第8話 ハンニバルの正体
街の入り口周辺の敵は始末したが、奥にはまだまだ大勢の敵がいるはずだ。
敵に気付かれて集中砲火を浴びると厄介なので、身を隠しながら少しずつ、マティアスとハンニバルは奥へ進む。
しばらく進んだところで目に映ったのは、数人の兵士たちの姿だ。
その内1人は短髪かつ筋肉質な女で、他の隊員とは違った服装をしている。この女は敵の幹部だろうか。
2人はそれぞれの武器で敵兵たちを狙撃する。下っ端の敵兵は一掃出来たが、女兵士だけはこちらの存在に気づいていたのか、攻撃を軽々と避けた。
「騒ぎの原因は貴様らだったか。雑兵は倒せても私は甘くないぞ」
男のような口調で話す女兵士は両手に軍用ナイフを持ち、俊敏な動きでマティアスに襲い掛かった。
女兵士が接近してナイフで斬りかかると、マティアスもすぐさま右手でナイフを取り出して攻撃を受け止める。
すると、女兵士はもう片方の手に持ったナイフでマティアス目掛けて突き刺そうとする。
マティアスは間一髪のところで左手で女兵士の腕を掴み、地面に叩きつけた。
その隙にハンニバルが女兵士を捕まえようと飛び掛かったが、女兵士は瞬時に宙返りしながら高くジャンプし、背後に回ってナイフをハンニバルに突き刺す。
しかし、ハンニバルの強靭な肉体には傷一つ付けられず、ナイフは弾き返された。
それでも女兵士は驚くことも無く、むしろ勝ち誇ったかのような表情をしていた。
「ナイフで刺しても傷一つ付かないとは、さてや貴様は"
女兵士が高笑いしている隙に、ハンニバルは女兵士の体を両手で締め上げる。どうやらハンニバルに毒は効かなかったようだ。
「なんだと……!? この毒に触れた人間は数秒で死ぬはずだ! なのになぜ貴様は平然としている!?」
「悪いな。"最高傑作の人間兵器"と呼ばれる俺にはそんなもんは効かねぇぜ! これから本物の致命傷ってもんを教えてやるから覚悟しとけよ?」
ハンニバルは持ち上げた女兵士の背骨を背中から折り始めた。骨がきしむ音が鳴り、女兵士は悲鳴を上げる。
ハンニバルは女兵士が苦しむ様子を楽しんでおり、もはや彼の方が悪役にしか見えない構図だ。
「なかなか良い音がするなぁ。ほら、死にたくなかったらさっさとてめぇらのボスの居場所を教えな!」
「隊長はここから北に行ったところの広場にいる! ……ほら、言ったぞ! 約束通り助けてくれ!」
女兵士がボスの居場所を告げると、ハンニバルは手を止めるどころか、更に力を強めた。
「おい、約束が違うだろ! ……助けて……死に……たわっ!」
「言ったはずだぜ? 本物の致命傷ってもんを教えてやるってな?」
ハンニバルは断末魔を上げる女兵士の背中を真っ二つに折って殺害した。ハンニバルの殺し方のバリエーションが日に日に増えていく一方だ。
ハンニバルの元にマティアスが駆け寄って行く。
「よくやった。私1人では間違いなく苦戦していただろう。……それからハンニバル、お前は人間兵器だったのだな」
今回の女兵士との戦いで知った衝撃の事実、ハンニバルの正体は肉体改造された人間兵器だったということだ。
ハンニバルは元々人間離れした強さを持っていたので、マティアスはその事実を知ってもあまり驚かなかった。むしろハンニバルの強さの秘密を知って納得したほどだ。
ハンニバルは真面目な表情に変わり、自身の秘密を打ち明ける。
「お前に真実を話さなければいけねぇ時が来たようだな。俺は軍と繋がっている生物兵器研究所で生まれ、戦うために遺伝子操作や肉体強化をされた改造人間だ。戦う為だけに生み出された俺は家族というものを知らねぇ。そして戦闘用に品種改造された俺には生殖能力が欠けているんだ。まぁ、ガキなんか作れなくたってクローン技術で子孫を残せるから問題ねぇけどな。俺には家族がいねぇが、お前と出会ったことで生まれて初めて自分に兄弟が出来た気分になれたぜ」
ハンニバルは自身の秘密とマティアスへの思いを伝えると、真面目な表情から一転、喜びに満ちた表情に変わった。
ハンニバルにとって今やマティアスは家族のように大切な存在なのだ。
「ハンニバル、お前は私を絶望の底から救ってくれた命の恩人、そして私にとって無二の親友だ。例えお前が改造人間でも、私は一生お前について行こう」
マティアスもハンニバルの思いに応えるように感謝の気持ちを伝えた。2人は握手を交わした後、敵のボスがいると思われる場所へ向かう。
先ほど倒した女兵士の言葉通り北の方へ進んでいくと、無残に焼け崩れた広場の中心に着いた。
そこには火炎放射器を持ったモヒカン頭のグラサン男と20数人の手下の兵士達が、生き残りと思われる住民の男性1人を囲っている。
敵の隊長と思われるグラサン男はボトルを取り出し、住民の身体に黒いオイルをぶっ掛けた。住民の全身は真っ黒になりベトベトだ。
「おー、いい格好だぜぇ?」
「こりゃ汚物だな! ハッハッハッ!」
グラサン男と敵兵達は油塗れになった住民の姿を見て笑っている。
「ほら汚物、頼み事言ってみ? その体、綺麗にしてやろっか?」
「助けて下さい! 綺麗に洗い流して下さい!」
グラサン男が嘲笑いながら住民に呼びかけると、住民は土下座しながら助けを求めた。
するとグラサン男は火炎放射器を住民に向ける。
「汚物は消毒だ~~!!」
グラサン男はそう叫ぶと同時に、住民に向けて火炎放射を放った。住民は大きな炎に包まれながら悲鳴をあげ、黒焦げになって絶命してしまった。
グラサン男と兵士達は黒焦げになった死体を見て高笑いしている。
その一部始終を目撃していたマティアスとハンニバルには怒りが込み上げてきた。
「何てことしやがる! 一般人相手に寄ってたかって、生きる為でも無いのに無抵抗の人間を殺し、てめぇらそれでも軍人か! 恥を知れ!」
「待て、ハンニバル! 気持ちは分かるが敵の数が多すぎる! まずは狙撃で各個撃破だ!」
マティアスは激情するハンニバルを止めようとしたが既に遅く、ハンニバルは大勢の敵の目の前に姿を現した。
敵兵達もこちらの存在に気づき、武器を構える。
「さっきからうるせーぞ! 文句でもあんのかよ! てめーらも消毒されてぇのか?」
「ビリー隊長! こいつらですぜ! あっちにいた仲間やクレア副隊長を殺ったのは!」
手下の兵士がビリーと呼ぶグラサン男に声を掛けた。あの女兵士は副隊長だったようだ。
ビリーは手下の兵士達に合図を送り、敵兵達はマティアスとハンニバルを包囲する。
「野郎ども! 今こそここで仲間達の恨みを晴らしてやろうぜ! ……そしててめーら、オイル塗れにしてから消毒してやるな!」
ビリーは高くジャンプして周囲にオイルをばら撒き、その直後に敵兵達が地面についたオイル目掛けて爆弾を投げた。
「まずい! 逃げろ!」
爆弾は勢いよく爆発し、周囲に火柱が立つ。マティアスはなんとか回避したが、ハンニバルは炎に飲まれてしまった。
「ヒャーッハッハッ! あいつ避けようともせずにボーっとつっ立って馬鹿な奴だぜ! 残りはあと1人だな!」
ビリーはハンニバルを始末したと確信してマティアス目掛けて火炎放射を放つ。周囲の敵兵もマティアスに向かって銃撃を仕掛けてきた。
マティアスは火柱と火炎放射を避けつつ敵兵を撃ち抜こうとするが、火柱のせいで視界も移動範囲も狭く、敵の攻撃を避けるのが精一杯だ。
少し時間が経った後、ハンニバルが炎の中から飛び出し、敵兵2人を両手で捕まえて燃え盛る炎の中へ押し込んだ。
炎の中に押し込まれた敵兵達は叫ぶことも出来ず、もがきながら黒焦げになって息絶えた。
「なんだと!? 物理的におかしいだろ! あれだけの炎に飲まれて傷一つ付いてないなんて、てめー絶対人間じゃないだろ!」
「俺はアメリカ軍最高傑作の人間兵器、ハンニバル・クルーガーだ! このグラサン野郎、後でてめぇも消毒してやるから待ってろや!」
ビリーはハンニバル目掛けてオイルをばら撒こうとしたが、オイルが入ったボトルを取り出した瞬間、マティアスがビリーの手を狙撃した。
ビリーはボトルを落とし、撃たれた手を抑えながら2人の元から素早く離れていく。
「くそっ! 野郎ども、やっちまえ!!」
ビリーは手の応急処置を終えると、遠く離れた場所から火炎放射を放ってきた。敵兵達も2人に向かって銃撃を続ける。
「マティアス、まずは雑魚どもを始末するぞ。その後、あのグラサン男にしっかり報いを受けてもらうぜ」
「わかった。あの下衆な奴らに我々の力を見せてやろう!」
マティアスは火柱を壁にしつつ敵を狙撃し、ハンニバルは炎と銃撃を恐れることなく敵を砲撃で蹴散らしていく。
ハンニバルが積極的に前に出て囮になってくれたおかげで、マティアスは攻撃に専念してスムーズに敵を倒すことが出来た。
幸いここには敵の衛生兵が居なかったので短時間で一掃することに成功した。残る敵はビリー1人だけだ。
2人はビリーの元へゆっくり近づいて行った。
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