第31話 と言う事で、辛い現実を突き付けられた俺は死神への復讐心を高めます。

俺はその日、一つのショックを受ける事になる。


自分が対面している現実が、こんなにも残酷で冷酷な事なのだと言う事実を叩き付けられる。

 それがどれだけ辛く、そしてどれだけ自分を追い込むか…。


  それを知る日が今日とはな…。


 俺が目を覚ますと外ではシトシトと雨が降っていた。今思い返すと、ここに来て初めての雨だ。

 たまにはこう言うのも良いな。元々雨は嫌いだったが、今なら少しだけ好きになれそうだった。


 とりあえず朝食を食べるべく、食卓に向かう。そして朝食を食べ終えるといつもの如く洗い物と洗濯を済ませる。しかし外では雨が降っている為、洗濯物は部屋干しだ。少しジメついてしまうが仕方無い。


 今日は正装(魔王コス)は着ていない。そう言う気分じゃないからだ。


 玄関を出て屋根のあるテラスで景色を眺める。と言ってもただの森と少し大きな町の入り口が見えるだけなんだけどね。


 雨足が少し強まってきた。目の前の景色も次第に霞んで見えてくる。ふと森の奥を見た時、何かが近付いてくるのが解った。それは小さな影が三つ。とぼとぼとした足取りでこっちに向かって来ていた。


 その正体を見た俺は戸惑った。《超見切り》と《能力透視》を疑ったが、これは紛れもない【子供】だった。ステータスも全て低く、潜在能力も解放されていない。唯一女の子の潜在能力に《神の加護》が付いているぐらいだ。見た感じの年は十歳前後。男の子二人に女の子が一人。こんな雨の日に傘もささずに何でこんな所に…?


 疑問に思いながらその子達を見ていると、いきなり顔面に石が飛んできた。《超見切り》が付いている為片手でキャッチできたが、これは明らかに攻撃を意味した石だな。再び子供達に目を向けると先頭に立っていた男の子【ライア】が、俺に向かって精一杯の威嚇を現した声を上げる。



ライア「おい魔王!!俺達と戦え!!」



 …た、戦え?

 

 ここに来る奴等は今まで全員、俺を討伐する為に来ていたのは知っているが、まさか子供まで来るとはな…。唖然とした態度で見ていると後の二人、【ベイゼ】と女の子の【ルナ】がそれに続いて声を上げる。



ベイゼ「よくもこの国をこんな目に会わせてくれたな!!」


ルナ「ママとパパを返して!!」



 こんな目に会わせてくれた…?


 ママとパパを返して…?


 こんな目に会わせてくれたは解るけど、ママとパパはちょっと解らんぞ。

 けど、何だろうか。この胸をざわめかす嫌な予感は。


 三人に親の事情を聞いてみる。そしてその涙ぐみながら帰ってきた返答に言葉を失った。



ライア「お前がここに来て…あの女…ミリリアがこの国を支配してから…今まで平和だったのに全部ぶち壊れたんだよ!!」


ベイゼ「ミリリアの都合で色んな人が痛い目を見て…死んだ人だって出たんだ…!!」


ルナ「ママもパパもずっと家に帰ってこない…!!帰ってきても…すぐにまたお仕事に行っちゃう…!!」


ベイゼ「お前のせいで…兄さんと…父さんは…!!」

 


 死人が出た…?

 

 すぐに仕事に行ってしまう…?

 

 三人の声が聞こえたのかリーナさんが「何事?」と言いながら城の中から出てきた。間も無くしてリーナさんは状況を理解したのか顔の色を曇らせる。直後に「あの女…なんて事を…!!」と歯を食い縛りながら言った。


 その一言で俺は状況を全て理解した。


 依然として三人は俺に向かって石を投げてくる。ショックが大きくてキャッチする気にもならない。足取りが重く、呼吸をするのでさえ苦しく感じる。額や腕に当たる石は、今までのどんな痛みよりも強く感じた。シミュレーションのゴーレムの打撃やゼータの攻撃が柔らかく感じる程強く。

 

 そして気が付けば俺は無言のまま泣きながら三人を抱え込むようにして膝を着いて抱き締めていた。その涙が雨の滴と共にルナに落ちた時、ルナは何かに気付いた様にライア、ベイゼに語り掛けた。



ルナ「この人…悪い人じゃない…。神の加護が反応してない…。」



 その言葉に二人は「何だって?」と戸惑いながらも信じた様子を見せる。直後、さっきまでの緊張や溜まっていた思いが全て解き放たれたかの様に大粒の涙を流し泣き始めた。


 俺は何も言わずに、ただただ「すまなかった…本当に…すまなかった…。」と言って泣く事しか出来なかった。そんな自分が情けなくも思えてくる。その様子をリーナさんは暗く、悲しい表情のまま見ていた。

 

 俺達が泣いていて少しの時間が経った時、森の方から別の声が聞こえてきた。その声の主は男女。

 その中の一人が少し声を荒げ、俺に言葉を放つ。


女「家の子を放して!!」


 

 すすり泣きながら前方を見る。そこには四人の男女がいた。全員それなりに年を取っている。


 家の子って事は、この子達の親なのか…?

 

 続いて一組の夫婦がルナの名を呼ぶ。三人が親の顔を見た瞬間、俺は三人を放した。すると三人は一目散にそれぞれの親の元へと走っていった。

 ルナは夫婦の元へ、ベイゼは母親と見られる女、ライアは父親と見られる男に向かった。


 親の顔もろくに見れずに俺は頭を下げて謝った。許される事では無いが謝り続けた。そんな俺を見たルナがさっきライアとベイゼに言った事を同じ様に親に伝える。すると父親は静かに頷き落ち着いた声でその場にいた人に言った。



ルナ父「…どうやら、騙されていたのは私達だった様だな…。」



 それに続いて母親も口を開く。



ルナ母「えぇ…。この方には何も悪いものは感じない。むしろ正しき心が燃えたぎる生命力を感じる。」


 

 …え?


 頭を上げて申し訳なさ混じりに親達のステータスを覗く。案の定、ルナの両親の潜在能力に《神の加護》があった。

 それにプラスして何よりも驚いたのが、ライアの父親が、俺がイヴェンタに来た時に一番最初に行った経験値習得場の店主だった。


 思わず「あ…!」と声に出してしまう。それと同時に相手も「あんたは…!」と口にする。次の言葉を聞いた俺は人情の暖かさと出会えた事への感謝で溢れ返った。



ライア父「元気そうで何よりだ!!また会えて良かったぜ!!」


千智「え…。」



 腑抜けた声と間抜けな顔で返事をしてしまった。その後で「何で…俺…魔王なのに…」と言うと、笑顔のまま返事をしてくれた。



ライア父「そんな事どうでも良いって!!まぁ最初はちょっと警戒しちまったけどな(笑)

でも、ルークが連れてきた奴に悪い奴はいねぇよ!それに、最初にあんたを見た時、悪いもんなんか微塵も感じなかったぜ!!だから、もう気にすんな!!」



 人の暖かみと言うものは本当に自分を支えてくれる。

 

 俺は数分間の間、その場で膝を着きながら泣いていた。


 その後、屋根の付いたテラスの下に全員を案内し、現在のイヴェンタについて聞いてみた。だが、その現実はあまりにも残酷で悲惨なものだった。


 ミリリアがこの国に降りたって以降、町では不穏な空気が流れる様になったらしい。そしてミリリアは自らを女神と称して国民を洗脳、コントロールして自分の思うままに生きている。さっきベイゼが言ってた兄と父の死、それはミリリアに反乱した事によって起こったと言う。また、ベイゼの兄は俺が一番最初に来た時に話した、あの役場のイケメン役員だった。知っている人物だったが為に余計に胸が苦しくなる。その事例は他にもあり、死んだ者、重い罰を受けた者はそう珍しいものでは無いのだとよ。


 他にも気に食わなかった、イライラしたからって事が理由で罰を受けるってものあった。


 今やイヴェンタはミリリアに支配され、ミリリアの私利私欲の為に働かされているのが現実。それが原因で今回、ライア、ベイゼ、ルナの三人が俺の元へと来たのだ。

 とは言え結果的にはそっちの方が好都合だった。これ以上犠牲を増やす訳にはいかないし、少なくともここにいる人数分は救えたのだから。


 これからは今までよりももっと多くの時間を共に過ごし、親のありがたみ、子のありがたみが身に染みて感じられるだろう。


 しかし、俺はミリリアを許せなかった。今までもそうだったが、今回の一件で更に恨みの念が強くなった。


 テラスを出て雨が降る中、空に向かって精一杯の声を張り上げ、ミリリアの名を叫んだ。



千智「ミリリアァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!」



 怒りが表に露になったかの様に周囲を熱気が包み込む。それに反応するかの如く俺から光りが空へと放たれ、その光りが空で円を出現させながら眩しく輝き、さっきまで降っていた雨を一瞬の内に止めた。


 俺達の上にはキリッとした青空が拡がり、どんよりとしていた空気を清々しい空気へと変えた。

 そしてそれは、今から俺を迎えるミリリアとの本当の決戦の始まりを知らせている様にも感じられた。



【今日の千智のステータスチェック!!】



【葛城千智】Lv.280 HP59/∞ (異国の民)

《火魔力:580(上限∞)》《水魔力:154(上限∞)》

《風魔力:142(上限∞)》《光魔力:158(上限∞)》

《闇魔力549(上限∞)》《打撃魔力562(上限∞)》

   《未解放特殊潜在能力:不明》

《解読能力》《浮遊》《能力透視》《演技》

《侵食》《冷静》《戦略》《超見切り》

《ド根性》《覚悟上等》《ホームラン王》

《起死回生》《漢気》《友好》《護衛》

《死神の加護》《超魅力》《超誘惑》《色気》《NTR》《デンジャラスキッカー》《五感鬼神》

《無邪気》《魂の投手》《アイコンタクト》

《調整》《超記憶抹消》《心の潜入》《疑り》

《判断力》《超妄想癖》《イメージング》

《実現化》《残忍》《無慈悲》《冷酷》

《クソオタ》《ネメエタ信者葛城》《潜伏》

…………………………………………………………

《マインドコントロール》《正義の心》

《正しき道》《天候変化》《決心》



 待ってろよ…ミリリア…!!

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