第164話 渓谷を抜けて
いよいよトーネスの森へと近づいていく俺たち。
渓谷を抜けた先にあるらしいが……その渓谷がひとつのキーポイントになっている。
ここから森に住むエルフたちのテリトリーになるため、近づいてきた俺たちにどのようなアクションを起こすのか――それによって、今後の行動が決定する。
いつどこから敵の攻撃が飛んでくるか分からないという恐怖はあるものの、同行する魔法使いによって防御魔法が施されており、さらに探知魔法も併用して相手の動きを探る。
話しによると、エルフ族は回復魔法にこそ長けているが、それ以外の――特に攻撃魔法に関してはからっきしらしい。
これは習得できないのではなく、掟で禁じられているためだという。
しかし、今の時代に掟とは……随分と古風なんだなぁ、エルフ族って。
ハーフエルフであるソフィと仲良くなったこともあってか、俺の中のエルフ族ってあの子っぽいのかなって印象が拭えなかった。けど、実際はまるで違うみたいだ。
……まあ、ソフィも幼少期をセスたちの暮らすモンスター村で過ごしていて、成長してからは俺が人間社会の文化を教えていったわけだから、森に暮らすエルフの生活を知らないのは当然なのだけど。
でも……そういえば、俺たちがリゾート地で保護したレダというエルフ族の少女と出会ってから、ソフィの雰囲気は変わっていった。
セスによれば、森でソフィを発見した時はまだ赤ん坊だったらしいけど――もしかして、それ以前の記憶がぼんやりと思い出されているのかもしれない。
赤ん坊の頃だから、断片的なものなんだろうけど、それはきっとソフィにとって忘れがたい記憶……恐らくは家族にまつわるものと推察される。
もし、彼女がトーネスの森の出身だとしたら、ぜひとも案内してあげたいな。
そのためにも、今回の件を通してエルフ族とはお近づきになりたい。
ただ、今はクーデターが起きているとのことで、人間の俺たちが近づいていっても安全は保障されない。
何事も起きなければいいが、という虫のいい願望が最後まで叶えられるとは思っていないけど……それでも、ここにいる全員が無事に戻ってこられるように最善を尽くそう。
渓谷へと差しかかってからおよそ三十分。
特に変わった様子もなく、魔法使いによる探知魔法にも反応は見られない。
「この辺りに見張りはいないのか?」
「現段階ではそう判断して問題ないかと」
「ふむ……君の力を疑うわけではないが、念のため警戒は続けよう」
「私もそれが良いと思います」
ガインさんと魔法兵団の女性はそう話し合い、敵の姿を確認できない状態が続く中でも油断はしないという方針を固めた。
だが、改めて口にされなくとも、この場に集まった者たちは一瞬たりとも気を緩めることはないだろう。
なぜなら……うまく説明しづらいんだけど、この渓谷には妙な雰囲気が充満しているのだ。
ひょっとしたら、ガインさんたちが警戒するように、エルフ族はなんらかの手を打ってこちらの動きを察知し、それに合わせて動いているのではないか――そんな、あまり想像したくない事態が脳裏をよぎる。
しかし、そんな俺たちの警戒を嘲笑うかのように、渓谷をあっさりと抜け出て、最終目的地であるトーネスの森を視界に捉える距離までやってきた。
「いよいよ、か」
大きく深呼吸をしてから、ガインさんは止めていた足を動きだす。
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