第30話 ちょいとアンドロメダを西南に(7月15日)

 三日坊主が信条の私にとって、このように「日記」がひと月も続いたのは感慨深く、それでいて欠かさずのアップではなかったためどこか心苦しいものがある。

 ただ、この書き散らしにお付き合いいただいている方がいらっしゃることを思うと、私はどこに足を向ければよいのかと悩んでしまう。

 試みにエル字バランスで寝ようとしたこともあるのだが、どうにも足から血の気が引いて寒気が襲ったため断念することとした。

 今は二階建てアパートのロフトで少し足を上げて眠るような日々であるが、これでは読者の誰かに足を向けているかもしれない。


 地球が球体であるという前提に立てば、私の足先が直線を描くとして拙著の読者に当たる確率はたかくなってしまう。

 そこで、仰角を十五度ほどにできれば多少は改善できるものの、これもまたとても眠れるものではない。

 以前、記念館「三笠」内を見学した際に、船員がハンモックに寝る姿が再現されていたが、とても眠れるものではないと驚いたものである。

 まあ、私なぞは対馬海峡の荒波など抗うことも叶わず、洗面器と義兄弟の契りを交わし、砲煙弾雨の中で別の彼岸を歩むのが精々である。

 また、地上とはいえあの角度で日々寝てしまえば、今度は眠れる持病が頭をもたげかねない。

 人様に足を向けて眠らぬということであれば、病床にふけってしまえばお終いである。


 では、少しだけ仰角を得られるとすればどうであろう。

 正接(タンジェント)の一度はコンマゼロ一七であるため、一キロ離れれば私の足からの直線は十七メートルの高みに位置することとなる。

 比例の関係にあるため、百キロ離れた福岡では単純計算で千七百メートルの高さにまで至っており、ここで誰かに当たる心配というのは杞憂というものであろう。

 地球が球体であることを加味すれば、より高度は高くなって安全である。


 とはいえ、これでは近所に住む拙著の読者に足を向けてしまうこととなる。

 直立したままの睡眠や映画の剣豪よろしく体育座りで寝ることも考えたが、階下の方が拙著の読者であれば合わせる顔がない。

 この部屋に住んで七年になる中、顔を合わせたこともないのであるが。

 それに南米の洋上で拙著を楽しみにしていた読者と一直線で繋がる可能性も否定ができない。

 地球は一つというが、こうした時にも思い出すべきであろう。


 こうなると、足を直立させるしかなくなるのだが、三階以上がない我が家とはいえ、それでも上空を行く飛行機の中で私の作品を楽しみにして下さっている方もいるかもしれない。

 さらに高度を上げれば国際宇宙ステーションもあり、宇宙飛行士が心の慰みに地上で集めて置いた拙著を目にする酔狂すら否定は困難である。

 加えて、平安の世からこの広い夜空のどこかには知的生命体の済む星があると考えられ、その存在自体は肯定はされておらずとも否定もされていない。

 六十億光年の先に、砂浜に流れ着いた一つの瓶詰のような電波で拙著を読み、愛する者が出る可能性もある。

 そのように貴重な読者を無碍にしては罰が当たるというもので、エル字バランス睡眠の練習も止めねばなるまい。


 はてさて私はどこに足を向けて眠れるものだろうかと考えたのだが、拙著の閲覧数を以ってこの愉しい想像を妨げるのは少々もったいない。

 いい大人の馬鹿げた妄言と指摘されてしまえばそれまでだが、文章という必要最小限の情報だけで作り上げられた作品は、果てしない距離を一枚の地図に収め、遥かなる時代を一本の年表にまとめることもできる。

 だからこそ荒唐無稽に見えるお遊びが止められぬということなのだろう。


【本日の出来事】

◎クレヨンしんちゃん 阿蘇地域の魅力発信隊長に任命

 本日、熊本を舞台にしたゲームが発売され、恐らくこれを受けての任命ということなのだろう。

 私が見ていた頃にはげんこつが飛び、下品な言葉を駆使し、縦横無尽に暴れ回っていたように思うのだが、最近はどうにも大人しいようである。

 それだけにイメージアップが図れるというものなのかもしれないが、それこそ真に『表現の不自由展』なるものがあるとすればこれも題材とするべきだろう。

 未だに、戦車を粘土で作るしんちゃんがその題を「天安門事件」としたのは輝かしい。

◎096k熊本歌劇団 初舞台

 漫画出版社コアミックスが昨年結成した女性劇団であるのだが、コロナ禍によりその公演は延期を挟みつつもこの度初お披露目となった。

 高森町で共同生活を送りながらという物語はこの度始めて伺ったのだが、以前から名前を目にしていたこともあり、どこか心が満たされる思いもする。

 どのような展開を見せるか楽しみではあるが、ひとつだけ注文を付けたい。

 願わくは、定期公演を金・土の午後七時に加え、日曜日にも先々できないものだろうか。

 何とか伺いたいものだが、さて。


【食日記】

朝:ハンバーガー

昼:梅ひじきおにぎり、鶏白湯湯麺

夕:豚肉と玉ねぎの辛味噌炒め、卵かけご飯、焼酎1

他:ゾーン1、おーいお茶1

 車内で頂いたエナジードリンクは、鮮烈に甘い香りを残し、疲れた身体に帰宅する力を与えた。

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