第23話 歩み寄り
「妖精学のペーパー範囲は二ページ目から、昨日やったところまで。三十六ページかな。まぁ、まだ一学期だし、選択科目だから、ほとんど基礎がメインになるよ」
妖精学の試験範囲の説明を済ませ、サモンは時計で時間を確認する。
まさか、授業開始五分で全部終わってしまうなんて。授業配分をかなり間違えたようだ。
だが、次のテスト範囲を勉強するには早すぎるし、復習しようなんて気にもならない。
サモンは教科書を教卓の上に置いた。
「この時間は、ペーパーの方の対策時間にしよう。どの教科でも問わない。別教科の勉強がしたいなら、一昨日教えた『
サモンはそう言って、杖を振って椅子を引き寄せる。
生徒たちは廊下に向かって、杖を振って教科書を引き寄せる。だが、ほとんどの生徒が不発。引き寄せられた一部生徒は、他人の教科書だったり、自分が欲しいものとは違う教科書を引き寄せて、落胆する。
サモンは「下手くそ」と言って、読書を始めた。
レーガは黙々と、妖精学の勉強を始める。サモンはレーガの様子に、片眉を上げた。
授業記録を見る限り、レーガの妖精学の成績は一年の時から優秀で、ペーパーテストはロゼッタをおさえてトップになったこともある。
今回のテスト範囲はほとんど基礎だ。応用問題はない。
レーガの知識なら、応用を混ぜたところで八十点より下は取らないだろう。復習するほど面倒な授業をしたことも無いはずだ。
(何故、妖精学の復習を……?)
他の科目の方が、テスト範囲も広く、応用問題も沢山出るだろうに。
妖精学より、そちらの方を勉強するのが得策と言える。
「授業さえちゃんと聞いていれば、誰にでも解けるのに」
「先生、質問があります」
ロゼッタが教卓の前に立っていた。教科書を開き、「ここの浮遊魔法に関して」とサモンに尋ねる。
「この『
「……先週の火曜日にやった気がするけれど」
「マリアレッタ先生の手伝いをして、授業に出られなかったので」
──あぁ、そうだったっけ。
ロゼッタに盛った忘却薬の効果が薄れてないか、確認してもらう為に頼んだんだっけ。
サモンは「あっそう」と素っ気なく返事をして、本を閉じた。
「ロゼッタは、この二つの魔法を使ったことは?」
「授業で習った呪文は、必ず練習するようにしてます」
「で、使った印象は?」
サモンが尋ねると、ロゼッタは少し悩んだ。
「私はあまり、妖精魔法は得意じゃないので……」
「でも使ったんだろう? どうだった?」
「う〜ん。『
「それが違いだよ」
サモンはイヤリングを外して、目の前で魔法をかける。
「『
イヤリングは教卓から十数センチほど浮いて、そのまま高さが変わらない。
ロゼッタは「へぇ」と感心する。
「『
「『高い高い』だ」
「高いたか……」
サモンのざっくりした説明に、ロゼッタの表情は固まる。
サモンが『
サモンはそれを手で受け止めると、イヤリングを耳に戻した。
「今見たように、『
「そんな命がけで絶景写真を撮りたい人はいないと思います。でも、説明ありがとうございました」
ロゼッタはお辞儀をして、席に戻った。
サモンは息をついて読書に戻る。表紙に指が触れた時、サモンは(あれ?)と眉間にシワを寄せる。
(さっき私、レーガの事を気にしてた?)
サモンは「そんなわけ」と乾いた笑いをこぼす。
そんなことは無い。私は、人間嫌いだ。
何故嫌いな種族のことを気にかける?
「……気の迷いだ。気の迷いなんだ」
サモンは自己暗示をかけるように、本を開いた。
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