第77話 最後の賭け

 圧倒的に不利な状況で佳境を迎えた昇格試験。

 ギリギリまで追い込まれた俺にトドメを刺そうと、ロバートが襲いかかる。


 俺に残された逆転の一手――それは、この土壇場で繰り出せるようになった新しい言語スキルであった。


「終わりだぁ!」


 勝利を確信しているロバートは笑みを浮かべながら剣を振るう。それに対し、俺はギリギリまで引きつけてから回避。


「ちっ!」


 あきらめ悪く抵抗する俺を憎々しげに睨みつけながら、再び攻撃を仕掛けてくる。俺はそれもかわすと、ヤツとの距離を一気に縮めた。


 無駄な足掻きだ。


 口にはしないが、そのニヤついた表情が雄弁に物語っている。

 いくら反撃したところで、ヤツにダメージは通らない。 

 だから、俺がやることは――スキルが示した通りに攻撃するだけだ。



「――――」



 俺は回避すると同時に、ロバートへ耳打ちをする。

 ほんのわずかな言葉。

 囁きに近いものだ。


 俺はその言葉をヤツに伝えただけで、すぐに距離を取る。

 距離を詰め、決定的な瞬間を生みだしながらも攻撃に転じなかったことに対し、周囲からはざわめきが起きた。


 明らかに不可解な動きだったからな。

 やった俺自身も、正直、それでよかったのかと不安になる。


 だが、このスキル――戦闘中に使用可能となったスキルの使い方としてはこれで正解のはずだ。

 あとは、ロバートがどう出るか、だ。


「てめぇ……」


 呆然と立ち尽くしていたロバートは、こちらへと振り返る。

 その形相はまるで悪魔のように歪んでいた。

 どうやら、逆鱗に触れてしまったようだが……スキルの効果はなかったのか?

 

「ハーレイ! 相手が来るわよ! 早く構えて!」


 ポルフィからの必死の叫びが、やけに遠くから聞こえる。

 あの《囁き》でダメなら、いよいよ手詰まりだが――その時、


「ぐっ!?」


 ロバートがその場へ膝から崩れ落ちた。

 明らかにダメージを負っていると思われる。


「ロバート!?」

「ど、どうしたんだ!?」


 突然の異変に、先ほどとは質の違ったざわめきが起きる。俺の不可解な行動に続いて、今度はロバートの不可解なダメージ。騒がない方がおかしいか。


「な、何をした……」

「俺のスキルの効果だよ」

「スキル、だと? てめぇのスキルは相手の魔法を奪うものじゃ――」

「それだけじゃなかったってことさ」

「ぐぅ……」


 それを聞き届けて、ロバートは気を失った。

 ……やっぱり――あの時、脳裏によぎったこの力は凄まじい。

 ただ、うまく使いこなせるかは別問題だ。

 戦っている時は本当に必死だったし、相手との技量差もあった。これを格上の相手と戦ったことに使いこなせるようになれば強力な武器になる。


 早速、戻ったらいろいろと試してみよう。



 ――っと、勝手にこの戦いを締めくくっていた俺だが、学園関係者は集まって何やら協議をしている。


 これは……もうひと波乱ありそうだ。

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