第79話 再激突

1944年12月



 空母11隻。


 米軍が今度こそマリアナ3島の攻略を成功させるべく集められた戦力だ。


 空母の種類の内訳は正規空母エセックス級9隻、軽空母インディペンデンス級2隻、総搭載機数は990機となっており、マリアナ沖海戦で3隻の空母を失い、艦載機も著しく損耗した日本軍機動部隊の戦力を大幅に凌駕することは確実視されていた。


 米太平洋艦隊司令部は日本側の空母建造状況を日々分析しており、日本側も空母を3、4隻程度増勢してくると見積もられていたが、そのいずれもが飛龍ヒリューの船体構造を真似たような戦時量産型だと判明しており、その搭載機数も60機程度だと考えられていた。


 エセックス級はこれまでのトラック沖海戦で1隻、先のマリアナ沖海戦で1隻が撃沈されていたが、軽空母のインディペンデンス級よりもはるかに生残性が高いと評価されており、さらなる建造の促進が決定されていた。


 1944年12月25日、クリスマスの日の午前に米機動部隊(第5艦隊)はマリアナ諸島近海に再展開した。


 真珠湾近海に展開していた伊号潜水艦からの報告によって、日本海軍・GF司令部も米大艦隊が再度のマリアナ攻略に取り掛かろうとしていることに気づいたが、初動が遅れたこともあって、第1機動艦隊のマリアナ到着は25日の夜になる予定であった。


 つまり、マリアナ3島に展開している陸海軍の基地航空隊が第1機動艦隊が到着するまでの約1日間、米艦隊の猛攻を受け止めなければならなくなったのだ。


 25日午前9時30分、米機動部隊第1次攻撃隊が発進し、2回目のマリアナを巡る日米の攻防戦が始まったのだ・・・



「F6Fが押されている・・・?」


「レキシントン2」艦爆隊に所属していた搭乗員は一様に同じ思いを持った。


 約1時間前、空母11隻の飛行甲板から勇躍出撃していった第1次攻撃隊はグアム島の稜線が見えたところで敵陸軍機と思われる戦闘機隊に襲われた。


 攻撃隊に随伴していたF6Fが直ぐさま編隊から分離し、敵戦闘機隊から艦爆を守るべく敵戦闘機隊に攻撃をしかけたが、被弾・墜落していく機体は明らかにF6Fの方が多い。


 これまでの戦いよりもケツを取られているF6Fが多いように感じられる。日本軍は鍾馗よりも高速の新型機を新たに戦線に投入したのだろう。


 付近にいたF6Fをあらかた掃討し終えた敵新型機が艦爆隊に襲いかかってきた。


 ヘルダイバー各機が機首の固定機銃、後ろの旋回機銃で懸命に応戦するが、ヘルダイバー各機の懸命の反撃を嘲笑うかのように敵新型機がヘルダイバーを肉薄にし、機銃弾を叩き込んだ。


「・・・!!」


 ヘルダイバーの搭乗員は乗機の墜落を本能的に覚悟したが、予想に反して墜落していくヘルダイバーの機数は少なかった。


 敵新型機は零戦ジークが搭載している20ミリ機銃よりもいくらか威力の劣る12.7ミリ機銃を搭載しているのだろう。


 しかし、速力は明らかにジークを上回っている。ジークより50キロメートル/時は速いのではないかというほどだ。


 反転してきた敵新型機の機首が燦めき、一拍置いてヘルダイバー群に機銃弾が殺到した。


 2度目の攻撃を喰らった「レキシントン2」の艦爆隊全18機の内、3機が相次いで墜落していった。


 再反転してきた敵戦闘機が3度ヘルダイバー群に襲いかからんとするが、今度は辛うじてF6Fの妨害が間に合った。


 敵新型機の上から覆い被さるかのように襲いかかったF6Fは自慢の12.7ミリブローニング機銃を投網にようにぶち込んだ。


 不意を突かれた敵新型機2機が跡形も無くなるくらい木っ端微塵に飛び散り、1機が高度を大幅に落として戦闘空域から離脱していった。


 一進一退の攻防を続けながらも米軍の第1次攻撃隊は攻撃目標のグアム島の滑走路を視界に捉えつつあった。


 10分後、敵新型機、その後襲ってきた鍾馗の猛攻を凌ぎ切ったヘルダイバーが滑走路に対して急降下を開始し、滑走路に爆炎が立ち上った。



 米軍の第1次攻撃隊が攻撃を仕掛けつつあった頃、日本軍の第1機動艦隊は硫黄島の北の海域で最後の洋上補給をしている最中であった。


「グアム島に対する攻撃が始まったようだな」


 第1機動艦隊司令長官の山口多聞中将が旗艦「大鳳」の艦橋で現状把握に勤しんでいた。


 10分前、陸軍の第8飛行師団が全部隊宛に報告電を送った。


「敵戦爆連合編隊約300機来襲するも、敵約80機を撃墜し、滑走路の損害も軽微なり」


 この報告電を聞く限りには、マリアナ諸島に展開している基地航空隊は善戦しているという事が分かるが、今後の戦況の推移しだいではどうなるかは分からなかった。


 山口個人としては今すぐマリアナ諸島に飛んでいって戦闘に参加したい心境であったが、実際にはそんなことは出来ないので、今は艦隊司令官として「大鳳」の艦橋内に設置されている司令官用の椅子に座っている他なかった。


 山口はもじもじしている中でも空母「大鳳」を始めとする第1機動艦隊の各艦艇は着実に決戦海域に向けて歩を進めており、空気が少しずつピリついてきていた。

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