第100話 両軍大混乱

1945年6月5日



 日本軍第1次攻撃隊の250機もの攻撃機の投弾・投雷を一時に叩きつけられた米艦隊第1群は大混乱に陥っていた。


「司令官、艦隊の複数の艦から救助無電が盛んに飛び込んできています!」


 艦の後部から凄まじいまでの火災を噴き上げ、視界が極めて悪い状態となっている第1群旗艦「ホーネット2」の艦橋で、自らも負傷し、頭に包帯を巻いている第1群司令官のJ・J・クラーク少将は報告を無言で聞いていた。


「爆弾1発、魚雷2本命中。艦大傾斜、救助求む!」


「艦橋に敵攻撃機1機突入。艦長戦死、消火援助頼む!」


「沈防空母からの乗員を収容しきれない。応援頼む!」


「爆弾3発命中! 艦が前後に断裂した! これより総員退艦する!」


 このような絶叫に近い無電が次々に飛び込み、艦隊全体の混乱は暫く収まりそうになかった。クラークは第1群の司令官としてその対応を迅速に行わなければならない立場であったが、艦隊の被害が多すぎるせいでどこから手をつけていいかが分からなかった。


「取りあえず艦隊の外周に展開している駆逐艦の中で敵の攻撃が命中してしまった艦の手当と沈没艦の乗員を引きうける艦を選別することが最優先です」


 呆然としているクラークの姿を見かねた参謀長がクラークに力強い声で意見具申をした。参謀長も当然今のこの状況を憂慮しており、ここから立て直すためにはクラークにしっかりしてもらう必要があると考えたのだろう。


「うむ、参謀長の言う通りだ。被弾・沈防確実の駆逐艦にはそれぞれ健全な駆逐艦1隻ずつをつけて、消火と総員退艦の手伝いをさせよ。艦隊外周に展開している駆逐艦には迎撃戦で墜落し、拾われた戦闘機パイロットが多数乗っているはずだから漏らさずに拾い上げろ!」


 参謀長の意見具申によって幾分か覇気を取り戻したクラークが参謀長に方針を伝えた。


「そして沈没が確定している『フランクリン』の乗員は防巡1隻・・・、いや2隻で引き受けろ。あと本艦と『ランドロフ』の大火災の消火を促進するために艦隊速力を一時的に10ノットまで落とすぞ」


 クラークが出さなければならない指示を全て出し終わった。


 ちなみに日本軍の第1次攻撃隊によって第1群が被った損害は以下の通りである。


沈没 エセックス級空母「フランクリン」

   アトランタ級軽巡「ヒューストン」、駆逐艦4隻

大破 エセックス級空母「ホーネット2」「ランドロフ」、駆逐艦3隻

中破 防巡1隻、駆逐艦1隻

小破 駆逐艦2隻

艦隊防空戦によってF6F58機喪失


 このような損害の中で特筆すべきなのはやはりエセックス級空母「フランクリン」の沈没であろう。エセックス級空母はトラック沖海戦で「ヨークタウン2」が、第2次マリアナ沖海戦で「エセックス」が撃沈されており、この「フランクリン」で沈没したエセックス級は3隻目となる訳だが、これほど海戦の序盤で撃沈されたエセックス級は「フランクリン」が初であり、艦隊の全乗員に衝撃を与えていた。


 米艦隊第1群に所属するエセックス級空母が全て戦列外に去ったことで米艦隊は航空戦力の4分の1強から3分の1弱ほどを失ってしまっており、今後も戦いの見通しが大幅に狂ってしまっていた。


 このような状況下でクラーク司令部は必死の復旧・救出作業を開始した訳だが、救助が間に合わなかった艦もあった。


「駆逐艦1隻レーダーから消えました。まだ総員退艦は完了していないと考えられます!」


「くっ・・・」


 救助作業が開始する前に駆逐艦1隻が海面から完全に消えてしまった。おそらく先程無電にあった艦が前後に断裂してしまった艦であろう。


 そして・・・


「『フランクリン』横転します! かなりの数の乗員が艦外への脱出に成功したようですが詳細は不明!」


「救助艦に指定した防巡2隻を『フランクリン』が沈没した海面に向かわせろ。艦外に脱出した乗員には出来るだけ艦から離れるように伝えろ」


 エセックス級のような正規空母が沈没・横転したときには艦内に存在している格納庫などの空間が海水を多く流入させる。その流れに乗員が巻き込まれないようにするためにこのような指示をクラークは出したのだ。


 第1群の復旧・救助作業は始まったばかりであり、終わりの見通しすら立てることが出来なかった・・・。



 米艦隊第1群が必死の復旧・救出作業に勤しんでいた頃、米軍の第2次攻撃隊によって防空網の一部を食い破られてしまい、台南に存在していた3カ所の飛行場の内、1カ所を完全破壊、もう1カ所を半壊まで追い込まれてしまった陸軍飛行部隊も大混乱に陥っていた。


「第1次の迎撃戦に参加した機体の燃料がそろそろ切れる。健全な第2飛行場に優先的に着陸させろ。あと、迎撃戦によって搭乗員が負傷した機体や、機体に重大な損傷を負ってしまった機体も優先的に着陸させろ!」


 陸軍第10飛行師団司令官の遠藤三郎中将は素早く指示を飛ばしていた。


 第2飛行場の上空には既に燃料切れ直前の機体、損傷した機体が集まってきており、しばらく混乱した状況が続くのだった。


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霊鳳より











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