第13話 癒しの天使様は仕送りが多くてお困りです⑤
鳴瀧の相談を終えた俺は急いで『鈴のカフェ』に向かった。
カフェに到着し、お客として店の中に入った。
今日も今日とて、天谷さん目当てのお客さんがたくさんいた。
俺は空いていたカウンター席に座った。
「唯川さん。用事は終わったのですか?」
「うん。終わったよ」
「そうなんですね。お疲れ様でした。いつものでいいですか?」
「ありがと。うん、いつものお願い」
いつもので通じるくらい、俺はこのカフェに通っている。
俺と天谷さんだから、通じるのではなく、博さんや凛さんでも、いつもので、と注文したらココアを淹れてくれる。
なんだか、少し大人になった気分だ。
なんてことを考えながら店内を見渡した。
店内には俺も知っている常連さんがチラホラ。それと、知らない顔のお客様が数人いた。
「今日はいないか・・・・・・」
どうやら、天谷先生は来ていないらしい。
天谷先生は天谷さんのお姉さんで、このカフェの常連だ。それを知ってからは、こうやって来ているのかどうかを確かめるようにしている。
いまだに、カフェで顔を合わせたことはなかった。
本人曰く、天谷さんにバレないように変装をして来店しているらしく、それを俺が見抜けるかどうかというのは疑わしいとこだった。
実の妹の天谷さんですら、見抜けないのだから、生徒と先生という関係でしかない俺が見抜くのは至難の業だろう。
「お待たせいたしました」
天谷さん特製のホットココアが目の前に運ばれてきた。
「ありがとう」
「ところで、誰かお探しですか?」
「え、どうして?」
「唯川さん、最近、お店の中をキョロキョロと見渡してらっしゃるので」
「よく見てるな」
「そ、それは・・・・・・」
天谷さんは頬をほんのり赤くして、顔を逸らした。
天谷さんには天谷先生がお店に来ているというのは極秘事項だ。だから、俺はてきとうに誤魔化した。
「ううん。相変わらず天谷さん目当てのお客さんが多いなと思って見てただけ」
「なっ!?そ、そんなことないですよ!?」
「いや、常連さんのほとんどは天谷さんのことを見に来ていると思うぞ」
「さ、さすがにそれはないです!?」
ほんのりからがっつり顔を真っ赤にした天谷さんは両手で顔を隠してしまった。
実際に、常連のほとんどは天谷さん目当てで来ていると俺は思っている。コーヒーを飲みながら天谷さんのことを目で追っているおばあちゃんやパスタを食べながら、天谷さんのことをチラチラと見ているサラリーマン。その人種は様々だった。
もちろん、『鈴のカフェ』の料理や飲み物や雰囲気が好きという人もいるだろうけどな。
「か、からかうのはやめてください!」
「別にからかってはないけどな。ただ、事実を言っただけで・・・・・・」
「事実ではないので、唯川さんは私をからかってます!」
「なんだそれ・・・・・・」
「私、目当てのお客様なんて、いるわけないじゃないですか」
「目の前にいるけど?」
「もぅ、知りません!唯川さんはホットココアで火傷すればいいんですっ!」
そう言って天谷さんは他のお客さんのところへ向かっていった。
「火傷なんてしないよ」
まぁ、今の天谷さんの頬に触れたら火傷しそうだけどな。
そう思いながら、ホットココアをふぅふぅして、一口啜った。
今日の天谷さん特製ホットココアも絶品だ。
「こら、唯川君。天谷ちゃんをからかったらダメでしょ」
さっきのやりとりを見ていた凛さんにデコピンをされた。
「いや、でも、事実ですし・・・・・・凛さんもそう思うでしょ?」
「それは、そうなんだけどね。だからって、からかいすぎよ」
「俺は別にからかってるつもりは・・・・・・」
「唯川君にその気がなくても、天谷ちゃんがそう思ったら、それは、もう立派なからかいなのよ?」
そう言われて、その通りだと思った。
自分の気持ちと相手の気持ちが必ずとも一致してるとは限らないのだ。
帰りに、天谷さんに謝っておこう。
「まぁ、天谷ちゃんも鈍感よね〜。自分がどれだけ人気者か気付いてないものね」
「そうですね。天谷さんはもう少し自覚したほうがいいと思います。自分がどれだけ可愛いかを」
「そうね〜。それに気づかせてあげるのも彼氏である唯川君の役目なんじゃない?」
「散々言ってるんですけどね・・・・・・」
というか、本当の彼氏じゃないんだよな。
残念ながら、彼氏のフリなんだな。
まぁ、それはさておき、天谷さんには本当に自覚してほしいものだ。自分がどれだけ可愛いのかを。
俺は常連さんの接客をしている天谷さんの横顔を眺めていた。
つい、見惚れてしまうほど可愛い。
「おーい。唯川君ー!」
「は、はい」
「大丈夫?天谷ちゃんに見惚れてたみたいだけど」
そう言うと凛さんは優しく微笑んだ。
「大丈夫です」
「見惚れるのはいいけど、ほどほどにね〜。ちょっと、私も常連さんの相手してくるわ〜」
「わ、分かってますよ。いってらっしゃい」
凛さんを見送ると、俺はすっかりと冷めたホットココアをぐいっと飲み干した。
そこで、あるアイデアが頭に浮かんだ。
これなら、すぐにあの仕送りを消費できるんじゃないか?
「・・・・・・常連さんね」
博さんが許可を出してくれたら、天谷さんには話してみるとするか。
俺は博さんのところに向かって、さっき思いついたアイデアと天谷さんの事情を話した。
☆☆☆
明日より、2話投稿になるかもです!
お楽しみに☺️
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます