第十四章 勇者召喚

第188話 師弟1

 幽鬼の森へ入ったフォルトたち一行は、スケルトン神輿に乗っている。アンデッドに襲われると面倒なので、久しぶりにブラッドウルフの群れを召喚してある。

 アンデッドが近づいたら、勝手に倒してくれるだろう。ゾンビやグール程度なら、ブラッドウルフの方が強い。


「あっはっはっ! わが家は近いな」


 フォルトのスケルトン神輿には、カーミラとベルナティオが乗っている。リリエラは、マリアンデールとルリシオンのスケルトン神輿だ。おそらく、死ぬことはないはずだ。


「きさま、喜びすぎだろ!」

「だって、家に帰ってると思ってたからさ」

「えへへ。言った通りでしょ?」

「そうだな。半信半疑だったが……」


 バードマンと呼ばれる有翼人のおかげで、カーミラとベルナティオは、先に幽鬼の森へ帰る予定だった。しかし、カーミラの機転のおかげで、こうして合流できたわけである。合流した時は、それはもう嬉しかったものだ。


「おかげで、帰るのが遅れたがな」

「えへへ。調教の続きは、よかったですかあ?」

「もちろんだ。なあ、ティオ」

「聞くな! それより、聞きたい事がある」

「なんだ?」

「私を手に入れて、どうするつもりだ?」

「抱く」

「い、いや……。それ以外だ!」

「そう言えば、伝えてなかったか」


 この世界へ召喚された事から話すと長いので、それは後回しだ。とりあえず、フォルトたちの置かれている状況を説明する。

 幽鬼の森を起点に、姉妹の限界突破や、身内のレベル上げにいそしんでいる事。シュンたちに影響されて、おっさん親衛隊なるものを作った事などだ。


「おっさん親衛隊か……。たしかに、おっさんだが」

「ハッキリ言うな」

「嫌いではないぞ。しかし、私が入ってもな」

「問題があるのか?」

「差が、あり過ぎるのではないか?」

「駄目なのか?」

「きさまの身内のレベル上げにはなるが、私のレベル上げにならん」

「そうだな。でも、ティオは悪魔だろ? 時間は無限だ」

「そ、そうか……。それもそうだな」


 ベルナティオは不安定だ。突然、堕落の種が芽吹いたからだろう。通常は、徐々に芽吹いていくものだそうだ。


「えへへ。すぐに慣れますよお」

「なら、安心だ。まあ、おまえは俺のものだ。それだけ知ってればいい」

「ぁっ。そうだ、きさまのものだ」


(弱点を触ってる時は、かわいいんだけどな。それはそれとして、レイナスたちに紹介をするんだったなあ。こころよく、受け入れてくれるだろうか?)


 身内を大事にしているので、要らぬ心配をしてしまう。しかし、マリアンデールとルリシオンが受け入れているように、考えるだけ無駄である。

 それでも、〈剣聖〉というのには驚くだろう。ソフィアの驚く顔が目に浮かぶ。それには思わずニヤけてしまう。


「さて、『変化へんげ』」

「むっ。きさま、その姿はなんだ?」

「ふふん。俺の若い姿だ。普段は、こっちだぞ」

「面倒ではないか?」

「もう慣れてしまった。人間と会う時は、おっさんだ」

「きさまは、きさまだ。どっちでもいいぞ」

「それは嬉しい事を言う」

「な、なら……」

「褒美に、服を考えてあるからな」

「服だと?」

「エロかわな服だ」

「エロ? よく分からんが、きさまが喜ぶなら、もらってやる」

「ああ、大喜びだ」


 ベルナティオにも、ナイスな服を着てもらう必要がある。二十七歳だが、見た目はもっと若く見える。鍛錬をしているからだろうか。

 屋敷へ戻ったら、アーシャと部屋にこもって打ち合わせだ。ドワーフの集落には、エルフの服を作っている服飾師が居る。頼めば、フォルトを満足させる服を作るだろう。これは、リリエラの手柄だった。


(どんなのがいいかなあ。着ている道着をベースに考えるか。ポニーテールで、剣士だしなあ。いやあ、迷う迷う)


「御主人様が、イヤらしい顔をしています!」

「デヘ」

「きさまというやつは……。そう言えば、魔人だったな」

「言ったっけ?」

「カーミラから聞いた」

「そっか。なら、そういう事だ」

「イメージが合わないが……。天災級の災厄を起こすのか?」

「考えた事もなかったな。面倒だから、やる気はないぞ」

「そ、そうか。聞いていた話と違うな」

「魔人か?」

「うむ」

「俺も、そう思うが……。俺は俺だ。魔人になった経緯は、寝室でな」

「そ、そうだな! 楽しみだな」


 ベルナティオの反応が新鮮だ。身内に彼女のようなタイプは居ない。それだけでも、手に入れた甲斐があったというものだ。


「御主人様! 屋敷が見えてきましたよお」

「お! やっと到着か。みんなに紹介するからな」

「分かった」


 目線の先には、幽霊屋敷のような屋敷が見えてきた。バグバットにもらった屋敷だが、いずれ返すつもりではいる。めちゃくちゃ改造してしまったが……。

 目を凝らすと、屋敷の前のテラスから、向かってくる人影が見える。愛しの身内たちの出迎えに期待しながら、スケルトン神輿に寝転がるのだった。



◇◇◇◇◇



「け、〈剣聖〉ですか?」


 出迎えにきた身内たちに、ベルナティオを紹介した。やはり、一番驚いているのはソフィアだ。勇魔戦争での話でも、知っているからだろう。フォルトは何も知らないが……。


「こいつに、全てを奪われた。これから、よろしく頼む」

「ティオ……。言い方、言い方」

「事実であろうが。ちゅ」

「むほっ」

「変な声を出すな。恥ずかしいではないか」

「フォルト様……。大丈夫なのですか?」

「なにが?」

「ベルナティオ様は、名声が高いのですよ」

「それが?」

「突然フォルト様の身内になると、注目の的だと思いますが?」

「注目は困るが、ほしかったのだから仕方がないな」

「………………」


 ソフィアは何かを言いたそうだが、口をつぐんでしまった。言っても聞かないのは、分かっているだろう。


「ティオと呼んでいいぞ。おまえたちも、私と同じなのだろ?」

「私は、三日で堕ちましたわ」

「レイナスと言ったな。私と同じだな!」

「ふふ」

「はははっ!」


 そう。レイナスと同じで、ベルナティオも三日で堕ちた。参加人数は違うのだが、二人は同類を見るような目で見つめ合っていた。なんとなく、肌寒いものを感じてしまった。


「と、いうわけだ。みんな、仲良くしてやってくれ」


 まとめて紹介するのも長くなる。そこで、後は勝手にやってもらう事にした。フォルトは、いつものテラスへ戻って、体を休める事にする。

 そのテラスでは、専用の椅子にすわって、カーミラを隣に座らせた。そして、ボケっとしながら、目の前に座っているアーシャと話す。


「ふぅ。疲れた、疲れた」

「おっさんくさっ!」

「おっさんだからな。それより、アーシャ」

「服でしょ? どうせ、寝てからのくせに」

「あっはっはっ!」


(アーシャも分かってるなあ。すぐに寝てもいいけど、留守中の事を聞かないとな。まあ、オヤツが出てきてからでいいけど)


 ダラけきっている。

 専用の椅子へ座ってしまったので、寝室に行くのも面倒なのだ。この状態は、暫くダラけていれば治る。

 そういうものなのだ。


「魔人様、マリ様とルリ様は大丈夫でしたか?」

「簡単だったよ。後は、マンティコアだけだ」

「では、北へ行かれるのですね」

「そうだね。しばらくは屋敷に居るけどな」


 フォルトは、後ろに居るシェラと話す。後頭部への刺激が久しぶりである。久しぶりと言うほど日数は過ぎていないが、そう思ってしまう。


「アーシャ、留守中になんかあった?」

「シュンたちが来たよ」

「はい?」


 なにやら、聞きなれない言葉を聞いた。アーシャは軽く言っているが、ここは幽鬼の森である。わんさかとアンデッドが居る森だ。

 それに、なぜ勇者候補が来るのかが分からない。しかも、フォルトが不在中にだ。少々混乱しそうになる。


「なんで、シュンたちが?」

「フロッグマンの回収」

「………………」


 アーシャが、ぶすっとしている。シュンの事を嫌っているので、その気持ちは分かる。それに、言われた内容で把握した。


「デルヴィ侯爵の担当者って……。シュンたち?」

「そういう事よ。まったく、なんでシュンたちなのよ!」

「い、いや。俺に言われても」

「そうだけどさあ。フォルトさん居なかったしぃ」

「なんだ、怒っているのか?」

「そうよ! 連絡もつかないし、大変だったんだから!」

「ああ。そう言えば、そうだな」


 屋敷に残った身内を困らせてしまったようだ。思わず神妙になりそうになるが、アーシャの顔が笑顔に変わっていた。


「冗談だよお。でも、連絡方法くらいは、ほしかったなあ」

「あ、ああ。そうだな、それは悪かった」

「あはっ! 埋め合わせはしてくれるんでしょ?」

「もちろんだ。リリエラが、いい報告を持ってきたしな」

「え、なになに?」

「後でな。それより……」


(俺の居ない間に来るとはなあ。これは、詳しい話を聞かねば! まさか、寝取られては……。さすがにないか)


「アーシャ、詳しい話を聞きたい」

「いいよお。なら、レイナス先輩とか居た方がいいね」

「そうだな。呼んできてくれ」

「おっけ!」

「ティオと話が終わってからでいいぞ」

「はあい」


 レイナスたちは、ベルナティオと話をしている。新しい身内なので、交流を邪魔したくない。戻ってくるまでは、隣にいるカーミラと話す事にする。


「しかし、シュンたちか……」

嫉妬しっとですかあ?」

「それもある。俺は、独占欲が強いからな」

「それ以外にも、なにかありますかあ?」

「なんか、関わる事が多いなあと思ってな」

「多いと言っても、三回目ですよお?」

「そうなんだがな」


 同時に召喚されたので、運命みたいのでもあるのだろうか。フォルトは、そんな事を考えてしまう。

 一回目は、ソフィアの警護で魔の森へ来た。二回目は、限界突破のために双竜山の森へ来た。そして、幽鬼の森で三回目だ。三回目は会ってはいないが……。


「まあ、考え過ぎか」

「御主人様は、運命とかを信じますかあ?」

「いや、まったく信じない。偶然だろ、偶然」


「フォルトさん! 連れてきたよ」


 運命の事を考えだそうとしたところで、アーシャが戻ってきた。レイナスとソフィアを連れている。ついでに、ベルナティオも連れてきたようだ。そして、同じく屋敷に残っていたシェラは、後頭部を刺激中だった。


「シュンたちが来たんだって?」


 不在時の詳しい話を聞く事にする。四人には、テーブルを囲むように座ってもらった。それからカーミラには、おやつの催促をする。ベルナティオには、後頭部を刺激してもらう事にしたのだった。



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