私たち2人だけで大丈夫ですかね?何往復もしないといけないですよね。きっと・・・・・・」

「うーん。一応、さっき言った親戚のお姉さんに頼んでみるつもりだけど、もし断られたら2人で運ぶことになるね」


 たしか、天谷先生は車で学校に通勤していたはずだ。

 頼んで協力してくれるかは分からないが、一応話はしてみる。

 というか、今、連絡してみることにした。

 俺はお昼に天谷先生からもらった連絡先にメッセージを送った。

 

「大丈夫ですか?その、迷惑じゃないですか?」

「全然。天谷さんのためだからね。何往復だってするよ」

「なんか、いつも助けてもらってばっかりですみません」

「気にしないで。迷惑だなんてこれっぽっちも思ってないから」

「ありがとうございます。また、何かお礼させてください」

「じゃあさ、この前のケーキ屋、一緒に行かない?たしか、ケーキバイキングしてたよね?1人で行く勇気がなくて・・・・・・」

「もちろんです!ぜひ、一緒に行きましょう!」

「約束な」

「はい。約束です」


 天谷さんは目を細めて嬉しそうに笑った。

 本当に可愛いな!?

 この笑顔はやっぱり癒しだ〜。

 てか、さりげなく約束を交わしたけど、よく考えたら、これってデートだよな。

 今からすでに当日がめっちゃ楽しみなんだが!?

 天谷さんの家に到着した。

 

「さ、上がってください」

「お邪魔します」


 家に上がり、仕送りが置いてある部屋に向かう。

 そこで、天谷先生から写真を撮ってこいと言われたのを思い出した。


「そうだ。これさ、写真撮ってもいい?」

「写真ですか?何に使うの分からないですけど、いいですよ?」

「ありがとう」


 1個ずつ丁寧にダンボールを開けて、写真を取っていく。

 昨日も思ったが、本当に送ってきすぎだろ。

 全ての仕送りの写真を撮るのに10分以上もかかってしまった。


「もう、大丈夫なのですか?」

「うん。ありがとう」


 写真も撮ったし、シャンプーももらった。

 今日の目的は達成した。


「じゃあ、俺はそろそろ帰るよ」

「はい。ケーキバイキング楽しみにしてますね!」

「その前に重労働があるけどな」

「ですね。よろしくお願いします」


 天谷さんは丁寧に頭を下げた。

 相変わらずその所作は美しい。

 天谷さんと「おやすみ」の挨拶を交わして、天谷さんの家を後にした。

 自分の家に到着すると、天谷先生からメッセージが返ってきていた。


☆☆☆

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る