第123話 誘爆
1945年6月6日 朝
第2タフィ群が、日本軍の基地航空隊から出撃した第1次攻撃隊110機による猛攻によって惨劇に襲われていたとき、更なる悲劇が、第2タフィ群の近くを航行していた第1タフィ群に降りかかろうとしていた。
「日本軍機多数、距離80海里、機数100機以上!」
「当然あっちだけでなく、こっちにも来るわな。敵機の大群が」
カサブランカ級航空母艦「ガダルカナル」艦長ビリー・ハローラン大佐がため息をつきながら戦況を注視していた。
第2タフィ群の護衛空母3隻が既に撃沈確実の損害を被っていることは艦隊無線を通じて知らされていたため、この次の攻撃隊が第1タフィ群に襲いかかってくるということは十分に予測できた。
日本軍機の来襲前に何とか出撃させることに成功した直衛のF6Fは日本軍の
F6F隊は奮戦しているが、敵編隊は編隊を崩すこと無く第1タフィ群に接近してくる。20機程度の梯団が3隊だ。
「面舵一杯! 敵攻撃機の投弾・投雷は操艦で回避する。一つの被弾・被雷も許されぬぞ!」
「面舵一杯!」
ビリーの命令に対して航海長のジャック・レイノルズ中佐が即座に復唱し、操舵室にも命令が飛んだ。
焦るビリーの気持ちとは裏腹に「ガダルカナル」の動きは驚くほど鈍い。「ガダルカナル」はカサブランカ級航空母艦に類別される護衛空母とは言え、全長156.13メートル、基準排水量11760トンを誇る巨体を持っている。そのため、舵の利きが鈍いのだ。
「早くしろ、早くしろ、早くしろ・・・」
ともすれば「ガダルカナル」のケツを蹴り飛ばしたくなるような思いを懸命にこらえながらビリーは艦の動きに身を委ねていた。
「敵編隊速度上げました、40海里!」
艦橋に新たな報告が飛び込み、ビリーの耳にも敵攻撃機のエンジンが発しているであろう爆音が聞こえてきた。
「敵機の種類は
見張り員からの報告と同時に「ガダルカナル」の右舷の海面から砲声が立て続けに轟き始めた。第1タフィ群に随伴しているバックレイ級護衛駆逐艦の「トリミング」「ハイノート」などが一足先に対空射撃を開始したのだ。
「射撃開始!」
ビリ-が命令し、「ガダルカナル」の5インチ単装砲、40ミリ連装機銃が一斉に砲門を開き、おびただしい数の青白い火箭が突き上がった。正規空母のエセックス級に装備されている対空砲火と比較すると護衛空母の対空射撃は貧弱の一言に尽きる。
しかし、射弾の1発1発には「ガダルカナル」の思いが乗り移っているかのようであり、その迫力は正規空母顔負けのようにビリーには感じられた。
「『セント・ロー』射撃開始!」
「『トリポリ』射撃開始!」
「『マニラ・ベイ』射撃開始!」
第1タフィ群に所属している他の護衛空母の動きが報告され、このタイミングでやっと「ガダルカナル」の艦首が右に振られ始めた。
「ジュディ10機以上『セント・ロー』『マニラ・ベイ』に急降下!」
「ジル来ます! 約20機!」
敵艦爆が「セント・ロー」「マニラ・ベイ」に一斉に急降下を開始し、「ガダルカナル」には多数の艦攻が殺到してきた。ジルが腹に抱えている航空魚雷は2本喰らえばエセックス級正規空母の足を奪うほどの威力を持っている。1本も当たるわけにはいかなかった。
「ジル1機撃墜、また1機撃墜!」
見張り員が歓声混じりの報告を上げ、対空射撃が戦果を上げる度に乗員が拳を天に突き上げる。ジルと「ガダルカナル」との距離が縮まってくるにつれて機銃群が戦果を上げ始めたのだろう。
僚機が次々に間近で撃墜されているが、引き返すジルは1機もいない。残存全機が海面に張り付かんばかりの低高度で「ガダルカナル」を肉薄にしてくる。
「ジル更に2機撃墜! 『トリミング』の戦果です!」
「ガダルカナル」だけではなく、周囲に展開している護衛駆逐艦の対空砲火もジルを搦め捕っていく。「ガダルカナル」も急速転回しながら高角砲・機銃を撃ちまくる。
後方から爆音・一拍置いてけたたましい破壊音が鳴り響いた。
「『セント。ロー』被弾! 爆弾命中の模様!」
「『トリポリ』被雷! 右舷に大きく傾いています!」
日本軍機の俊敏に機動に対して2隻の護衛空母が被弾・被雷してしまったのだ。特に被雷した「トリポリ」は飛行甲板の縁が既に海水で洗われようとしており、艦内では総員退艦が下令されているようだった。
「ジル1機撃墜!」
「ジル投雷! 数本命中コースです!」
「ガダルカナル」が護衛の駆逐艦と共同で5機のジルを撃墜した所で残存のジルが投雷し、機体を滑らして離脱していった。
「ガダルカナル」を追跡するように多数の雷跡が殺到してきた。
「雷跡2本右舷通過! 同3本左舷通過!」
「かわせるか?」
ビリーがそう考えたとき悲劇はやってきた。
「・・・!!?」
「ガダルカナル」の腹を蹴り上げるような衝撃が「ガダルカナル」を襲い、護衛空母の薄い装甲が軋むような音をあげた。衝撃で艦がバラバラになってしまうのではないかという程だ。
衝撃は1度だけではない。合計3回だ。
「ダメージ・コントロールチーム復旧作業いそ・・・」
衝撃によって艦橋に打ち倒されたビリーは艦を救うために指示を出し始めたが、その時には既に全てが終わっていた。
燃料タンクと弾火薬庫の2カ所から誘爆が始まり、「ガダルカナル」の艦は前後に断裂しつつあったのだった・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます