第73話 マリアナ1944⑧
1944年8月7日
スプルーアンスが部下の前でポーカーフェイスを保つことに苦労していた頃、日本軍基地航空隊・母艦航空隊の第2次攻撃隊が米第5艦隊第3群に殺到しつつあった。
「敵航空機は第1次と同じくらいか」
「レキシントン2」戦闘機隊に所属しているアンソニー大尉は空を見渡した。
今回の海戦では日本軍の連中は基地航空隊と母艦航空隊が歩調を合わせて攻撃してきているようであり、数の面でF6F迎撃隊を圧倒的に凌駕していた。
第1次攻撃隊の時には120機のF6Fが日本軍の攻撃隊を迎え撃ち、大いに奮戦し、敵航空機150機以上を撃墜するという戦果を挙げたが、全ての敵機を退けることは叶わず、米第5艦隊第4群は軽空母「ラングレー」「カウペンス」沈没、正規空母「バンカー・ヒル」大破の大損害を受けてしまった。
「第3群を第4群とは同じ目には絶対に合わせんぞ」
アンソニーは接近してくる敵大編隊に対して闘志を露わにした。
前方では既にF6Fとジークの戦いが始まっていた。ジークの妨害を掻い潜り、攻撃機を撃墜しようとするF6Fと、それを妨害しようとするジークが乱戦を開始しており、早くも被弾した双方の機体が機体の制御を失って墜落していっていた。
戦闘機隊の戦いはほぼ互角といったところだ。今回の海戦に日本軍は新型のジークを投入しているようであり、F4Fよりも格段に高性能のF6Fでも互角の空戦を繰り広げるのがやっとという状態になってしまっている。
アンソニーが注意深く敵編隊の動きを観察していると、敵編隊の前半分約100機の攻撃機が急加速した。日本海軍は攻撃隊の半数でこちらの空母群の護衛艦を無効化してから、残りの半数が本命の空母を叩くというさっきみたいな攻撃方法をもう一度行うつもりであろう。
「『レキシントン2』戦闘機隊長から『レキシントン2』戦闘機隊全機へ、我が隊は前方の敵機は全て無視して空母を攻撃して来るであろう後方の攻撃隊に狙いを絞る」
F6Fの機上レシーバーに隊長からの指令が飛び込んで来た。敵機の全てを迎撃することは到底叶わない今の状況下で隊長はあえて前方の敵を捨て、空母を攻撃してくる後方の敵機に狙いを定めたのだろう。
艦隊を守ることが使命の迎撃隊として、前方の敵機に攻撃されるであろう軽巡・駆逐艦といった中小艦艇の乗員には申し訳が立たなかったが、空母を守るにはこの方法しか無いのもまた事実であった。
「前方の敵機、4隊に分かれて急降下! 右側の軽巡、駆逐艦を狙いに定めている模様!!」
敵機の動きに関する情報がアンソニー機の機上レシーバーに飛び込んでくるが、既にアンソニーの意識はこれから空母に攻撃をしかけてくるであろう敵編隊の後方の敵機に集中していた。
敵機に狙われている事に気づいた軽巡、駆逐艦が反撃の対空砲火を打ち上げ、数機の敵機を瞬く間に撃墜してみせるが、米艦の激しい対空射撃をくぐり抜けた敵艦爆、敵艦攻が次々に投弾、投雷していった。
長大な水柱が艦体の右舷側に2本立て続けに昇った軽巡はひとたまりも無く沈没が確定し、短時間の内に実に4発もの250キログラム爆弾を小さい艦体に叩きつけられてしまった駆逐艦は真っ二つに艦体が断裂し、次の瞬間には海面下に消えていた。
味方艦が敵機の攻撃によって次々に撃破されていく中、アンソニー機を始めとする「レキシントン2」艦戦隊は敵機の本隊に突っ込んでいった。
敵編隊約200機の内、約100機弱が分離し、F6Fに挑みかかってきたが、アンソニー機を始めとする「レキシントン2」艦戦隊は動じること無く機銃をぶっ放した。
欧州戦線、太平洋戦線で幾多の敵機を葬り去ってきた12.7ミリブローニング機銃だ。
F6F1機当たり6丁を装備する12.7ミリ機銃から12.7ミリ弾がさながら投網のようにぶちまけられた。
アンソニーは向かってきた敵機の内、最低でも数機はこの一撃で撃墜する事ができると確信していたが、アンソニーの予想に反して火を噴く敵機は1機もいなかった。
「・・・!!」
アンソニーは思わず唸った。日本海軍主力戦闘機のジークは防御力が貧弱な機体として有名であり、本来12.7ミリ弾多数の命中に耐えられるような機体ではないからだ。
「速い!!」
次の瞬間、アンソニーは加速したジークの加速性能の高さに驚いた。F6Fが搭載している2000馬力級の高性能エンジンを積んでいなければこのような加速性能をジークに付与することは出来ないのではないかと思わせるほどだ。
ガガがっ・・・
不意にアンソニー機に打撃が襲い、アンソニー機が空中で大きく揺らいだ。おそらくアンソニー機の背後に回り込んだジークが射弾を浴びせたのだろう。しかし、F6Fの防御力はそんなにやわではない。アンソニー機は火を噴くことなく空戦を継続している。
「もらった!!!」
難を逃れたアンソニー機が再び機銃をぶっ放した。
ベテランのアンソニーが放った射弾は見事にジークの右翼に命中した。
ジークの右翼が裂け、浮力を一瞬にして失ってしまったジークは重力に抗うことが出来ずに墜落していった。
アンソニーはジークと戦う事を止め、攻撃機に狙いを絞った。
日本海軍の攻撃隊が狙っているであろう第3群までの距離は5海里を切っており、予断を許さないような状況であった・・・
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