第五話 〝生きえべすさま〟を歓待せよ
誰も彼もが似た顔で、判別などつかないが、動きは飛び跳ねるがごとく
青年はそのさまを楽しそうに
表情を殺した藍奈に酒をつがせていた。
まるで戦前の
「〝生きえべすさま〟、さあ
「こちらの刺身に
「〝生きえべすさま〟」
「〝生きえべすさま〟」
「ダーガン、ヒュードラ、ドッコイショー」
「ダーガン、ヒュードラ、ドッコイショー」
女たちが、男たちが、こぞって押し寄せ。
奇妙なかけ声とともに、手に持った魚を、野菜を、酒を、肉を青年へ
〝生きえべすさま〟としか、呼びはしない。
「楽しいなぁ、楽しいなぁ、本当に天国みたいだ。男に女の舞い踊り。竜宮城はここにあったのか、なんて……藍奈さんも、そう思うだろう?」
「…………」
「藍奈さん……」
酒に、場に、女に酔った勢いで、青年は藍奈を抱き寄せるも、つれなく身を
こんな宴会が、もう十日も続いている――
§§
「ぼくはねぇ! 生きてるのが
数時間後。
酔い潰れた青年は、藍奈の
ゲロの代わりに吐き出されるのは、彼が半生でため込んだとも思わしき
「人間ってのは、
「
「ほら、そうやって耳を傾けてくれるのは藍奈さんだけだ……女神さまだけなんだ……ぼくがなにを言っても、パワハラで心が
まるで藍奈が善意でやっているような口ぶりだが、バイトの延長線上だから付き合っているに過ぎない。
金銭が発生しなければ、とっくの昔に青年の鼻っ柱は潰されていただろう。
しかし、そんなことは
もうほとんど、時系列がめちゃくちゃな話だった。
「恋人にも口ばっかりだってフラれて――あいつは他に男がいたんだ。仕事を
「それで、どうしましたか」
「海へ……海へ、飛び込んで、じ――自殺しようとして」
この辺りの海域は、特殊な地形ゆえに、
一度飛び込めば、決して浮上できない自殺の名所という
「生き延びてしまった、と」
男はこくりと頷き。
それから
「藍奈さんは、だから女神さまなんです。ぼくは海の中を
「地獄、ですか」
わずかに、藍奈の眉が動いた。興味を持った様子だった。
けれど青年は気がつかない。ただ思うまま、アルコールが導くままに、乱れた言葉を口にする。
「ぼくを馬鹿にしたゴミどもが落ちる地獄ですよ。いっぱい
バネ仕掛けのように
「ここではぼくが正義です。ぼくこそが女神さまにふさわしい神です! 誰もぼくに逆らわない、みんなぼくにこびへつらう! ここが天国でなくて、なんだって言うんですか……!」
言い放つなり、青年は
割れて砕ける酒の
流れ出すのは血液
しかし不気味なほど、住民たちは顔色を変えなかった。
ただニコニコと、青年を見守っているだけだった。
「どうですか!」
青年は再び
そして、そのままぶっ倒れた。
倒れて、満足そうな寝顔をみせる青年を見下し、巫女は一言。
「
と、口にするのだった。
§§
「我々の行動が不思議に思えましたかな?」
奇妙な
ぎょろりとした目に、
皮膚病でも
「えっと」
記憶を探る。
見覚えがあった。
「町長さん、だよね?」
「この街には、
来訪神?
「外から来たものをもてなすと、富を
「…………」
「とかく、我々はそんなお
町長さんは、屋敷の方をチラリと
「きっと、我々の
なんとも薄気味悪く、笑うのだった。
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