第52話 気持ちを言葉に乗せて
ドン!
重量感ある着地音が轟き、セレティナ姫、シュナイダー王子、そしてサーシャの三人の視線を集める。
「なっ!?」
「えっ!?」
シュナイダー王子とサーシャのふたりは音の正体に気がつくと途端に顔面蒼白となる。――けど、それは無理もない話だ。国内でもっとも安全なはずのアースダイン城内に、いきなりリザードマンが現れたのだからな。
それでも、シュナイダー王子はすぐに姫の前に立ち、携えていた剣を引き抜いて構えた。
「どうやってここまで入り込んだか知らないが――姫には指一本触れさせないぞ!」
勇ましく吠えて、剣先をセスに向ける。
ここで姫を置いて逃げ出すようなヤツじゃなくてよかったと安心しつつ、俺は未だに固まったままのサーシャを守るように前へと立つ。そこへエルシーも加わることで、万全の態勢が整った。
「サーシャ様は私がお守りします!」
「俺もいるぞ、エルシー」
「ふ、ふたりとも……」
サーシャを安心させて、俺は再び対峙する王子とセスに目をやる。
今にも斬りかかりそうな王子。
あと一歩でも踏み込んだから間違いなく戦闘になる。
さすがに、このままじゃ時間切れだ。王子がすぐに衛兵たちを呼ばなかったのは幸運だったが、そのうちに異変を察知してここに集結するのは間違いない。成功するかしないか以前に命の危険まであり得る。
そうなる前に、姫様へセスの想いを伝えなければ。
意を決し、俺がセスと王子の間に割って入ろうと一歩踏み出すと、
「あなた……もしかしてセス?」
姫様が、セスの名を呼んだ。
――覚えていたんだ。
姫はずっと昔に出会ったモンスターのセスを覚えていたんだ。
セス本人はもちろん、俺も驚いた。
話ではだいぶ小さな頃に会ったって聞いていたから、もうとっくにセスのことは忘れているものだと思っていたが、姫はセスの名前を憶えていたのだ。
「やっぱり! あなたセスね!」
「! ひ、姫!」
セスに近づくセレティナ姫を止めようとするシュナイダー王子だが、姫様は王子の腕をスルリとかわしてセスの目の前に立つ。
願ってもない好機。
伝えるなら今しかないぞ、セス!
さあ、言うんだ――練習した、あの言葉を!
「あ、と、う」
「うん? 何? どうしたの?」
セスは必死に口を動かす。
懸命に。
全力で。
モンスターでありながら、受けた恩に対する自分の気持ちを言葉で伝えようと、セスはその大きな口を動かす。その行為を誰も理解してはいないが、必死に何かを伝えようとしているということは分かったらしく、ジッと見守っている。
そして――
「あ、あり、が、とう」
言えた。
俺はバレないように小さくガッツポーズをする。
練習でもあそこまでハッキリと言えたことはなかったのに、と。
「! セス……あなた……」
セレティナ姫には十分伝わったようだった。
「ありがとうって……ありがとうって言ったの? あなたは、昔のことを覚えていて……それで……」
姫の問いかけに、セスは頷く。さらに、
「お、で、う」
またも何かを告げようと、口を必死に動かすセス。
その言葉は、
「おめで、とう」
セレティナ姫の婚約をお祝いする言葉だった。
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