112話 決勝にはハプニングがつきもの
「着いた!!」
俺は一足遅れて巫女神社へと到着した。
タクシーに降りて、急いで社へと向かうと道中、先輩と出会した。
「先輩! 星川は?」
そう聞くと先輩はドヤ顔をしながらグッドポーズを俺に向けた。
「間に合ったんですね!」
「うん。今、儀式を受けているところだよ」
「よかった〜〜」
今時刻は11時50分。
タクシーだと渋滞にハマって遅れていた。
先輩にはマジで感謝だな。
「ゆーくん、そんなに湊ちゃんと離れたくなかったの?」
安堵する俺の横で先輩がニコニコしながらそう尋ねる。
「まあ。あいついないと仕事量増えますし、それに数少ない話相手が減るのは嫌ですし」
「ふーん。本当にそれだけなのかな」
「え?」
「それだけにしては妙に必死だからさ。もしかして別の感情も湧いているんじゃないかって思っちゃったり……」
意味深なことを言う。
まさか先輩、俺が星川のことが好きだと思っているな(名推理)。
「別の感情もクソもないですよ。それが本心です。それ以上もそれ以下もないですよ」
「ふーん。ならいいけど」
そう言って道端の石を蹴って先輩は会場へと向かった。
何だか少し機嫌が悪そうだったな。
もしかして嫉妬しているのかな? あの朱音先輩が……嫉妬……圧倒的萌だが、今はオタムーブをかましている場合じゃない。
星川の舞を見届けなければ!
会場に着くと昨日よりも多くの人で賑わっていた。それにテレビ局まで来ているじゃないか!
こんな大衆の前でうまくできるか不安だ……正直、できたのはあの最後の一回しかない。ほぼほぼぶっつけ本番だが星川ならなんとかやってくれるはずだ! 多分!!
「さあ、いよいよやってまいりました!! 天下一巫女グランプリ! 決勝!! 今日、天下一の巫女がついに決まります!! 厳しい予選を勝ち抜き、決勝に残ったのはこの5人だ!!」
エキサイティングな神主の紹介で舞台に5人の巫女が現れる。
その中に星川の姿もあった。
決勝なだけみんなから巫力を感じる……だが、星川も負けてない。
「決勝は日本舞踊を披露していただきます。そして、全員が終わったら、10人の審査員 に最もよかった巫女を投票してもらいます。一番票を集めた巫女が優勝と非常にシンプルな形となっております!」
審査員による投票か……クソ! せっかくテレビ局が来ているのに!! 視聴者投票とかしたら絶対星川が一位になるはず!! 星川の舞にオタクが投票しないわけがないしな!! にしても、審査員の人達、貫禄あるじーちゃん、ばーちゃんばかりだが、大丈夫だろうか。俺達の舞は果たして通用するのか……いや俺が弱気になってどうする! 大丈夫、大丈夫だ! 星川を信じよう
「さあ今年の天下一の巫女になるのは誰か!! では早速初めてまいりましょう!!
決勝が始まる。
決勝は巫女が踊り、それに合わせてもう一人が三味線を弾くものとなっている。
一人一人のレベルが高い。完成された動作と品のあるオーラ。
強者揃いだ。正直、みんな萌える。めちゃくちゃ良い。それになんか……その、こう言う場で言うのも罰当たりなんだろうけど、決勝の巫女達、星川以外みんなデカい。何かとは言わないが、デカくてすごいんだ。でも顔は清楚な感じだから逆にそれが唆るというか、なんというか、とにかくすごい!!
星川には悪いが、めちゃくちゃ目の保養になってしまった……。
「ゆーくん。鼻血出てるよ」
「え、あ、すいません」
朱音先輩にティッシュを渡されてすぐに拭いた。
なかなか厳しい戦いになるかもしれない……。
そしていよいよ星川の番が回ってきた。
「さあて! いよいよ最後!! 星川 湊さん!! 最年少巫女! 代々、巫女の家系である星川神社のニュースター! 伝統的な舞踊で優勝を勝ち取れるか!! ではスタート!!」
ノリノリな神主の掛け声で舞踊が始める。
BGM的なものは星川のばーちゃんが三味線で弾いている。
てんてけてんてんてんというお正月に聞くような、いかにも"和"って感じの音とアニメはフュージョンできるのか……。
祈りながら俺は星川の舞を見た。
そして……。
「すげぇ」
ぶっつけ本番にも関わらず星川は堂々と俺と練習した舞を披露した。
先程のように動作に迷いもなく、時に繊細に、そして時に大胆に舞をこの大勢の前でやりきっている。
練習と同じ……いや練習以上の出来だ。
時が止まったかのように見入ってしまう。隣にいる朱音先輩も周りの観客達も静まり返って、星川の舞を見ていた。星川の舞で会場の雰囲気が包まれたかのようだった。
そりゃあそうだ。今まで演じていた人達は典型的な舞踊。しかし、星川のは違う。今までの伝承を受け継ぎながらも全く新しいものへと昇華させている。伝承ではなくもはやこれは進化とも言えるかもしれない。
気づいたら俺の中の不安は確信へと変わっていった。
永遠に見てられる……。これなら優勝は間違えない!!
そう思った舞の終了間際。
———音が止まった。
そして———。
「ふざけるな!」
星川のばあちゃんの怒号が会場包んだ。
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