第200話 勇者召喚3

「ああん? テメエが神聖騎士だと!」


 シュンは商業都市ハンにある、自分たちの拠点へ戻っていた。そこにあるファミリールームに、全員を集めて話をしている。


「ああ。言うタイミングがなくてな」


 ラキシスを連れて屋敷に帰ってきたが、すぐに話せる内容でもなかった。そこで、しばらく時間を置いたのだ。アルディスを迎えに行く前だった。そこまで引き延ばしたのには、訳がある。


(ギッシュが俺の部下になると、怒り出しそうだったからな。案の定、怒ってやがる。そりゃそうだろう。今までは対等な立場での関係だ)


 リーダーと言っても、チームの代表みたいなものだ。基本的に上下関係はない。しかし、これからは違う。神聖騎士の方が、普通の騎士より上なのだから。


「そんな話、俺にはねえぞ! レベルは同じだろ?」

「信仰系魔法の件で相談に行ったら、こうなっただけだ」

「で、俺らがホストの部下になるって事か?」

「建前はな。俺だって、今までと同じ関係がいい」

「当たり前だ! くそ、先を越された感じだぜ」

「それは違うぜ。称号が変わっただけだ」

「同じだよ。ちっ……」


 ギッシュが怒り心頭だ。もし先に話していたら、城塞都市ミリエに帰ってしまうかもしれなかった。そうなれば、チームは壊滅状態だ。タンクである彼は、必要な人材だった。


「まあまあ。僕は、何かを言える立場じゃないけどね」

「そう言うな。ノックスだって、レベルは上がってるだろ」

「なんとかね」

「十分だ。それに、ラキシスだって高くねえぞ」

「私のレベルは十二です」

「ほらな」


 ラキシスは護身術をたしなむ程度だ。出会った時のように、賊に襲われれば負けるだろう。しょせんは戦いも経験していない神官だ。

 ノックスはレベル二十五。エレーヌのレベルは二十六だ。魔法使い系なのでオーガとタイマンは張れないが、同レベル以上になっている。


「オメエらはいいのかよ?」

「僕は、ついて行くしかないしね」

「わ、私もです」

「チームに参加させていただいたばかりですので……」

「ちっ」

「今まで一緒にやってきた仲間じゃねえか」

「しょうがねえ。しばらくは一緒に居てやる」

「どういう意味だ?」

「上司面をしやがったら、すぐに出ていくからな!」

「分かったよ。どうせ、変わるつもりはねえ」

「口だけじゃなきゃいいがな」


(ふぅ。ギッシュの代わりなんて、そうそう居るもんじゃねえ。盾としてだけなら、あいつの方が上だ。俺でも、なかなか崩せねえからよ)


 プロシネンには、いいようにあしらわれていた。しかし、シュンでは倒すのに苦労する。最近では一回りほど大きくなって、さらにガタイがよくなった。これでも発展途上だから恐れ入る。


「じゃあ、丸く収まったところでさ」

「収まってねえよ!」

「まあまあ。ほら、新しい聖女が勇者召喚したって話。聞いた?」

「ノックス。それって……」

「聖女ミリエだね。なんか、おっさんが二人らしいよ」

「おっさんだあ? どこの国のもんだ?」

「一人はアメリカ人かな」

「ほう。アメ公か」

「じ、人口も多いしね。選ばれる確率が高いのかなあ?」

「中国人の方が多いだろ。そのわりに、あまり聞かねえけどな」

「ギルさんは中国人だったよ?」

「まあ、やつくらいだ」


 アメリカの人口は三億三千万人程度だ。中国は十四億人。ちなみにインドが十三億人で、ロシアが一億四千六百万人だ。日本が一億二千五百万人である。※令和三年十一月現在、外務省調べ。

 それから考えると、シュンたちの周りには日本人が多い。他の異世界人は知らないが、割合からみても変な感じだ。


「んで、もう一人は?」

「ロシアって言ってたらしいよ」

「仮想敵国同士じゃねえか」

「この世界に来たら、敵国も何もないと思うよ」

「そりゃ、そうだろうけどな」

「でも、二人とも歳がね」

「いくつだ」

「五十代と四十代」

「おっさんだな。んじゃ、ロッジから捨てられて終わりか」

「いや、ローイン公爵家に雇われたってさ」

「なんで、そんな事を知ってんだよ」

「バルボ子爵からさ。異世界人の事は、知っといた方がいいだろうってね」

「ふーん」


(バルボ子爵か。他の異世界人の情報はねえけど、こいつらだけ? そういや、ローイン公爵は、デルヴィ侯爵様の政敵だっけ。なるほど、そういう事か)


「まあ、覚えておけばいいか」

「会うかどうかも分からないしね」


 デルヴィ侯爵領はエウィ王国の北東で、ローイン公爵領はエウィ王国の南西だ。まったくの反対方向である。


「でもさ。おっさんなんて召喚して、どうするのやら」

「知るかよ。そういや、こっちのおっさんは帰ってっかな?」

「会いてえのか?」

「肉がな。あの味は忘れられねえ」

「食い物に釣られんじゃねえ!」

「いいじゃねえか。どうせ、空手家を迎えに行くだろ?」

「へへ、そうだったな。じゃあ、出かけるとするか」


 さっきまで怒っていたギッシュは、一応矛を収めたようだ。その彼が言う通り、これからアルディスを迎えに行き、再び幽鬼の森へ向かう。シュンは久しぶりのアルディスを想像しながら、舌なめずりをするのであった。



◇◇◇◇◇



「さあ、着いたぞ」


 目の前に広がる平原へ降りたフォルトは、抱きついているソフィアを見る。この平原へ来た理由は、アーシャに強さを見たいと言われたのが発端ほったんだ。

 腕の中で上気してる彼女も、それを見たいらしい。そこで、一緒に連れてきたのだった。飛んでる間は悪い手が動いていたので、彼女が大変な事になっていた。


「も、もう! そういう事は部屋で……」

「ははっ。いいじゃないか」

「そ、それにしても……。この平原も久しぶりです」

「来た事があるんだ?」

「この平原では、エウィ王国と魔族が戦いましたから」

「なるほど。ここは戦場だったのか」

「ええ。所々に戦闘の傷跡があると思います」

「ソフィアも戦ったの?」

「数回ほどですね。その後は勇者たちとともに、魔王城へ向かいました」

「エウィ王国軍を陽動にした感じか」

「はい。よく分かりますね」

「ははっ。そういうのは得意だ」


 兵法などという立派なものではないが、少数精鋭で魔王城へ向かったのは理解できる。なら、どうやって向かうかも見当がついた。

 ゲームでも小説でもアニメでも、似たようなシチュエーションはあった。それに重ね合わせればいいだけだ。実際に動くと違うだろうが、やり方は同じだろうと思われる。


(まあ、俺のは素人の考えだけどな。俺の言う通りに動けば、絶対に全滅するだろう。俺の知識なんて、そんなものさ)


「御主人様! 待ってくださーい」


 自虐が入ったところで、遅れてきたカーミラたちが追いついた。カーミラはアーシャを抱いている。そして、サタンがマリアンデールとルリシオンを抱いてきた。

 サタンであれば、二人を運ぶ事など容易いのだ。フォルトも容易いが、ソフィアを触って遊びたかった。


「相変わらず広いわねえ」

「魔物以外、何にも居ないわよ」

「マリとルリも来た事があるのか?」

「そりゃあ、ジグロードからアルバハードへ来るには通るからね」

「なるほど。そんな感じの地理か」

「そうよ。この平原を抜ければ、絶壁があるわ」

「ほうほう。あれの事?」


 フォルトが目を凝らすと、蜃気楼しんきろうのように揺らいでいる何かが見えた。遠すぎて薄く見える感じだが、あれが絶壁だろう。

 日本に居た頃なら、他県から富士山が見えるような感じだ。見えるだけで、実際は遠い。その絶壁は空にある雲を抜けていた。


「高いな」

「大自然、超すごいって感じぃ?」

「アーシャは、こういうのは好きそうだな」

「好きだよ。アウトドア派だしぃ」

「そりゃあ、悪かったな」

「森の中だって、立派なアウトドアよ?」

「そ、そうか」

「キャンプみたいなもんでしょ」


 双竜山の森ならいいが、幽鬼の森だと遠くにゾンビなどが見えるので、キャンプもへったくれもなさそうだ。しかし、慰めてくれてるのが分かるので、それを受け入れておく。


「ふん! 余は、どうすればいい?」

「サタンは……。消えていいよ」

「ふん! では、一週間後に呼ぶがいい」

「呼ぶかは分からんが、またな」

「ふん!」


 サタンには用がなくなった。めちゃくちゃ強いはずだが、タクシーの代わりに使ってしまった。とても、贅沢ぜいたくな使い方だ。


「『大罪顕現たいざいけんげん強欲ごうよく』!」


 次は強欲ごうよくの悪魔であるマモンの出番だ。相変わらずのナイスバディに褐色の肌。ホットパンツ姿が魅力的だ。


「どうした? なんか用か」

「あのデカブツを倒しに行くんだが」

「あん?」


 フォルトが目を向けた先には、ポツンと小さな何かが見える。しかし、遠い。近づけば、相当な大きさな感じがする。


「倒せばいいのか?」

「いや。俺がやるから、途中で遭遇する魔物を捕縛しといて」

「いいけどよ。あたいがやってもいいぜ?」

「俺たちじゃ、捕まえても運べないからさ」

「あいよ。それより」

「うん?」

「挟むかい?」

「い、いや。欲情しなくてな」

「そうかい」


 胸開きのトップスから見える谷間を見せつけているが、やっぱり欲情しない。こればかりは仕方がないので、さっさと向かう事にした。


「じゃあ、行くぞ」

「はあい!」


 カーミラに後頭部を任せて、両手でソフィアとアーシャと手をつなぐ。マリアンデールとルリシオンは後ろから追いかけていた。


「んで? あの猿どもを運べばいいのか?」

「ああ、来たか」

「「フゴッ、フゴッ!」」


 まるで散歩でもするように、無警戒で歩いていたが、遠巻きにキラーエイプに囲まれてしまった。その数は二十体ほどか。気付いてはいたが、わざわざこちらから向かう必要はなかった。勝手に襲ってくるのだから。

 人間よりは大きい猿で、どちらかと言うとゴリラに近い。腕力がありそうで、一般兵では多数の犠牲者が出るだろう。


「捕まえるなら、貴方がやるの?」

「マリとルリじゃ、殺しちゃうだろ?」

「そうねえ。死なない程度はやれるけど……」

「闘技場で使う魔物だからな。ボロボロな状態では、送れないだろう」

「任せるわあ」


 すぐに襲いかかってこないのは、集団で狩りをするためか。狼程度の知能はあるようだ。しかし、その空いた時間が命取りだった。



【マス・ホールド/集団・拘束】



 フォルトが魔法を使い、周りのキラーエイプたちを拘束する。レベル五百の魔人が使った拘束魔法だ。この魔物に抵抗する事は不可能だった。

 魔法で拘束されたキラーエイプたちは、レイバン男爵のように地面へ転がる。体が縛られたように、動けなくなってしまった。


「じゃあ、カーミラとマモン。十体ほどでいいよ」

「あいよ。魔界から運べばいいかい?」

「魔界だと、死んじゃいまーす!」

「あ……。なら、どうするか」

「あたいが魔力で包んでやんよ。それなら運べるだろ」

「さすがはマモンちゃんですねえ。この数をですかあ?」

「余裕だぜ」

「じゃあじゃあ、残りは?」


 カーミラが顎へ指を当てて、かわいい仕草しぐさをする。それに気をよくしたフォルトが、魔法を唱えた。



【マジック・アロー/魔力の矢】



「「フゴォ!」」


 フォルトは無属性魔法の光弾を放ち、十体を残してキラーエイプを殺した。手加減を覚えてから、威力の調整はバッチリだ。


「んじゃ、生き残ってるのをよろしく」

「はあい! マモンちゃん、行くよお」

「あいよ」


 カーミラが魔界へ戻り、印を付けてマモンとキラーエイプたちを引き込む。フォルトたちは、彼女たちが戻るのを待たずに、ライノスキングへと向かった。


「待っていても、また襲われちゃうしね」

「そうねえ。もう、キラーエイプは要らないでしょ?」

「十体も居れば平気だろ。襲ってきたら殺していいよ」

「あはっ! なら、アーシャとソフィアは手伝いなさあい」

「ルリ様、いいのですか?」

「ついでよ、ついで。あんたたちじゃ、滅多めったに倒せない魔物たちよお」

「そ、そうですね」


 捕縛のついでに、アーシャとソフィアのレベルも上げる。経験値というもので上がるのではないので、実際に上がるかは分からない。

 この戦いで、レベルが上がるかは不透明だった。しかし、どうせ襲われるなら、試すのが得策というものだ。


「二人は、マリとルリの支援をしてやりゃいいよ」

「わ、分かったわ」

「そうしますね」


 この後の対応を決めたところで、また無警戒に歩いて行く。ライノスキングへ近づくまでに襲われるかも分からないが、四人は仲良く歩いて行くのであった。



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Copyright(C)2021-特攻君

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