第31話 灼熱の2日目②

1943年6月19日 トラック環礁



 米海軍の護衛空母から発進した160機からなる攻撃隊に後方から攻撃を仕掛けたのは東海林実少佐が率いる第22航空戦隊の零戦22機だった。


 東海林が率いていた第22航空戦隊は昨日の空戦開始時点で零戦50機の戦力を保有していたが、度重なる空戦によって損耗してしまい半数以上を失ってしまったのだ。


 しかし、東海林を始めとする22航戦の搭乗員の闘志は全く衰えることはなく、昨日と同様に迎撃戦に参加していた。


 22航戦の零戦22機は最初の一撃で1機も失うこと無く、見事にF4F3機を撃墜した。だが、その代償として敵戦闘機30機程に後方から追撃されている状況だ。


「指揮官機より全機へ。上昇して敵機を引き離す!」


 東海林が22航戦全機に命令を出した。


 東海林の命令に従って22機の零戦が敵機を引き離すべく上昇を開始した。F4Fよりも零戦の方が上昇速度が速いため東海林はこの機動が最良だと判断したのだ。


 案の定、零戦のバックミラー越しに見える敵機の姿は少しずつではあるが確実に小さくなっていった。


 零戦隊が高度5000メートル付近まで上昇したとき、敵機の姿は小さい点となっていた。22航戦の零戦は敵機を引き剥がす事に成功したのだ。


「再び右下方の大編隊に急降下をかける! 今度は艦爆を狙え」と東海林が新しい指示を出した。


 今度の急降下はさっきの急降下とは違い奇襲攻撃とはならなかったため、敵編隊からの弾幕射撃に晒された。


 東海林機にも何発かが命中したが、幸いなことに全ての被弾箇所が致命傷を免れていた。東海林機のバックミラーに被弾・墜落していく僚機の姿が映ったが、東海林はそのようなことにかまうこと無く機銃の発射ボタンを押した。


 東海林の零戦から4条の火箭が噴き伸び、東海林が照準を定めていたドーントレスに殺到した。一瞬の内に多数の20ミリ弾、7.7ミリ弾を叩きこまれたドーントレスは木っ端微塵になって高空に散っていった。


 敵編隊が編隊を解き、22航戦の零戦隊と乱戦の形となった。乱戦となった後も東海林は自分の小隊2機(1機は昨日の航空戦で喪失)を率いて敵機多数を撃墜し、22航戦の他の零戦も大いに奮戦した。


 しかし、元々の数が22機VS160機と多勢に無勢だったという事もあり、22航戦の零戦は次々に撃墜され、残る機数は11機となってしまった。


 この時点で東海林は戦闘離脱命令を僚機に発しており、22航戦の零戦は次々に戦闘空域を離脱していった。


 東海林があと出来ることは、陸軍機の奮戦を期待することのみだった・・・



 海軍機が多数の損害を被りながらも多数の敵機と渡り合っていた姿は陸軍機の各搭乗員も全員見ていた。この時陸軍機の搭乗員たちの士気は極限まで高まっていた。


 昨日の夜に行われた夜間水上砲戦で海軍の砲戦部隊と潜水艦部隊が大いに奮戦し、陸軍機の飛行場に対する敵戦艦の艦砲射撃を阻止したことと、その過程で海軍部隊が多大な損害を受けてしまったこと、陸軍初の潜水艦が多大な戦果を挙げたことの3つが陸軍機の全搭乗員に伝えられたからだ。


 陸軍機の搭乗員は皆、

「海軍部隊の決死の奮戦に報いなければならぬ」

「同じ陸軍の潜水艦が戦果を挙げたんだ、こっちも飛行場を守り抜かなければならぬ」

というような思いを抱いて今日の迎撃戦に参加していた。


 約140機の敵攻撃隊が接近してきた。それに対して陸軍機は隼2型と鍾馗の数を合計しても80機程度しかいなかったが、全機がためらうこと無く果敢に突撃していった。


 80機の陸軍機は大いに奮戦し、20機以上を失ってしまったが、敵45機を撃墜した。しかし、飛行場に対する投弾を完全に防ぎきる事は出来ず、春島の飛行場は大破してしまった。


 その光景を見た陸軍機が更に奮い立ち、最終的には来襲した敵機の半数以上を撃墜した。



 ギブソンは敵戦闘機の激しい迎撃を何とかくぐり抜けて、飛行場に対する投弾を成功させたことに一定の安堵感を感じていた。


 ギブソンが率いていた攻撃隊は、トラック環礁から離脱する時点で100機を大きく割り込んでしまっていたが、本来の任務外の事をしっかりと成し遂げたという事に関してギブソンは満足していた。


 帰路のドーントレスの機上でギブソンとケインズは今後の事について話し合っていた。


「司令部からの情報によると、約30分前に護衛空母部隊から第2次攻撃隊100機が発進したそうだ」


「この攻撃隊がもう1カ所の飛行場を破壊して、残存機で構成された第3次攻撃隊が最後の1カ所を破壊するという流れですか?」


「多分そうなるな。俺もお前も今日中にもう一度出番があるぞ」


 ケインズは質問を重ねた。


「機動部隊の方の戦局はどうなっているのですか?」


「その事に関しては詳しく知らないが、午前8時の時点で護衛空母部隊が敵の索敵機に見つかったそうだ。近くに居た機動部隊も発見されていると見るべきだろうな」


「でも、日本軍の機動部隊も空母2隻を失っています。大規模な攻撃隊を出す余裕はないと考えますが」


「確かに、機動部隊単体で相手が攻撃隊を発進させる可能性は俺も低いと感じているが、昨日の薄暮にTF52に大打撃を与えた陸攻部隊と共同で攻撃を仕掛けてくる可能性は高いと考えている」


 このギブソンの予想が現実のものになるまで残り1時間を切っていた。





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