第41話 男達の物語は永遠に

 テーマパーク・マッキーワールドでの出来事から1か月が経過した。

 肉体改造と薬物投与の影響で精神的に不安定だったハンニバルも、マティアスやアーサー大尉とその家族の支えにより、軍の人間達とまともに交流出来る程度には落ち着いてきた。

 しかし、敵を目の前にすると凶暴で残忍になる性質は残ったままである。

 この日はマティアスとハンニバルの元にコックからのメッセージが来ていた。軍事基地内の食堂で料理教室のイベントを開くから参加して欲しいとのことだ。

 最近の2人は部屋で自炊をして食事を共にすることが多く、コックが料理を振る舞う食堂に行く機会が少なかった。

 すっかりコックとご無沙汰になった2人は、久しぶりにコックに会いたいと思い、料理教室への参加を決めた。

 2人が食堂へ向かうと、テーブルにはコック、そしてアーサー大尉が待ち受けていた。


「皆さん、お待ちしておりました! こちらのアーサーさんもオイラの料理教室に参加してくれましたよ」

「コック、ご無沙汰しているよ。最近、食堂に顔を出さなくてすまなかったな」

「コック、久しぶりだな! アーサーも料理教室に参加するのか」

「やぁ、君達とここで会うのは奇遇だね。私も家族に手料理を振る舞えるように、料理の腕を身に着けようと思って参加したのさ。コック君、なかなか面白い子だね」


 4人が一斉に挨拶を済ませた後、アーサー大尉が微笑みながらマティアスとハンニバルに話しかけてくる。


「君達も頑張って料理の腕を磨くのだぞ。将来のお嫁さんや子供の為にもね」

「なっ……!? 俺達は改造人間で生殖機能が欠けているから、ガキを作ったり家庭を持ったりすることは出来ねーっての! ……いや、ガキを作らなくても結婚くらいは出来なくも無いか。俺が料理教室に参加したのは、マティアスにもっと美味い料理を振る舞えるようになるためだ! な? マティアス?」

「あぁ。ハンニバルとはお互いに料理を振る舞える立場でいたいからな。それに私は……」

(私は女よりもエーリッヒのような美少年が好きなんだ!)


 マティアスは思わず他人には知られたくない本音を吐き出しそうになる。


「マティアス、どうしたんだよ?」

「あ……いや……私にとって最高のパートナーはお前しかいないってことだ」

「お前も俺と同じだな! 嬉しいぜ!」


 マティアスはハンニバルへの思いを伝えることで、なんとかその場を乗り切った。

 一同が会話を終えたところでコックの料理教室が始まる。


「皆さん、教えて欲しい料理の要望はありますか?」

「私はフルーツを使ったデザートのレシピを学びたい」

「俺は得意な肉料理をもっと上手く作れるようになりたいぜ」

「私は家族の為にも本格的イタリア料理を作ってみたいね」


 コックが質問をすると、3人はそれぞれの要望を答えた。

 アーサー大尉は本格イタリア料理を、マティアスとハンニバルはそれぞれ自分の得意分野を伸ばしたいようだ。


 最初にフルーツデザート作りのレッスンから始めることになった。

 コックが手本となり、3人はコックのやり方を見ながら作業を進めていく。

 日頃から自分の大好物のフルーツを食べているマティアスは、手慣れた手付きで果物ナイフを扱い、フルーツをカットしていく。

 一方、ハンニバルとアーサー大尉はフルーツを綺麗にカットすることに慣れておらず、大きさが不揃いのカットフルーツが出来上がった。

 そして、3人がカットしたフルーツをそれぞれのワイングラスに入れ、そこに酒を混ぜることでフルーツカクテルが完成した。


「自分で作ったデザートってなかなか愛着沸くもんだな! 早速食っていいか?」

「待って、ハンニバルさん! デザートは食後の為に取っておくんですよ!」


 ハンニバルがフルーツカクテルを手に取ろうとすると、コックは慌てて止めた。

 コックが最初にデザート作りのレッスンを始めたのは、肉料理やイタリア料理と違い、食材の熱が冷めて味が落ちることが無いからだ。


 2品目は本格的なピザ・マルゲリータ作りのレッスンだ。

 まずはホールトマトとニンニクと塩を混ぜてトマトソースを作る。

 このトマトソースだけでも美味しく、他の料理にも応用出来そうだと3人は気づく。

 次にトッピング用の具材となるトマト、モッツァレラチーズ、バジルを用意した。3人はトマトを食べやすい大きさに切っていく。

 その次に3人はコックの指示に従ってピザの生地作りを始めた。材料を混ぜてピザ生地が出来上がった後、それを円状に伸ばしていく。

 ここでも人によって腕の差が表れており、綺麗な円状に伸ばす者もいれば、不格好な円状に仕上がった者もいた。

 ピザ生地をオーブンに入れ、ある程度温めたところでトマトソースと具材をトッピングする。

 更にオーブンで温め、焼き目がついてチーズが溶けたところでマルゲリータは完成だ。

 焼きたてマルゲリータを前に3人は食欲をそそられるが、あと1品を完成させるまではお預けとのことだ。


 3品目は濃厚な旨味を持つガーリックバターステーキ作りのレッスンだ。

 牛肉を食べやすい大きさに切り、塩と黒コショウを振る。

 次にフライパンの中に肉、ニンニク、タマネギを入れて焼き始めた。

 肉や野菜は焼き加減が非常に重要で、熱を通し過ぎても熱が足りな過ぎても駄目なのだ。


「マティアスさん、もうちょっと強火にして。それからハンニバルさんは火が強すぎィ!」

「ん、そうか。なら火を強めてみる」

「え? 俺、間違ってるのか? もっと強火で焼いた方が美味いと思うんだけどなぁ」


 マティアスとハンニバルがコックから指摘を受けている中、アーサー大尉だけは2人の様子を見て微笑みながら順調に食材を焼いている。

 食材を焼いた後、コーンとバターを乗せることでガーリックバターステーキは完成した。


「皆さん、よく頑張りましたね! 美味しく召し上がりましょう! 飲み物はアイスティーしかないけどいいかな?」

「あぁ、たまにはアイスティーも良いな。コックのおかげで良いレシピを見つけられたよ」

「この料理を私の家族にも披露したい気分だ」

「皆、早く食おうぜ!」


 一同は席について作った料理を食べ始める。料理の出来栄えが全員バラバラなこともあって、一同は互いに具を交換し合いながら食事を楽しんだ。

 一同が食事を終えると、コックは喜びながら立ち上がる。


「今日は皆さんのおかげで楽しい料理教室になりました! オイラはこれからもここの兵士達を満足させられるように頑張ります!」

「こちらこそありがとう。私達軍人が頑張れるのもコックのおかげだ。これからも兵士達の為に美味しい料理を振る舞ってくれ」


 コックは3人と交流が出来、3人はコックから美味しい料理を教わってとても満足していた。

 そんな時、今度はアーサー大尉が口を開く。


「君達にお願いがある。私の息子のナイトも軍人を目指しているんだ。今はまだ子供だが、大きくなって軍に入隊したら、その時は同じ軍人として仲良くしてやってくれ」

「もちろんだ。あの子はきっと逞しい軍人に成長するよ」

「暇な時はナイトの遊び相手になってやるぜ。立派な軍人になれるように俺が鍛えてやるからよ」

「アーサーさん、今度は息子さんも誘って料理教室やりましょう!」

「ハッハッハ、それはありがたいね。ナイトにも伝えておくよ」


 一同はこれからも軍の為に共に歩むことを誓い、その場で解散した。

 マティアスとハンニバルは食堂を後にすると、マティアスはハンニバルの手を握り、語りかける。


「ハンニバル、改めて礼を言わせてくれ。孤独な傭兵だった私を仲間に入れてくれてありがとう。お前と出会わなければ、私はコックやアーサー大尉のような頼もしい仲間と出会うことも無かった。この出会いは大切にするよ」

「マティアス、俺だってお前には感謝してもしきれないぜ。俺が道を踏み外して暴走しちまった時も、お前は俺を見捨てずに寄り添ってくれただろ? これからもずっと一緒にいてくれよな」

「あぁ、私たちはどこまでもずっと一緒だ」


 男たちの物語はこれから始まるのだ。




ワイルド・ソルジャー〈完〉

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