第199話 勇者召喚2
フォルトやシュンたちが、最初に召喚された時に放り込まれた豪華な部屋。そこには、二人の男性が居た。一人は、額が広い男性だ。完全に禿げてはおらず、左右は短い白髪である。髭は長く伸ばしていた。
もう一人は、体格のよい
額が広い男性も体格はいいが、
「おまえは、国際指名手配の……」
「よく知ってるな。どこかの組織の者か?」
「ちっ」
「やめておけ。この部屋へ来る前に聞いていないか? 世界が違う」
「まあいい。えっと」
「名前は思い出せんよ。それも、聞いただろ?」
「あの状況で、よく覚えてやがる。で、なんだっけ?」
「これだ」
額が広い男が、ポケットからカードを取り出す。そして、名前の欄を見ている。
「私はジオルグだそうだ」
「俺はリガインだってよ」
額の広い男性がジオルグ、
「名前以外は?」
「覚えているぞ。もう少しで、首都を落とせたんだがな」
「ちっ。狂信者が」
「これは異なことを。私が、神を信じてるとでも?」
「違うのか?」
「手足は信じているな。私は違うが」
「俺に言っていいのか? その手足が聞いたら、殺されるだろ」
「会う事はなさそうだからな。それより、おまえは?」
「察しがついてんだろ?」
「FBIか」
ジオルグは、宗教が絡んだ軍事組織のトップだ。リガインは、FBI捜査官。いまさら隠し立てしても仕方がないので、二人とも話してしまう。
「こりゃ……。おまえを捕まえた方がいいのか?」
「分かっている事を聞くな。それより、協力しないか?」
「協力だあ?」
「あっちへ戻れるかは別にして、こっちの世界では仲良くせんかって事だ」
「オメエ……。国際指名手配犯が、信用されっと思ってんのか?」
「そんなのは、あっちへ戻ってからだ」
「………………」
「任せておけ。戻れなくても、うまい目を見るためにな」
「うまい目か……」
「私の事は知っているのだろ? うまく立ち回ってやるさ」
「ははっ。いいだろう。だが、裏切ったら、捕まえずに殺す」
「さて、どうなる事やら」
――――――コン、コン
協力関係を作ったところで、扉がノックされる。そして、一組の男女が入ってきた。さきほど地下でも会ったが、ジオルグは笑顔を浮かべて礼をした。
「俺は、王国〈ナイトマスター〉のアーロンだ。こちらが、聖女ミリエ様」
「さきほどは、失礼しましたな」
「カードは確認したか?」
「はい。私はジオルグと言うらしい」
「俺はリガインだ」
四人はソファーに座る。そして、詳しい説明を聞いた。元の世界へは帰れない事。勇者候補ならば、成長をしてもらう事などだ。フォルトやシュンたちが聞いた内容と大差はない。
「勇者候補と申されても。われらは、見ての通りですぞ?」
「俺は戦えるが、さすがに何十年も無理だ。数年で引退だろうぜ」
「そ、そうですか。アーロン様?」
ミリエは、おたおたしている。初めての勇者召喚だったのと、今までと違う者たちが召喚されたからだ。普通ならば、もっと若い者たちが召喚されるはずである。聖神イシュリルが決める事だが、彼女にはわけが分からない。
「それは、危惧していた事だ。なぜ、おまえたちのような年齢の者が」
「それは、そちらの都合ですな」
「分かっている!」
「して……。召喚したからには、責任を取ってもらえるのですかな?」
「はい。一カ月程度、城にあるロッジで」
「お待ちを」
「え?」
これからの事を話していると、ジオルグが片手を上げて話を止める。その顔はポーカーフェイスだが、これから本領を発揮するのだろう。リガインは、彼をチラリと見て、全てを任せる事にした。
「なにも戦うだけが、異世界人の使い道ではありますまい?」
「そ、それは、どういう……」
「これでも私は、ある大国の政権幹部でしてな」
「そうですか。それで?」
「内政や外交であれば、経験が生かせるかと思いますぞ」
「え、えっと……」
「私の知識は、貴国のためになると自負しますぞ」
「は、はぁ……」
ジオルグは得意満面の笑みだ。人に取り入るなど朝飯前である。人を騙すのも得意だ。狂信者をそそのかして、国を落とす寸前まできていたのだから。
「アーロン様?」
「きさま。愚かにも、国家運営に
「
「リガインは?」
「敵国の官僚さ。こいつとは、外交の場でやりあった事がある」
「ほう」
「厄介なやつだぜ。俺が保証しても仕方がねえが、保証してやる」
「敵国同士だったのか。珍しい事もあるものだな」
「すでに、われらが召喚された事が珍しいのでは?」
「そうだな。だが、一存では決められん」
ジオルグの言う通り、今までとは違うのだ。なぜ彼らがという疑問はあるが、聖神イシュリルが決めた事。このまま放り出すのがいいのかすら分からない。
聖女は異世界人を召喚するだけだ。そして、その後の異世界人の面倒を見る。決定権は何も持っていない。一度、王の判断を仰ぐ必要があった。
「われらは、監視下に置かれるのでしょうな」
「そうだな」
「どうせ監視下に置かれるなら、われらを使ってみればよろしいでしょう」
「ううむ」
「見ての通り、押さえ込むのは簡単ですぞ」
「分かっている!」
「われらは籠の中の鳥ですな。生かすも殺すも使うのも自由ですな」
「口が達者なようだな。とにかく、決定は後日とする」
「われらは、どうすれば?」
「ロッジへ移動してもらおう。そこで待機してもらいたい」
「分かりました」
ジオルグが話し上手なのか、年の功なのかは分からない。しかし、彼のペースで話が進んでいた。さすがは、軍事組織のトップだった男だ。それを聞いているリガインは呆れそうになるが、その表情を隠す。
「では、世話役の神官を紹介します」
その後は、フォルトたちと同じだ。ジェシカのような世話役の女神官が紹介されて、城から連れ出される。そして、敷地内にあるロッジへ移動するのであった。
◇◇◇◇◇
「と、いう事らしいです」
ソフィアと屋根の上でイチャイチャしているフォルトは、彼女の膝枕を堪能していた。カーミラは腰の上だ。なんとも
「勇者召喚ねえ」
「聖女が決まりましたからね。神託でもあったのでしょう」
「俺が居た世界から、また不幸なやつらが来たと」
「も、もうしわけ……」
「冗談ですよ。今の俺は幸せだし、ソフィアもだろ?」
「は、はい」
ソフィアの足を撫でながら、幸せそうな顔をする。もしも、日本へ帰れるとしても、絶対に戻る事はないだろう。
「王様に嫌みを言ったけど、意味がなかったな」
「えへへ。聞くわけがないと思いまーす!」
「知ってる。で、どんなやつらなの?」
「五十歳ぐらいの方と、四十歳ぐらいの方という話です」
「若者が召喚されるんじゃないの?」
「そのはずです。ですが、フォルト様は違いますし」
「そうだな。俺が選ばれた理由は、魔人が関係してそうだけどな」
「前の御主人様に選ばれた感じですしね!」
「「帰って来た者」か……」
フォルトは自分の称号の一つを
異世界と道をつないだところへ、ポロの儀式の何かが紛れ込んだのかもしれない。しかし、詳しい事は分からない。
「それで? おっさんじゃ、捨てられただろ」
「いえ。ローイン公爵の下で働くようですよ」
「え? すごい称号やスキルでも持ってたか」
「いえ。内政や外交が得意のようで」
「なるほど。手に職ってやつか」
「はい。非常に珍しい扱いですが……」
「普通なら勇者候補だもんな。でも、おっさんじゃ無理だ」
「そ、そうですね。鍛えてる間に引退でしょうし」
「そもそも、剣なんて持てないよ」
「あんっ。ここでは……」
フォルトの悪い手が動く。今は意識が連動しているので、素晴らしい感触である。しかし、カーミラが居るので、これ以上が進めない。
「いろいろと、試してるんですかねえ?」
「試す?」
「御主人様のような、強い者を召喚とか」
「俺は偶然の産物だろ」
「そうなんですけどねえ」
「神々は、俺の事を知ってるの?」
「知っていると思いますよお」
「ピース」
フォルトは天へ向かってピースをした。知っているという事は、見られていると思ったのだ。
「えへへ。ずっと見てるわけが、ないじゃないですかあ」
「あ……。うりうり」
「あっ、あっ」
ピースをした指のやり場に困って、カーミラの柔らかいものを挟む。もちろん、ほっぺただ。彼女の歳は聞いていないが、肌がきめ細かくて、フニョっとする。
「追跡はされてるのか?」
「されてないと思いますよお」
「まあ、そんなに万能じゃないだろ」
「そうですね!」
「ソフィアは、どう思う」
「私も同じですね。万能であれば、すでに何かをされていると思います」
「そうだな」
「目に余らなきゃ、平気だと思いまーす!」
フォルトも同意見だった。日本に居た頃でも、神が居るなら、すでに人間を救っているはずだ。それとは別に、現在の状態が神の希望通りだったのなら、崇める必要性を感じない。多くの人間は、苦しんでいるのだから。
神の居る世界であれば、余計にそう思う。こんなにも人間に厳しい世界なのだ。手を打っていない方がおかしいのだ。
「さてと、出かける準備でもしますかねえ」
「あら。どこかへ行かれるのですか?」
「魔物の捕獲だな。アーシャを連れていく」
「シュン様が来られると?」
「うん。限界突破に来るなら、ついでに渡そうとな」
今まで問題を洗い出していたが、一つずつ片付ける事にした。まずは勇者候補チームが戻ってくるので、それの対応だ。
何度も来られるのは嫌なので、引き渡す魔物を、たくさん渡してしまうのだ。そうすれば、
ついでに、フォルトの強さをアーシャへ見せる。さらには姉妹の限界突破も終わらせる。一石三鳥であった。三鳥もあれば、動いてもいいだろう。
「でしたら、私も見たいです」
「ソフィアも?」
「せっかくですので」
「いいよ。今回は飛んで行くからな」
「お、お手柔らかに……」
アルバハードへ行った時の事を思い出したのか、ソフィアが頬を赤らめている。急降下の恐怖を和らげるために、柔らかいものを触った記憶が
――――――――――
Copyright(C)2021-特攻君
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