第131話 翻弄する幽霊(?)
物音がした教室へと乗り込む――が、
「? 誰もいない?」
マイロが辺りを見回しながら言う。
直後、物音の正体が判明した。
「ね、ねぇ、もしかして……ここの教室の窓ガラスが割れているから、そこから風が入り込んで何かを倒したんじゃない?」
ポルフィがボソッと自身の推理を口にする。
現場の状況から、どうもそれが正しいようだな。
教室内には隠れられるところはないし、何より人の気配がしない。天井裏にでも隠れたのかと思って見上げるが、肝心の天井はところどころ抜け落ちており、人がいれば軋みのひとつでも起きそうなほどボロボロだ。
結論として、この教室から聞こえた物音は風によって引き起こされたものである可能性が極めて高い。
「まあ、幽霊の正体なんて所詮はこの程度のものよね」
教室内に誰もいなかったことが分かると、途端にポルフィが強気になる。
「さあ、残りも見て回ってとっとと帰りましょう」
そう告げて踵を返し、教室の入口へと体を向けた――次の瞬間、
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
凄まじい絶叫が旧校舎に響き渡る。
「ど、どうしたの、ポルフィ!?」
耳を押さえつつ、マイロが叫んだ理由を尋ねる。俺はまだキーンと耳鳴りが残っていて、よく聞き取れないでいた。おまけに、ポルフィはひどく動揺していて、呂律が回っていない状態である。
それでもなんとか読み取った情報によると、振り返った瞬間、教室の入口にあるドアからこちらを覗き込んでいる謎の顔を目撃したというのだ。
「えっ……それってもしかして――本物の幽霊?」
「バカ。俺たちは誰を捜してここまで来たと思っているんだ」
「あっ、そ、そうだったね」
マイロも当初の目的を忘れかけていたが、俺たちは黒騎士である可能性が高い女子学生のヴァネッサ・ルーガンを追ってこの旧校舎へと足を踏み入れたのだ。
となれば、こちらの様子をうかがっていたのは、そのヴァネッサかもしれない。
俺は慌てて教室を飛び出す。
廊下を忙しなく見回してみるが、そこには人影らしいものも確認できない。
「逃げられたか……うん?」
どこにも姿が見えないことから、すでに校舎内から脱出したかもしれないと思い、外へ出ようとした。
――が、それはおかしな話だ。
教室から出て左側は、残り三つの教室を通り越すと壁である。なので、逃げたとするなら左側なのだが、それだと廊下はかなり長くまで続いており、後ろ姿くらい見えるはず。窓から外へ逃げた可能性もあるが、ここは二階だ。それに、廊下側の窓は一枚も割れていないため、そこから外へ出たとは考えにくい。
だとすると……残り三つの教室のどこかに逃げ込んだ可能性がある。
下手に動けば、姿を見られるかもしれないと思い、窓から外へ脱出することは考えていないようだな。どこかに身を潜め、俺たちをやり過ごすつもりか。
そうなる前に、なんとしてでもその顔を拝んでやる。
俺はなんとかヴァネッサ(と思われる存在)を視界に捉えるべく、ポルフィとマイロを呼び寄せてそっと耳打ちをした。
「そ、そんな作戦……うまくいくの?」
「いや、名案だと思うよ」
ふたりの意見は割れたが、最終的には実行することで決定。
さて……ここが勝負どころだぞ。
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