第32話 救世主はリザードマン?
「しつこい野郎だ……早く失せろ。二度とこの地に足を踏み入れるんじゃねぇ」
最後の睨みがダメ押しになった。
リザードマン(悪)はそれ以上何も言わず、深手を負った体を引きずるようにしてその場から立ち去る。
正直言って、とどめを刺さなかったのは不安が残る。
あいつが腹いせに仲間を引き連れて襲いに来るんじゃないか?
「安心しろ。あいつはもうこの地に足を踏み入れない。俺たちモンスターの本能がそうさせるんだ」
と、リザードマン(善)が説明してくれた。
本能……か。
根拠も何もないけど、同族である彼がそう言っているんだからそうなのかな。半信半疑ながらも、俺はその言葉を信じるしかなかった。
「二度と来るなよ」と心で呟きながら、リザードマン(悪)の後姿を見つめる。その姿が森の奥へ消え去った頃、あれだけ激しく降り続いていた雨も嘘のように上がり、空には星が広がっていた。
「もうこんな時間に……」
さすがにこれ以上遅くなるとまた村総出での捜索になってしまう。
でも、俺としてはもっとこのリザードマンと話をしてみたかった。
「君はよくここに来るの?」
「たまにな。あっちの村人はモンスターに対して警戒心が強いみたいだし……で、それがどうした?」
「俺はもっとあんたと話がしたい」
素直な気持ちをぶつけると、リザードマンは目を丸くする。
「そうか……でもま、今日のところはもう帰れ。大勢の人間の臭いがこっちへ近づいてきている。大方、姿の見えなくなったおまえを探しているんだろう」
鼻先をピクピクと動かしながら、リザードマン(善)は遠くを見つめる。耳を澄ますと、かなり小さいが、大人の男性のものと思われる声が聞こえる。俺の名前を呼んで探しているのだろうか。
もっといろいろと話をしたいけど、このままここにいて俺とリザードマン(善)が一緒にいるところを目撃されたら、また勘違いをされるかもしれない。俺がその場で説得をしても、果たして信じてもらえるかどうか。
「ほら行けよ」
「…………」
俺がどうしようか迷って動けないでいると、
「はあ……わかったよ。明日だ。明日、ここでおまえを待っている。ただし、明日一日だけだぞ」
「! わかった! 午前の仕事が終わったら、必ず来るよ! だから帰らずに待っていてくれよ、リザードマン!」
「セスだ」
「え?」
「俺の名前はセスって言うんだよ」
「……モンスターに名前ってあるの?」
「俺は特別なんだよ。それに、名前があればさっきみたいに同族に絡まれても間違えることはないだろ?」
「う、うん。あ、俺はハーレイ。ハーレイ・グルーザーって言うんだ」
「ハーレイか……覚えたぜ、ハーレイ」
自己紹介を済ませたわけだけど……モンスターに名前って。
なんだか、このリザードマン――いや、セスは妙に人間臭いところがあるな。
結局、俺とセスはそこで別れ、俺は捜索をしに来ていた大人たちと合流。
その後、父上には怒られ、母上には泣きじゃくられ、俺が行方不明になっているとたまたま村に暖炉用の木材を補充しに来ていたレヴィング家のメイドさんから話しを聞いたゾイロ騎士団長が、翌日騎士団を引き連れて村に押し寄せようとするなど、こちらの想像をはるかに越えた大騒動に発展していった。
……これからは自分の言動にもうちょっと責任を持たなくちゃいけないな。
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