第16話 トラック戦雲③

1943年6月 ハワイ・オアフ島


 ハワイ・オアフ島の艦隊泊地におびただしい数の艦艇が集結していた。


 巨大な主砲を持っている戦艦、戦艦に次ぐ砲力を持ち艦全体のバランスがとれている巡洋艦、いかにもすばしっこい見た目をしている駆逐艦。


 さらに、その駆逐艦よりも小さい小艇などの船も多数が舳先を並べていた。


 新時代の主力となった空母は9隻を数える。


 1年前の時点でほぼ壊滅状態となっていた合衆国の機動部隊だが、米国の生産体制が頂点に達しようとしている現在、隻数、搭載機数共に日本軍の機動部隊を凌駕するまでになったのだ。


 そのいずれもがトラック環礁に展開している日本軍の基地航空隊、機動部隊を叩き潰すために集められた艨艟たちだ。


 艦隊名は第5艦隊


 司令官はウィリアム・ハルゼー大将


 第5艦隊旗艦「サウス・ダゴタ」にはハルゼーの旗艦であることを示す大将旗が翻っていた。


 現在、「サウス・ダコタ」の艦橋ではトラック環礁攻略作戦の最終確認が行われていた。


「では、これから対日反抗作戦の第1弾となるトラック環礁に対するスター・ゲイト作戦の最終打ち合わせを開始します。各々、お手元の資料を確認してください」とこの会議の司会役を務める第5艦隊参謀長のロバート・カーニー少将が会議の口火を切った。


「遂に、対日反抗作戦が始まるのか・・・」とハルゼーが感慨深そうに呟いた。


 ハルゼーは1年前のミッドウェー海戦の敗北を合衆国の誰よりも根に持っており、対日反攻作戦が始まることを誰よりも心待ちにしていた人物なのだ。(ちなみに、ハルゼーはミッドウェー海戦には参加していない。)


「まず、ここ数日にトラック環礁、マリアナ諸島に忍び込んでいる我が軍のスパイからもたらされた情報を共有していきたいと思います」とカーニーが話を続けた。


「1つめ、トラック環礁に展開していた日本軍の機動部隊は、トラック環礁に対して毎日のように行われるラバウルからの空襲に耐えかねたのか、1週間前にトラック環礁からマリアナ・グアム島の艦隊泊地に移動しました」


「2つめ、戦艦5隻乃至6隻を中心とした敵機動部隊とは別の艦隊が日本本土はら出撃し、この艦隊もグアムに入港した模様です」


「3つめ、トラック環礁に展開している日本軍の基地航空隊の総数は600~700機前後とのことです」


「2つ聞きたいことがある」と空母部隊(TF51、52)の指揮官であるダニエル・J・キャラハン海軍中将が発言の許可を求めた。


「どうぞ」とカーニーがキャラハンを指名した。


「私が聞きたいことは日本海軍の機動部隊の現在の戦力と、どのような順序で敵を撃破していくのかという事だ」


「現在の敵機動部隊の戦力は空母8隻前後で、総搭載機数は430機前後と思われます」


「撃破順は敵機動部隊と基地航空隊の各個撃破が理想ですが、日本軍に我が艦隊の攻略目標がばれている模様なので、遺憾ながら両者を同時に相手取る公算が高いと思われます」


 カーニーがキャラハンの質問に対して答えた。


「しかし、敵機動部隊と基地航空隊を同時に相手取った場合、日本軍の航空機の総数は1000機を超えるぞ」とキャラハンが懸念を表明した。


「トラックの基地航空隊に関してはラバウルに展開している海兵隊の重爆部隊に押さえ込んで貰えば良いだろう」とハルゼーが口を挟んだ。


 その回答を聞いてもキャラハンは納得しなかった。


「貴官に何か作戦はあるかね?」


 キャラハンの不満を感じとったハルゼーがキャラハンに発言の機会を与えた。


「トラックを攻撃する前にマリアナ諸島を攻撃して、敵機動部隊の意識をトラックからマリアナ諸島に引き剥がして、敵機動部隊にマリアナでの決戦を強いる作戦はどうですか?」


「マリアナ諸島(サイパン島、テニアン島、グアム島)にも日本軍の基地航空隊が150機程度展開しています。」


「TF51、52がこの部隊と戦った場合、負けることは絶対にないとしても戦力が多少削られてしまいます。本作戦(トラック攻略)前に戦力をすり減らすような作戦は本官は反対いたします」とキャラハンの提案に対してカーニーが反対の意を示した。


「TF51、52のどちらかの任務部隊のみをマリアナ諸島攻撃に用いる作戦はどうですか?」


 キャラハンはなおも粘った。


「それは、戦力分散の愚を自ら犯すような作戦案なので採用するわけにはいきません」


 しかし、この案もカーニーに拒否された。


 その時、一人の将官が手を上げた。


 上陸部隊(TF53)を指揮するトーマス・C・キンケイド中将だ。


「上陸部隊の護衛空母(全10隻)が搭載している航空機も航空戦に投入するというのはどうかね」


「本来、護衛空母の搭載機は上陸支援などの任務の時に使う物だが、この案がベストだと私は考える」


「護衛空母の搭載機が損耗した場合、上陸時の支援が手薄になってしまうのではありませんか?」


「その時は、上陸支援の任務をTF51、52に肩代わりしてもらえばいいだろう」


「なるほど、そういうことなら私は良いと思います。長官はキンケイド中将の提案に対してどうお考えですか?」


「俺もキンケイドの提案に賛成だな」とハルゼーは答えた。


「会議出席者の方々も賛成ということで良いですか?」とカーニーが改めて確認を取った。


 出席者全員が頷いた。


「では、この話は終わりとして、次の話に進ませて頂きます」とカーニーが言った。


 こうして徐々に日本軍を叩き潰すための作戦が煮詰められて言った。


 日米激突の瞬間はもう目前に迫っていた。


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