最終話 魔王ワタル
その日、人類最後の都は魔族の手に落ちた。生き残った人類は魔族の下で農民人民としての生活を行うことになった。
未だに人類の意識に強烈に刻まれた反魔族の敵意がいつ噴き出すかはわからないが、人類根絶案は魔族の上層部からも野蛮極まりない行為だと激しく非難されたこともあって、当面の間はこの状態が続くだろう。
世界が魔族の手に渡ってから3ヶ月後。戦地から魔都アーティエリに帰還したワタルを待っていたのは……。
「うぅ……戦場より緊張するなぁ」
鏡に映るのは純白のタキシードをまとったワタルの姿。
「ワタル殿、シェラハ様の準備が整いました。控室までお願いできますか?」
次いで儀式用の礼服を着たガイの姿が『新郎』の控室に入ってくる。ワタルはそれに従い部屋を出た。
「しっかし、シェラハは1人っ子だから
「ご安心を。ご成婚後は王にふさわしいよう知識はもちろん、教養や礼儀作法なども漏れなくお教えいたします。
なに、現国王陛下は軽く20年以上は現役を続けるおつもりですから、時間は十分にありますよ」
「ははっ。その辺は抜かりなしってやつか……」
そんなやり取りをしながら『新婦』の控室へと入る。
そこにいたのは純白の衣装をまとったシェラハ。翼こそないが、天使のような美しさだった。
「ワタル……どお? 私、キレイ?」
「あ、ああ。キレイだよ。すごくキレイだ」
その美しさにそれ以外の言葉が出なかった。
「行こう。みんなが待ってる」
「……うん」
彼女は少し顔を赤くしつつそう答えた。
「ところでいいのか? 俺は「予言の子」とはいえ人間なんだぞ? 種族が違うんじゃいろいろと問題起きそうな気がするんだけど……」
「大丈夫よ。あの勇者ミヤモトを倒したんだから武勇はバッチリだし、それに……あれだけの苦しみを知っている人に悪い人なんていないよ。
ホラ、覚えてる? チキュウでの話を聞かせてくれって頼んだ時にワタルが教えてくれた話。あんな経験をして生きてきた人は悪い事なんて思いつかないよ。
私は姫君だからいつかどこかに嫁に行かされるとは思ってたけど、その相手がワタルで本当に良かったと思ってる」
「そうか……俺もシェラハと結婚できるのなら良いなとは思う。結構な美人だしな……お世辞じゃなくて本当にそう思っているからな」
「ふふっ。ありがとう……さぁ着いたわ。行きましょう」
2人は結婚式場への入口になる扉を開けた。
式は国の
指輪の交換、誓いのキス、司祭による祝福。地球の結婚式にも似たそれらを終えると堅苦しい儀式は無事に終え、少しはリラックスできる披露宴となった。
「「此度のご成婚、まことにおめでとうございます」」
「ガイ、ロク、ありがとう」
儀式用の刺しゅうが施された軍服を着用したガイとロクの2人がシェラハを祝福する。彼女が幼いころからの仲だったので「年の離れた兄2人」から言われたように嬉しかった。
「やぁワタル。シェラハと結婚するからには婿入りで俺の息子となるな。なぁに安心しろ、20年ほどかけて1人前の王になれるようビシビシ指導していくからな。
それと、出来るだけ早く孫の顔が見せてくれよ。女房が流行り病で早死にしてしまったせいで家族が増える喜びはシェラハの分しか味わえなかったからな」
「ハ……ハハ……」
義理の父親と来たらずいぶんとでかい重しをつけようとする。苦笑いしか出ない。
「大丈夫よ。お父様はあなたが義理とはいえ息子になるのを誇りに思っていたから嫌ってるわけじゃないわ。むしろ好印象を持ってると思っていいわ」
「そうかぁ?」
シェラハがフォローを入れる。
「そうよ。お父様は褒めるのが下手だからあんな口調になるだけで内心はすごく喜んでると思うわ」
まぁ、彼女の事を信じよう。ワタルはそう思った。
披露宴も無事に終わり、1夜が明けた。
「う~……おはよう」
昨夜は『こってり絞られた』ワタルが気重そうにベッドからはいずり出る。
「今日から俺は王様候補ってやつか……『魔王ワタル』ってとこかな。でも本当に俺が魔王になることで魔族の世界が来るのかなぁ? 俺が居なくても十分魔族の世界になってるでしょ?」
「私は伝説とか言い伝えはあまり信じないほうだけど、戦中は大活躍できたから間違ってはなさそうよ。それに『魔王ワタル』ってのもなかなか決まってるわよ」
「そうかぁ?」
「そうよ。私が言うんだから間違いないわ。じゃあ魔王になるための授業、頑張ってきてね」
「分かった。行ってくるよ」
その後、ワタルは王となり魔族の世となった世界で国王として国の発展に尽力し、大いに栄えさせた。後の世は優に4000年を超す魔族繁栄の時代が来るのだが、それは別のお話。
【次回予告】
世界最難関の
その中の一人、ボイドは初めて入った
「ハズレスキル「会話」は実はダンジョンと会話して仲良くなれる最強スキルでした」
第1話 「伝説の冒険者と同じスキルを持つ者」
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