第68話 帰り道

 昇格試験三日前。

 目前に迫った最初の試練を前に、俺とマイロとポルフィの三人は実戦を意識した鍛錬を積んでいた。


 俺はスキルを駆使するため、日夜その研究と剣術の腕を磨く。

 今度の昇格試験で戦うDクラスの学生は、きっと振り分け試験の様子を見て俺用の対策を練ってくるはずだ。

その対策として真っ先に挙げられるのが――魔法を使わないこと。

無詠唱での魔法使用はごく一部の魔法使いにしかできない超高等技術。少なくとも、この学園で扱える人物はいない。それは事前に調べがついている。

純粋な剣術勝負に持ち込めば、こちらにも勝算はあると言えた。

 それに、俺にはまだスキルがある。

今までに入手したスキルを駆使して、戦いを優位に進められるはずだ。


一方、元々高い資質を持ったふたりは、明確な理由ができたことでメキメキと腕を上げていった。

 どちらも魔法を使わない格闘術で戦う。

 練習相手としては、これ以上ない。

 

「おぉっ!」

「やぁっ!」


 金属同士のぶつかり合う音が、Eクラス演習場に響き渡る。


 戦っているのは俺とマイロ。

 互いに模造剣を持ち、鍛錬をしていた。


「でやぁ!」

「わっ!」


 一瞬だけ生じた隙を逃さず、俺はマイロの剣を弾き飛ばす。


「そこまでね。ハーレイの勝ちよ」


 近くで筋トレをしながら俺たちの戦いを観戦していたポルフィが宣言する。それを聞いたマイロは大きく息を吐いてその場にへたり込んだ。


「また勝てなかったかぁ……」

「剣の振りが大きい癖が出たな。攻撃が外れた時に隙が生まれるんだ」

「何よ。その悪癖はこの前に指摘したじゃない」

「分かっているんだけど……なかなか抜けなくて」

「まったく……さあ、次は私とやるわよ、ハーレイ」

「い、いいけど、少し休ませてくれ」


 授業後の自主練習とはいえ、こうも連続して戦うのはさすがに疲れる。

 ただ、とても充実しているのも確かだ。

 結局この日は寮へ戻る時間になるギリギリまで、俺たちは鍛錬を積んでいた。



 気がつけば、夕闇が迫っていた。


「もうこんな時間か」

「早いわね」

「それだけ集中して鍛錬できていたってことだよ」



 俺たち三人は演習場から寮へ戻り、そのまま食堂へ足を運んで夕食をとろうとした――が、


「あっ」


 マイロの足がピタリと止まる。


「どうかしたのか?」

「ごめん、上着を忘れてきちゃったみたいだ」

「何やってるのよ、もう」

「悪いけど、先に食堂へ行っていて」

「分かったよ」

「しょうがないわね」


 距離はそんなにないし、すぐに戻ってくるだろうと俺とポルフィはマイロの言う通りに食堂へと向かった。――が、その時、


「うわっ!?」


 悲鳴のような声が、背後から聞こえた。


「ね、ねぇ、ハーレイ……今の声って――」

「間違いない! マイロだ!」


 あの声……マイロの身に何かが起きたんだ。


「行こう、ポルフィ!」

「えぇ!」


 異常を察知した俺たちは、すぐさま振り返って走りだした。まだそれほど離れてはいないはずだから、すぐに見つかるはずだ。

 そんな俺の考えは――的中する。


「マイロ!」


 すぐにマイロは見つかった。

 尻もちをつき、右肩を左手で押さえている。どうやら、出血をしているようだ。

 そのマイロの視線の先に、何者かが立っていた。


 俺はそこですべてを察する。

 誰かがマイロを襲撃したのだ、と。


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