第12話 癒しの天使様は仕送りが多くてお困りです④
その日の放課後。
帰る準備をしていると鳴瀧に声をかけられた。
「唯川、一緒に帰らねぇか?」
「は?なんで?」
「ちょっと相談したいことがあるんだよ」
「いや、だから何で俺?」
「それは、お前が適任だからに決まってるだろ」
「意味がわからん・・・・・・」
意味がわからんが、鳴瀧が困っているのは顔を見て分かった。
どんな理由で困っているのかは知らないが、困ってる人を見捨てるのは良心が痛む。
俺は分かりやすくため息を吐き、言った。
「はぁ〜。少しだけだぞ」
「おぅ!サンキューな!」
カバンを肩に提げ、鳴瀧と一緒に教室を出た。
学校を後にして俺たちが向かったのは、いつもカフェに行くために使っている駅の近くのファミレスだった。
そうだ。天谷さんに連絡をしておかないとな。
今日も天谷さんはバイトだと言っていた。おそらくバイト終わりには間に合うだろう。というか、絶対に間に合わせる。
俺は天谷さんに連絡をすると、ドリンクバーを頼んだ。
鳴瀧はここで夕飯をすませるらしく、この店で1番安い日替わりメニューを頼んでいた。
「で、話ってなんだよ」
「その前にドリンクバー取りに行こうぜ」
そう言って鳴瀧は1人立ち上がるとドリンクバーのところは行ってしまった。
「マイペースかよ」
仕方がないので、俺もドリンクバーを取りに行った。
カルピスの入ったコップを片手に席に戻った。
「で、今度こそ聞かせろよ。相談ってやつ」
「あぁ、実はな・・・・・・俺、告白されるらしい」
「は?」
「いや、だからな・・・・・・」
「2回も言わなくていい。告白されるんだろ。よかったじゃないか」
「いや、それがよくないんだって、俺としては告白を断りたいんだよ」
「なぜ?」
「いや、それお前が言うのかよ」
鳴瀧は腹を抱えて笑った。
「唯川、お前なんて呼ばれるか知ってるか?」
「知らんし、興味ない」
「教えといてやるよ」
「いや、いいよ」
「遠慮するなって」
「いや、本当に興味ないんだって」
こんな話をするからないなら、早く天谷さんに会いに行きたい。
俺が学校でどう呼ばれてるかなんて、興味がない。
「『告白キラー』それが、唯川の呼び名だ」
「クソみたいな呼び名だな」
「唯川がいろんな女性からの告白をことごとく断るからだろ」
「だって、興味ないし・・・・・・」
俺には天谷さんがいるから。
他の女性に目移りしてるキャパはない。
まぁ、彼女ではないんだけどな・・・・・・。彼氏のフリはしてるけど。
「まさか、彼女でもいるのか?」
「・・・・・・いや」
「最初の沈黙が気になるな。まぁ、いいか。それで、唯川に相談したいことっていうのは、告白の上手な断り方だ」
「は?」
「いや、だから・・・・・・」
「うん。2回も言わなくていい。悪いけど、他をあたってくれ」
正直、上手な断り方とか言われても分からん。
俺はただ相手をできるだけ傷つけないように断るってるだけだし。
それでも、断られた方は傷ついてるんだろうけどな。
それは、申し訳ないといつも思ってる。
「いや、唯川以外に適任がいないと思ったから聞いてるんだが?」
「聞かれても困る。俺はただ告白してきてくれた相手を傷つけないようにと気をつけてるだけだし。だから、上手な断り方なんて言われても分からん」
「そうか。なら、仕方ないな」
鳴瀧はあっさりと引き下がった。
「やけにあっさりと引き下がったな」
「だって分からんのだろ?なら、聞いても仕方ないだろ」
「まぁ、そうなんだが・・・・・・」
やっぱり鳴瀧はマイペースなやつだ。
「時間取らせて悪かったな。もう、帰ってもいいぞ」
「え、いいのか?」
「あぁ、何か予定があったんだろ?」
「まぁ、な」
まさか、見抜かれていたとは・・・・・・。
驚きだ。
俺はそんな素振り1回も見せてはいないはずだが。
「本当に帰ってもいいのか?」
「おう!相談に乗ってくれて、サンキュー!また、相談に乗ってくれ」
「俺でよければ・・・・・・」
「頼りにしてるぞ!」
「じゃあ、俺は帰らせてもらう」
「おう、また明日な」
ちょうど、鳴瀧の日替わりのご飯が運ばれて来たタイミングで俺は席をたった。
ファミレスを後にして、俺は駅に向かう。
もちろん、目的地は『鈴のカフェ』だ。
天谷さんには会える。そう思っただけで俺の足取りは軽くなった。
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