第140話 小型爆弾
1945年6月6日 午後4時
1
「春雷」隊、「雷雲」隊が戦場に到着した時点で日米双方の砲雷戦での損害は以下の通りだった。
日本軍側被害
沈没確実 戦艦「金剛」、重巡「衣笠」「古鷹」、軽巡「大淀」、駆逐艦2隻
航行不能 戦艦「比叡」、重巡「筑摩」
大破 重巡「摩耶」「青葉」、駆逐艦1隻
中破 戦艦「武蔵」「長門」「榛名」、重巡「利根」
戦果(米軍側被害)
沈没確実 戦艦「ニュージャージー」「ウィスコンシン」、重巡3隻、軽巡2隻、
駆逐艦1隻
航行不能 無し
大破 戦艦「アラバマ」、重巡2隻、軽巡1隻、駆逐艦1隻
中破 駆逐艦2隻
上空から彼我の艦隊の損害状況をつぶさに観察した2隊は「春雷」隊が敵戦艦部隊に、「雷雲」隊が重巡「利根」「筑摩」と砲火を交えていた駆逐隊にそれぞれ攻撃を開始した。
「春雷」「雷雲」の突然の出現は、直ぐさま米機動部隊にも伝えられた。2日間の航空戦を生き残って飛行甲板が無傷のエセックス級、インデペンデンス級空母からF8F、F6Fがスクランブル発進し、慌てて戦場に馳せ参じようとしていた。(一方の日本側も襲撃機部隊の援助のため疾風、零戦を追加で派遣しようとしていた)
真っ先に敵戦艦1、2、4番艦――即ちモンタナ級戦艦「モンタナ」「オハイオ」とアイオワ級戦艦「ミズーリ」に攻撃を仕掛けた「春雷」隊は、激しい対空砲火によって隊の3割に当たる14機を撃墜された。
しかし、残りの34機が3戦艦に対して投弾に成功し、「モンタナ」に50キログラム爆弾9発、「ウィスコンシン」「ミズーリ」に同6発命中の戦果を挙げた。
50キログラム爆弾は艦上攻撃機の「彗星」が搭載している500キログラム爆弾と比較すると遙かに非力な爆弾だ。だがその非力な爆弾が3戦艦、特に1番艦の「モンタナ」に致命的な損害を与えた。
大和型に匹敵する防御装甲で覆われている「モンタナ」の最も脆弱な部分、即ちレーダーと煙路に1発ずつが直撃し、前者を全壊、後者を半壊に追い込んだのだ。
この影響で、「モンタナ」は米戦艦お得意のレーダー照準射撃が不可能となっていしまった。更に、煙路に流れる煙の気流がおかしくなってしまったことによって速力が22ノットにまでいきおい低下してしまった。
「オハイオ」、「ミズーリ」は「モンタナ」のように致命的な損害を受けることは無かったものの、長時間主砲発射を妨害されてしまう結果となってしまい、その間に46センチ砲弾、40センチ砲弾、36センチ砲弾による被害が加速度的に累積していった。
「春雷」隊が投弾を終えた頃には「雷雲」隊も半数以上が投弾を終了しており、海面では新たに駆逐艦1隻が航行不能、4~5隻程度が艦の何らかの部分に損害を受けていた。
遅ればせながら戦場上空にやってきた米戦闘機部隊が怒りにまかせて、投弾を終えた「春雷」「雷雲」隊に機銃弾を浴びせ10機以上を撃墜・撃破した。しかし、日本軍の疾風や零戦33型が割り込んできたということもあって大多数の襲撃機を逃がしてしまったのだった・・・
2
「ありがたい!!」
「何という敢闘精神だ」
「海軍機の『春雷』だけではなく、陸軍機の『雷雲』も来てくれるとはな・・・」
戦艦「武蔵」艦長猪口敏平少将、戦艦「長門」艦長渋谷清見大佐、重巡「筑摩」艦長玉木誠也大佐などが離脱しつつある襲撃部隊に対して、思い思いの言葉を投げかけていた。
絶妙なバランスで均衡を保っていた砲戦は一気に日本側に傾きつつあった。
まず、「ミズーリ」が音を上げた。
「ミズーリ」は射撃が中断していた間に「長門」「榛名」「霧島」の3隻から新たに40センチ砲弾5発以上、36センチ砲弾10発以上を撃ち込まれてしまった。
3基の3連装主砲は1基が全壊、もう1基が旋回不能にまで追い込まれてしまい、水面下に命中した1発によって推定100トンの浸水を呑み込んだ。(速力31ノットに低下)
結局、「ミズーリ」は「榛名」と半ば相討ちになるような形で戦場離脱せざるを得ず、先に離脱を開始していた「アラバマ」と合流して遁走を開始した。
重巡「利根」「筑摩」にまとわりついていた30隻以上の米駆逐艦は「雷雲」隊の攻撃によって動きを大きく乱され、その機を見逃さなかった「利根」が20センチ砲弾を手当たり次第にぶち込み、敵駆逐隊は最終的に4隻を喪失して撤退した。
そして・・・
「射撃中止!!」
「武蔵」艦長の猪口敏平少将は命令を下した。
お互いの桁外れの防御力によって長い間膠着状態に陥っていた「武蔵」VS「オハイオ」の砲戦も終局を迎えようとしていた。
米海軍最大の巨体を誇るモンタナ級の艦体は全動力を失い完全に停止していた。
4基の主砲の内、破壊されている主砲は1機も無かったが、その砲に新たな火焔が燦めく事はない。
「武蔵」は敵2番艦との砲戦に打ち勝ったのだった。
「とんでもない相手でしたな、敵2番艦は。トラック沖海戦でやり合ったサウスダゴタ級戦艦とは比べものにならない程に」
副長の加藤憲吉中佐が感嘆の思いで敵2番艦を見つめていた。
「ああ、しかし本艦は勝った。世界最強の戦艦が帝国海軍の大和型であることが証明されたのだ」
猪口はそう言い、そこに新たな報告が「武蔵」の艦橋に飛び込んできた。
「敵1番艦停止! 戦闘・航行不能の模様!」
砲戦決着の瞬間であった。
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