第51話 秘密の庭園

 こちら側の進行はビックリするくらいトントン拍子に進み、とうとう俺はセレティナ姫の庭園へと足を踏み入れた。


 そこは――ハッキリと言ってしまえば、城周りにある庭園と比べると見劣りをしてしまうものであった。しかし、それはあくまでもプロとアマチュアの違いって括りになるのだろう。この庭園はあくまでも姫様の趣味で造られたもので、煌びやかな花というよりも温かみのある素朴な感じの花が咲き誇っていた。


「どうでしょうか、王子」

「美しい……それに優しくて温かい。まさにこの庭園は君そのものだ」


 早速惚気ですか?

 まあ、仲が良いのはよろしいことです。

 それに、俺も同じような印象持ったしね。


「セレティナ姫様、庭園を見て回ってもよろしいでしょうか?」

「構いませんよ。お茶の用意が整うまでまだ時間はあるでしょうから……わたくしが案内しますわ。王子とハーレイさん、それにエルシーさんもご一緒にどうですか?」

「ええ、是非」

「はい!」

「よ、よろしくお願いします」


 エルシーはちょっと緊張しているみたいだな。

 さて……こちら側はだいぶいい雰囲気で進行している。


 シュナイダー王子とサーシャだけしかいない今の状況なら、セスが侵入してきてもすぐには対処できないはず。


 それに――この結婚式はアースダインとバズリーの両国から祝福されている。なので、この結婚式をぶち壊してやろうなんて思う不届き者は少なくとも両国内にはいないだろう。さらに言えば、経済的協力体制を確立できるという側面からも、お互いにとって喜ばしいものとなる結婚といえる。


 邪魔をしようとする者はいない。


 だからこそ――警備に隙は生まれる。

 モンスターが変装して王都に身を隠し、さらに人間と結託して城へ侵入してくるなど、毛ほども想像してはいないだろう。


「わあ、この花とっても綺麗ですね」

「これはシュナイダー王子からのプレゼントなんですよ」

「おぉ! あの時はまだ小さかったのに、随分と立派に成長したんだな」

「ここの土が合っていたみたいなの」


 和やかに進む庭園散策。

 ……まだ、セスは登場しない。


 徐々に不安が増していく。


 もしや、侵入途中で見つかったか?

 それならもっと騒ぎになっていてもいいものだけど。


 ――その時だった。


 ふと視線を上げると、高い城壁のてっぺんに黒い影を発見する。

 その影の正体こそ――セスだ。

 どうやら誰にも見つからずにここまで来られたようだ。


 セスも俺が自分の存在に気づいたと認識したようだ。

 俺は他の人たちに悟られないよう、すぐに視線を元に戻す。ここでバレたら、せっかく今日のために積み上げてきたものが台無しになる。

 俺は、セスが努力していたことを知っているから、絶対に成功させたい。


 さあ、問題はここからだ。

 チャンスは今しかないぞ。


 俺は機を見計らいって壁の上のセスに向かい、必死にアイコンタクトを送る。

 それを受け取ったセスはゆうに五メートルはあろうかという高さから一切ためらうことなく飛び下りた。


 いよいよ、対面の時だ。

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