第17話 爆撃のアイアンフェイス

「マティアス、さっきの奴は滝壺に放り投げておいたぜ。今回もお前の戦略に助けられたな!」

「いや、お前があのガスマスク男の足止めをしてくれたおかげで成し得たことだ。こちらこそ礼を言うよ」


 敵の1部隊を撃破したところで2人は笑顔で握手を交わす。

 ハンニバルは生まれつきの回復力のおかげで、敵に斬りつけられた左腕の傷が癒えていた。

 一方、マティアスは改造人間では無いので、体力の回復には少し時間が掛かるだろう。

 2人は敵が設置していたテントの中に入り、少し休憩することにした。

 テントの中には、少量ながら衛生品・食料レーションペットボトル飲料アイスティー・弾薬が入っている。2人は傷の手当てと食事を取り始めた。


「またアイスティーかよ……。コックも食堂でアイスティーばかり押し付けやがるし、あっちの人間はどんだけアイスティーが好きなんだよ」

「コック曰く、アイスティーは軍人の体作りに良い飲料らしいぞ。いくら飲んでも実感は無いから本当かどうかは分からないがな」


 軍事基地にコックが仲間入りしてからは、食堂でアイスティーを押し売りされることが多くなっていた。

 コックの祖国で人気の飲み物らしいが、アメリカ育ちのマティアスとハンニバルにとって、無糖のアイスティーは味が薄くて少し物足りなかった。

 2人が食事を終えた後、ハンニバルはクラークから奪い取った槍斧状の銃剣が付いたライフル銃をマティアスに見せる。


「こいつはさっきのガスマスク野郎から奪い取った武器なんだけどよ、なかなか高性能な銃だぜ。お前が使えばもっと強くなれるんじゃないか?」


 ハンニバルがライフル銃をマティアスに渡すと、マティアスはそれを試しに構えたり、銃剣で斬りつける仕草をしてみた。

 やや重量があるが、今まで愛用していた機関銃よりも威力が高く、近接攻撃にも対応出来る優れものだ。


「上等だ。今後はこれを使わせてもらおう」


 マティアスは新しい武器をとても気に入ったが、だからと言って今まで使っていた愛銃を捨てるのも惜しいので、機関銃はハンニバルが預かった。

 力持ちのハンニバルなら荷物一つ増えたところで支障は出ないだろう。

 2人は体力が十分に回復したところでテントを後にする。

 外に出れば、このジャングル全体が敵のテリトリーだ。いつ敵に見つかって狙撃されてもおかしくない状態が続くだろう。2人は用心しながら先へ進んでいく。

 マティアスは今までの戦闘経験で身に着いた気配察知能力を、ハンニバルは生まれ持った嗅覚と聴覚を活かし、隠れている敵の気配を感じると片っ端から銃撃と砲撃で蹴散らしていった。

 しばらく進むと、別の部隊と思わしき集団を発見した。先ほど戦った部隊と比べて明らかに人数が多く、倍以上はいるようだ。

 そして、その部隊は鉄製のフェイスマスクを被った兵士が指揮を取っている。

 このフェイスマスク男は大柄で筋肉質な体系はクラークと共通しているが、上半身は裸で、手には巨大なバズーカを持っている。

 フェイスマスク男がバズーカを斜め上に向け、上空に砲弾を放つ。

 すると、砲弾は空中で分裂して無数の小型ミサイルに変わり、マティアスとハンニバルが立っている場所周辺に一斉に落ちてきた。


「気づかれたか! 今回もまとめて蹴散らしてやるぜ!」


 2人は急いでミサイルの雨を潜り抜け、敵の前に姿を現した。


「おい、そこの鉄仮面野郎! いきなり爆撃で不意打ちとはやってくれるじゃねーか! てめぇもあのガスマスク男の元へ送ってやるぜ!」


 ハンニバルは怒ってフェイスマスク男を指さしながら言った。

 フェイスマスク男は素顔は見えないが、仲間を殺されて怒りに震えているのが伝わってくる。


「貴様らこそ、よくも俺の親友のクラークを殺したな! この"爆撃のジェフ"率いる我々が貴様らを返り討ちにしてやる!」


 ジェフと名乗るフェイスマスク男は周りの部下たちに集中射撃の指示を出すと、中距離にいる突撃兵と遠距離にいる狙撃兵達が一斉に攻撃を仕掛けてきた。

 ジェフはマティアスとハンニバルから距離を置き、遠距離から砲撃を放つ。

 クラークが近接戦闘型だったのに対し、ジェフは遠距離戦闘に特化した兵士のようだ。

 敵がクラークの部隊よりも倍以上多い状態での集中攻撃は、さすがのマティアスとハンニバルもごっそり体力を削られていく。

 マティアスはクラークの部隊との戦いで敵にスタングレネードが通用しないことを学習しており、持ち前の素早さを活かして俊敏に動き回る敵の突撃兵を、銃に装着された銃剣による近接攻撃と銃撃で攻撃していった。

 一方、ハンニバルは突撃兵と比べてあまり素早く動けない狙撃兵を遠くから砲撃で攻撃していく。

 しかし、ジェフはおろか周辺の雑兵すらも一向に倒れる気配が無い。

 なぜならジェフが後方から部下達へ向けて回復物資を発射しており、雑兵達は瞬時にそれを使って治療しているからだ。

 2人のどちらかがジェフの足止めをしない限り、周辺の敵の体力を削ることすら困難だ。

 

「ハンニバル、私が奴の気を引く。お前は雑魚を一掃してくれ」


 前回の戦いでは敵部隊のリーダーの足止めをしたのはハンニバルだった。

 今度は自分がその役目を引き受けたいとマティアスは思っていた。

 そして何よりも、20人を超える敵の猛攻に耐えられるのはハンニバルだけだからだ。


「おう、頼んだぜ! 雑魚どもは俺に任せておけ!」


 ハンニバルも迷うことなくマティアスにジェフの足止めを任せ、雑兵の集団に向かって砲撃を撃ち続けた。

 マティアスはライフル銃を発砲しながらジェフが立っている場所へ走って行く。

 強靭な肉体を持つ改造人間のジェフに銃弾はほぼ効かなかったが、それでもジェフの気を引くためにマティアスは攻撃を続ける。

 ジェフはマティアスの接近に気づくと部下への回復物資発射を止め、マティアスの頭上に砲弾を放ち、再び空爆を仕掛けてきた。

 マティアスは難なくミサイルの雨を潜り抜けるが、その最中にジェフが手持ちのバズーカをマティアスへ向けて発砲する。

 マティアスがジェフの砲弾を避けたと思ったその時、砲弾は分裂・拡散し、マティアスに命中し転倒させた。

 それでもマティアスはすぐに体勢を立て直し、上空から降ってくるミサイルを避けつつ、なんとかジェフと距離を詰めることが出来た。

 相手が遠距離戦闘特化なら近接戦闘に持ち込もうとマティアスは考えていた。

 今までなら自分より大柄な改造人間相手との近接戦闘は避けていただろう。

 だが今はクラークから奪った銃剣付きライフル銃を持っている。この武器を構えれば改造人間相手でも張り合える気がしていた。


「貴様、クラークの武器を持って強くなった気分にでもなったのか? 貴様は所詮生身の人間。俺の敵では無い!」


 ジェフはマティアスに向けてバズーカを振り回してきた。まるでいつものように雑魚を蹴散らすハンニバルのように。

 マティアスはジェフの動きを冷静に観察しつつ攻撃を避け、ジェフの背後に回った隙に銃剣を振り落とす。

 ジェフの背中は僅かに出血し切り傷が出来たが、やはり改造人間故に防御力がかなり高く、あまりダメージを与えられなかった。

 ジェフはその直後に振り向き、マティアスをバズーカで殴り飛ばす。

 マティアスは起き上がろうとするが、今のダメージはかなり大きく、立つのがやっとの状態だ。


「なかなか良い動きだ。だが、貴様にはパワーと強靭さが足りん。これが我々改造人間と生身の人間の力の差だ!」


 ジェフは勝ち誇ったかのように叫んでいた。強い武器を手に入れたとはいえ、やはり改造人間相手と近接戦闘で殴り合うのは無謀だったのかと痛感するマティアス。

 しかし、マティアスの目的はジェフとの一騎打ちに勝つことでは無い。ジェフの支援行動を止めさせ、ハンニバルが雑兵を全滅させるまで時間稼ぎをするのが役目だ。


(くっ……ハンニバル、早く来てくれ……!)


 負傷し、体を思うように動かせなくなったマティアスには、ただハンニバルを待ち続けるしか無かった。

 そんなマティアスに、ジェフは更なる攻撃を与えようと少しずつ近づいてくる。

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