第103話 調査開始

 厩舎の馬から得た情報をもとに、俺たちは二手に分かれて炎属性の魔剣士を捜すこととなった。


 ――が、これが思いのほか難航した。

 夜の学園で騎士団のガインさんと戦闘となった……この経緯からして、相手はかなりの使い手であると推測される。騎士団屈指の実力者であるガインさんを診療所送りにするくらいだから、すぐに候補はしぼられるだろうと思ったんだが……


「思いのほか、いないものね」

「学園内で炎属性となると、ほとんど男性だったし……そうなると、部外者ってことになるのかな」

「でも、部外者なら学園の教員たちが気づかないはずがないと思うのよねぇ」


 サーシャの指摘はもっともだ。

 この学園には、貴族の子息や令嬢も大勢通っている。

 そういった事情があるから、警備はかなり厳重となっていて、実際、勝手に侵入しようとして捕まった者たちも何人かいる。彼らは貴族の子どもを誘拐して身代金をいただこうってせこい考えだったが……騎士と一戦交えて倒すほどの実力者ならば、気づかれずに侵入することも可能かもしれない。


 一体どっちなのか――気になっていると、


 コツン。


「いてっ」


 頭に何かが当たる。

 背後から何かが飛んできたようだ。

 振り返ると、


「あっ!?」


 そこには、修道服を身にまとう少女と、頭まですっぽりとローブで身を包んだ大柄の人物が立っていた。ローブの人物については顔が見えないのでなんとも言えないが、修道服の少女は俺もよく知る人物だった。


「ソフィ!?」

「久しぶり」


 ハーフエルフのソフィだった。

 ……って、ことは、もしかしてこっちのローブの人物は――


「まさか……セス?」

「ご名答!」


 言語スキルを発動させているため、モンスターであるセスの言葉がしっかりと分かる――のだが、それはあくまでも俺だけ。

隣にいるサーシャはリザードマンであるセスの言葉が分からないため、その正体が分かった瞬間、表情が凍りつく。今にも悲鳴をあげそうだったので、俺は咄嗟にサーシャの口を手でふさいでしまった。


「あっ」


 やってしまった、と後悔するよりも先に、まずは誤解を解かなくてはいかない。

 そう思って、すぐに説明を始めた。


「……つまり、このリザードマンは私たちの味方ということ?」

「そういうこと」

「で、こちらのハーフエルフの子は……」

「ハーレイの愛人」

「「!?」」

「嘘。そういえば盛り上がるって言っていたから」

「も、盛り上がるって……うん?」


 ヒヤッとするジョークを放り投げてきたソフィを見て、俺はハッと気づく。


「ふたりとも……どうやって学園内に?」


 なぜ、関係者でもないふたりが学園内にいるのか。

 確かにふたりとも身体能力は人間以上であるのは間違いないが、それだけでこの学園の警備を出し抜いて侵入することは不可能だ。


 だとしたら、正面突破をしてきたのか。

 でも、ふたりだけの力では無理だろう。

 ……手引きした者がいるはずだ。


「誰かの力を借りたのか?」

「えぇ」


 そう言って、ソフィはサーシャを指さした。


「わ、私?」

「あなたじゃなくて――あなたのお父さん」

「「えっ?」」


 サーシャの父親ってことは……ふたりをここへ呼んだのはゾイロ騎士団長ってことか?


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